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連続講座「超高齢化社会を考える」(3)

どんな介護を望みますか?

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くさか里樹さん
講師
くさか里樹さん

くさか・りき (漫画家) 高知県高岡郡日高村出身。高校卒業後、1977〜80年まで通所授産施設に勤務。1980年に『ひとつちがいのさしすせそ』でデビュー。『あたしが伝説』『ケイリン野郎』『永遠の都』『書きくけこ』など著書多数。2003年から『イブニング』(講談社)で『ヘルプマン!』を連載開始。若者の目を通して福祉業界の現状や問題を描き、大きな反響を呼んでいる。

色平哲郎さん
講師
色平哲郎さん

いろひら・てつろう (内科医) JA長野厚生連・佐久総合病院 地域医療部 地域ケア科医長。東大理科一類を中退し世界を放浪後、京大医学部入学。1990年卒。佐久総合病院に勤務したのち、山村の診療所に出向。南牧村で2年、南相木村で10年、計12 年にわたり地域医療に取り組む。2008年から現職。著書に『大往生の条件』(角川書店)、『命に値段がつく日—所得格差医療』(共著、中央公論社) など。

日々、テレビや新聞で伝えられる超高齢化社会問題。医療・介護現場の人手不足や、財政難、一人暮らしの高齢者の孤立など、解決の難しいテーマは山積されています。そんななか、くさか里樹さん作の『ヘルプマン!』は、介護現場の実状を忠実に描きつつも、不思議と明るい気持ちにさせてくれます。長野県の山村で地域医療に携わる色平哲郎医師は、「これからの医療・介護に関するリテラシーを育てる教科書」と絶賛します。医療と介護、それぞれの視点をもったお二人に、これからの超高齢化社会のあり方を語ってもらいました。

くさかさん講演
自然のサイクルの一つなのに、なぜか「老い」は恐れられている

『ヘルプマン!』の連載が開始したのは2003年です。漫画業界全体として、介護をテーマにした作品はあまり例がなく、担当編集者とも「いつまで連載が持つだろうね?」なんて話していました。本来、漫画は疲れた日常のなかで夢を見るためのものですから、介護がどこまで読者に受け入れられるか予測がつかなかったのです。
ところが、一作目を出したら驚くほどの反響が寄せられました。小学生から80代の高齢者まで、老若男女を問わず、びっしりメッセージが書かれた読者ハガキがたくさん返ってきたのです。作品そのものへの感想というよりは、介護に対する日頃の思いを綴ったハガキが多く、みんな介護に無関心ではないんだな、と認識を新たにしました。
気になったのは、ハガキのメッセージのすべてが「不安」を訴えるものだったことです。歳を取ることや介護を受けることを、ものすごく恐がっているんですね。老いるというのは、人が生まれるとか育つとかと同じ自然のサイクルの一つなのに、とても不幸なことのように捉えている人が多いことが分かりました。

「介護は面白い!」が、この世界を見て初めに感じたこと

作品を描くにあたり、介護施設や在宅介護をたくさん取材しているのですが、現場は一般的に思われているイメージとは全然違います。在宅介護で大変な思いをされている方には叱られそうですが、「介護は面白い!」というのが、この世界を見て初めに感じたことでした。
『ヘルプマン!』の主人公・恩田百太郎は、高校を中退して介護の世界に入り、高齢者との関わりのなかで泣いたり、笑ったり、ほかでは得難い経験をしますが、実際の介護現場には彼のような若者が大勢いるんですよ。

一生懸命、おばあちゃんの入浴を介助して服を水浸しにした介護士は、「いっそ自分も入っちゃえ!」と、いっしょにお風呂につかって、湯上がりに2人でビールを飲み、気付いたらおばあちゃんの子守唄でうたた寝していた、なんて楽しそうに語りました。
ある福祉系大学の学生は、老人ホームの研修で「高齢者はただ死を待つだけだと思っていた“色めがね”が取り払われた」と言います。認知症のおばあちゃんを寝かせるためにベッドに連れて行っても、何度も何度も起きてくる。どうにも困って、自分も同じ布団で一緒に寝てみたら、おばあちゃんが急にハッキリした声で「あんた、どこからきたの?」と。学生が「県外から来ました」と返すと、「両親と離れてさみしいでしょう。私もさみしいのよ。お母さんおらんようになってしまって」と話し始めたそうです。認知症で会話がままならないように見えても心はあるし、今を必死で生きていることが伝わるエピソードです。
またある別の学生は、ボランティアで一人暮らしのおばあちゃんの家を掃除していて、押し入れから古い民謡のレコードを見つけました。レコードに針を落としてみると、寝室のほうから「ハァ〜ヨイヨイ!」と掛け声が聞こえてきた。重い認知症で寝たきりの状態だったのに、民謡を聞いて会話ができるようになったそうなんです。
介護現場には、こんなドラマのような話が山ほどあります。社会一般でイメージさている“かわいそうな人を集めてお世話してあげる3Kの職場”とは、だいぶかけ離れています。

