世界各地のウラン鉱山を5年にわたって撮影したドキュメンタリー映画『イエロー・ケーキ〜クリーンなエネルギーという嘘』が現在日本で公開されています。原発の燃料であるウランを採掘する現場では、人体への放射線被害と環境汚染が広がっている??世界中で隠されてきた原子力産業の?欺瞞?を浮き彫りにするこの映画の監督、ヨアヒム・チルナーさんにお話をうかがいました。
ウラン鉱山から掘り起こされたウラン鉱石は工場に運ばれて精錬され、「イエロー・ケーキ」と呼ばれる鮮やかな黄色い粉になる。これが原子炉の燃料棒のもとになり、原発を動かしている。採掘や精錬の過程では、大量の放射性物質が放出され、地球環境を汚染するだけでなく、ウラン鉱山で働く人たちの健康を脅かしている。ヨアヒム・チルナー監督は、撮影拒否に遭いながら旧東ドイツ、ナミビア(アフリカ南西部)、オーストラリア、カナダのウラン鉱山を取材。採掘会社の支配人や労働者に話を聞き、これまでほとんど知らされなかったウラン採掘の現実を明らかにする。
2010年ドイツ/カラー/デジタル上映/上映時間108分/配給:パンドラ
1月28日から渋谷アップリンクで、2月18日から大阪シネ・ヌーヴォで公開。以降、全国で順次公開予定。お問合せは?03(3555)3987(パンドラ)まで。
??作品は、旧東ドイツ南部に広がる、ウラン鉱山跡地から始まります。今では脱原発を決めたドイツでも、ウランが採掘されていたのですね。
ドイツのウラン鉱山は、独露合弁会社のヴィスムートが所有し、1990年代まで採掘が続けられました。この企業は、かつて世界第3位のウラン生産高を誇り、そのすべてを旧ソビエト連邦に輸出していました。 私自身、東ドイツの出身ですが、ヴィスムートがどんな企業か知ったのは、90年代に入ってからでした。それまでは、軍事上の国家機密としてベールにつつまれていたのです。90年の東西ドイツ統一後、ヴィスムートはソ連との契約を解消。新政府はウラン鉱山を危険地域に指定し、ウラン生産の無期限停止を決定しましたが、問題はそれで終わりではありませんでした。 ウランを掘り起こすときには、粉塵に混じって放射性物質が舞い上がりますし、ウラン鉱石を精錬して原発の燃料である「イエロー・ケーキ」を作ったあとには、大量の放射性廃棄物が残ります。イエロー・ケーキ数グラムあたり、1トンもの放射性廃棄物が出るのです。 ドイツ政府の調査で、鉱山で働いていた数千人という坑員は肺がんのリスクが高いことがわかりました。また、鉱山は荒廃し、環境にも大きなダメージを与えていました。鉱山周辺には、今も放射性廃棄物が2億トンも積み上げられたままで、無数の"ボタ山"となっています。 鉱山の閉山後、ヴィスムートは放射性廃棄物の処理を担っていますが、放射線量が高いため作業は難航。終了予定とされる2020年にはとても間に合わないと言われています。処理費用に65億ユーロ(約6500億円)もの税金を使いながら、ドイツのウラン鉱山は先行きが見えないまま立ち尽くしているのです。
??そうした事実は、これまでどの程度、問題視されてきたのでしょうか。
私たちは、核開発の起点であるウラン採掘について、あまりにも知らなさ過ぎました。核の根絶を求める反対運動は、30〜40年前から続いてきましたが、原発や核兵器という?出口?の部分には反対しても、?入口?にあたるウラン採掘を問題視する声は少なかった。 ウラン鉱山で起きていることは、世界が向き合わねばならない課題です。当初は、ヴィスムートとドイツの歴史についての映画を撮るつもりでしたが、撮影が進むにつれ、決してドイツ固有の問題ではないことが分かりました。世界各国の原発の燃料は、遠く離れた地で採掘されていて、そこで働く人たちには命の危険が伴い、大量の放射性廃棄物は放置されたまま。こうした事態がまかり通っている背景に何があるかを知ってほしくて、映画を撮影しました。
??オーストラリアのウラン鉱山をめぐるシーンでは、採掘を拒否する先住民アボリジニに対し政府が「日本にウランを売る契約をした」と言って契約を迫ります。日本の原発が、オーストラリア先住民の犠牲の上に成り立っていたことを突きつける、ショッキングな一言です。
オーストラリア政府の圧力に負けて、アボリジニの族長・トビーさんはウラン採掘を認めざるを得ませんでしたが、88年に亡くなるまで契約書にサインしたことを後悔していたそうです。彼は、娘に「第2の鉱山を作るな」と遺言を託しました。娘は、契約破棄のための反対運動の先頭に立ち、鉱山は元の状態に戻されることになりました。 また、別の族長・ジェフリーさんは、契約に応じれば大富豪になれたにもかかわらず、採掘を拒否し続けました。ジェフリーさんは、「この土地から食べ物を得てきた。私たちはここで生きる。汚されない環境に生き、きれいな水が飲みたい」と語っています。彼らには、お金を人生の中心に据えない哲学があるのです。