介護の現場を借りて“普通の人間”の姿を描

よく、「どうして介護を描こうと思ったの?」という質問されますが、実は、介護を描こうと思ったことはありません。たった1つ、“普通の人間の姿”を伝えたくて、介護の場を借りているんです。
私はとても弱い人間で、漫画を描くのもつらい時期がありました。漫画の人気度は、読者ハガキの数で決まりますから、自分の価値が投票数で断じられるようで、常にビクビクしていました。でも一方で、私なりにいいところがあるのもわかっています。ある時、知人から「人と比較する人生は惨めだ」と聞いて、ハッとしました。いいところも悪いところもひっくるめて、雑多な存在なのが“普通の人間”。それを認めなければ本当に惨めだな、と気付いたんです。
介護現場は、そうした普通の人間の姿を、はっきりと見せてくれる場所ではないでしょうか。介護されている本人は「自分のために申し訳ない」と思っているし、家族は「もっとしてあげられないか」と悩んでいます。どちらも、相手を大切にしているからこその気持ちです。
でも、自分で自分のハードルをどんどん上げて、できないことに罪悪感を持つのは、美しいようでちょっと心配です。謙虚さは大切ですが、その行き過ぎが“介護は辛い”というイメージの根源になってしまいます。一生懸命やっているのだから、もっと自分を認めて、ほめてあげてもいい。それを『ヘルプマン!』で伝えられたら、と思っています。

私は、これからの超高齢化社会をけっこう楽観しているんですよ。みんなの弱いところもいいところも、認め合えるようになるんじゃないかなと期待しています。だって、大勢のお年寄りたちが、若者を無言で引っ張っていってくれるから。最近は幕末の志士のように、「もっとこうしたい!」と立ち上る介護従事者も出てきました。世間では「これからは心の時代だ」なんて言われるけれど、介護は自然に人の心を忖度できるようになる力があります。みんなが恐れるほど、悪くない時代だと思うんですよね。

色平さん講演
『ヘルプマン!』は孫がおばあちゃん孝行になるお薬です

「長野の善光寺からきた僧侶です」といったら、皆さんけっこう信じてくれるんですよね。私、見た目は坊主頭でお坊さんみたいですけど、実はお医者さんです。長野県の山村にある診療所で、10年あまり地域医療に携わってきました。
くさかさんの『ヘルプマン!』と出会ったのは、4年前のお正月。旅行先のタイで友人から、「バンコクで話題になっているコミック」と紹介されたのが最初でした。普段、コミックを読む習慣はありませんが、気になって手に取ってみると驚きました。日本の誇る漫画という手法で、近未来の日本社会を先取りしている。日本人全員に読んでほしいと思ったほどです。

先日、全国の市議会議長ら数百人が集まる会議で講演したとき、全員に『ヘルプマン!』の第8巻を配りました。この本はお薬です。孫やお嫁さんに渡しましょう。1週間後にはおじいちゃん、おばあちゃん孝行になりますよ、と言って。
また、共同通信で連載した文章でも、『ヘルプマン!』を取り上げました。第8巻はフィリピン人の介護士が日本で悪戦苦闘するお話で、主人公は最後に「おうちが一番。ファミリーが一番」と語ります。ほとんどがカトリック教徒のフィリピン人は、家族を大事にします。フィリピン人介護士の参入という介護制度の未来像を描きながら、家族の大切さを表現していることに感動し、大勢の人に知ってほしいと思いました。

日本の医療は国民皆保険があるから保たれている

日本は、世界一のスピードで高齢化が進み、海外からも注目されています。以前、WHO(世界保健機関)に呼ばれて講演をしたのですが、そこで世界中の医療・介護の現状を知ることにもなりました。改めて思い知らされたのは、日本の医療は国民皆保険制度があるから保たれているということです。皆保険が導入されて半世紀、今は保険証1枚でいつでも、どこでも受診できますが、世界にそういう国はほとんどありません。それどころか、医師のいない地域が当たり前のように存在しています。
日本の医療を支えてきたもう一つの要因は、あえて言いますが「アホな医者」がいることです。言葉は悪いけれど本当なんですよ。途上国の田舎から都会に出ると医師の給与は10倍、さらに先進国にいくと100倍になるというのが世界の相場ですから、皆こぞって欧米へ流れています。日本ではこんな給与格差はありませんが、それでも、日本の農山村に、給与は二の次という「アホな医者」がいないと医療サービスを維持できないわけです。
長年にわたり山中で医療をしてきた私は、その「アホな医者」の1人なわけですが、佐久病院では農民たちに教えられることがたくさんありました。
佐久病院は、かつて農村の医療提供体制が不十分だった時代に、農民がお金を出しあって作られました。「予防は治療に勝る」が合い言葉。「油や塩分を控えないとね」「このところ寒いから暖房を入れたらいいよ」と生活指導を大切にしています。
長野県は日本一老人医療費が低いことで有名ですが、要は医者があまり“直接的な医療”をしてはいないということです。それでも、平均寿命は世界一の日本の中でも長野は首位に近いのですから、医者は余計なことをしないほうがいいのでしょうね。