??その一方、ウラン採掘を歓迎する地元住民の姿を本作では映し出しています。アフリカ南西部のナミビアでは「鉱山で働いているから、学校に行ける」と若い女性が語っていましたね。
ナミビア最大のウラン鉱山「ロッシング鉱山」では、およそ1300人が働いていて、彼らは現地では特権階級にあたります。女性も大勢含まれ、彼女たちは爆薬を使って鉱石を掘り起こし、トラックで運搬します。飛び散る粉塵には放射性物質が含まれていますが、自身の被ばく量は「よく知らない」と言います。 また、ロッシング鉱山の支配人は「新しい鉱床が2つ見つかったので、あと30年は採掘を続けてナミビアの経済を支えることができる」と胸を張りました。彼らは、放射能の危険性よりも、お金を重視しているわけですが、私たちはそれを批判することはできません。ウラン鉱山で働くことは、日々の暮しのための手段であって、鉱山の支配人は職責をまっとうしているに過ぎないのです。もし、ウランの採掘が行なわれないようになれば、彼らの生活の糧を奪うことになります。 問題はウラン産業に従事する人々ではなく、産業構造そのものにある。原子力産業が政界と経済界の癒着の上に成り立っている現実を、直視しなくてはなりません。
??日本では、「原発を止めたら、地元の雇用が失われる」とよく言われます。それが、原発を推進する理由にもされています。
一番大切なのは、原子力産業にまつわる様々なウソにごまかされないことです。原発を止めると雇用が失われる、エネルギー不足になる、コスト高になる、地球温暖化が進むなどと言われていますが、どれも原発によって莫大な利益を得ている人たちにとって都合のいい意見。ただの詭弁に過ぎません。 エネルギー政策を転換すれば、新しい雇用は必ず生まれます。再生可能エネルギーを促進すればそこで働く人員を確保しなくてはならないし、その前に原発を廃炉・解体するための技術者や研究者も必要になります。ドイツでは、20年前から古い原発の廃炉・解体に取り組んでいますが、まだまだ作業は終わりません。原発は絶対に壊れないという?安全神話?のもとで設計されているため、廃炉・解体の技術やノウハウが蓄積されていないのです。 日本では、「再生可能エネルギーを主要電力とすることは到底無理だ」という意見が根強くあるそうですが、なぜ決めつけるのでしょう。日本のような最先端の技術力を持つ国で再生可能エネルギーに舵をきる政治的な意思決定がなされたら、すぐに技術開発は進むはずです。ドイツを凌ぐ勢いで再生可能エネルギーが広がる可能性が十分にあると思うのですが。
??政治的な意思決定には期待したいところです。しかし日本の国会では、未だに今後の原発政策についてまともに議論されていません。
原発に限らず、あらゆる問題解決の局面で、こんなことが言えるのではないでしょうか。 ごく一般の日常生活である目標を決定したとしましょう。そのあとの対応は2つのパターンに分かれます。1つは、最初から無理だと決め付け、できない理由を自分で見つけてハードルを積み上げていく人。もう1つは、目標が正しければ必ず道筋が見つかると思って踏み出す人です。 今の日本政府は、前者であると言わざるをえません。もしも、福島の事故による被害がもっと東京に及んでいたら、日本政府も踏み出していたかもしれませんが、事故後の対応は行動しないためのハードルを積み重ねているように見えます。 私たち人類は、チェルノブイリを体験しました。フクシマも体験しました。もうこれ以上、ハードルを積み重ねている余裕はないはずです。原発は絶対安全でクリーンなエネルギーだと言われてきたことが、すべてウソだったことが露呈しました。ウラン鉱山で被ばくしながら働く人や、放射性物質で破壊されていく自然の背景にあるのは、巨額のお金。それを動かしている政治と経済の癒着構造に、私たちは数世代にわたって騙されていたわけです。 ドイツから来た私が、日本にアドバイスをするような口幅ったいことはできませんが、解決策はきっとあります。このまま行動せずにもっと危機的状況になるのを待つのか、目標に向かって歩き始めるのか、今、選択をする時期に来ていると思います。
(プロフィール)ヨアヒム・チルナー 1948年、旧東ドイツ生まれ。大学では美学と文化理論を専攻。75年に映画製作会社でドキュメンタリー映画の編集者としてキャリアをスタートさせ、80年から監督として映画製作に関わる。ベルリンの壁崩壊後の90年から91年にかけて、映画・テレビ連盟の代表を務める。91年に、自主製作プロダクションを設立し、環境をテーマにした作品を手がけている。
2012通販生活春号 今週のもくじ > 連載・原発国民投票のための勉強シリーズ・2/『イエロー・ケーキ』ヨアヒム・チルナー監督インタビュー
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