医者を名医にする秘訣は“AKA”

でも、最近はちょっと患者さんの権利意識が過剰になってきたように思えます。日本は救急車を呼べばすぐ来るし、医療水準も高い国ですが、あまりに気楽に呼びすぎたり、病気が治らないことを責めたてたりしたら、どんな医者だってイヤになりますよ。
テレビドラマに出てくる医者は見た目もよく、ブラックジャックの腕を持ち、綾小路きみまろの話術を持つけれど、そんな医者は存在しません。むしろ、高校生のときに、数学と物理と英語が得意だっただけで、コミュニケーションが下手な医者が多い。また、下手に商売上手な口のうまい医師も怖い。もちろん、すばらしい先生もいっぱいいるけど、医者に期待しすぎは禁物です。治らないものは治らないのですから。
本来、病気が治らないときに頼る存在は、医者ではなく僧侶ですよ。だから時々、袈裟を着て患者さんに会おうか? なんて……(笑)。
私は、人間関係を円満に長持ちさせるコツは「AKA=あてにしない、期待しない、あきらめる」だと思っています。医者に対しても同じで、私の外来では患者さんがドアを開ける前に「色平先生は、あてにしない、期待しない、あきらめる」と10回唱えているという噂もあるくらいです(笑)。 総じて医者は、世間でぶつかった経験が足りませんから、それでちょうどいいのです。私は長野にきて、農民たちから多くのことを教わりました。おじいさん、おばあさんが農作業しながら自給自足の生活をするのを間近で見たことで、「金持ちより心持ち」というか、医療の主人公は患者さんであることが骨身に沁みました。それを象徴する、一編の詩があるのでご紹介しましょう。

人々の中へ行き
人々と共に住み
人々を愛し
人々から学びなさい
人々が知っていることから始め
人々が持っているものの上に築きなさい

しかし、本当にすぐれた指導者が
仕事をしたときには
その仕事が完成したとき
人々はこう言うでしょう
「我々がこれをやったのだ」と
(『人々の中へ』—晏陽初、1893-1990)
佐久の住民は、自分たちの手で医師を育て、お金をかけなくても幸せになれることを自然に身につけてきました。山村で営まれてきた医療には、今後の日本社会が迎える超高齢化社会へのヒントがたくさんつまっているような気がします。

くさかさん×色平さん対談

●くさか 今日の対談のタイトルは『どんな介護を望みますか?』とありますが、まさに同じことを沖縄県で公演したときに質問されました。介護行政の方向性を見ると、自分で選べない状況が来るかもしれませんが、在宅でも介護施設でも、やっぱり家族や好きな人と一緒にいるのがいい。そうしたら生きていけると思います。

●色平 家族が看取りの中心だった時代は豊かでしたよね。長野の農村では、誰かがなくなるときも、医者はただの使われる存在でした。もし、今の医学生全員が2年間くらい農村医療を経験すれば、もっと患者中心の医療になるかもかもしれませんね。小さな村ですから高齢者の存在感も大きくて、地域で高齢者が亡くなると「一冊の本が失われた」と言われたものです。

●くさか 私、地域の力って万能だと思っているんですよ。最近、被災地の取材に行った時、現地の方から「最後の最後に残るのは地域しかない」と聞きました。街が壊れて何もなくなったときも、すぐに助け合いができるのはお隣の人や、地域の仲間です。みんなで手を取り合って生きるしかないとおっしゃるのです。
それから、今年、自宅のある高知県香美市の警察署から「香美ING大使」に任命されたのですが、そこのテーマも「地域の安全と、安全の向上のための防犯」でした。地域のコミュニティがしっかりしていると、防犯にも効果があるんですって。

●色平 地域は家族の集まりでもありますから、やっぱり強い。でも、家族は子どもが生まれて、育って、親元を離れてと変貌しますよね。同じように、地域も変貌していきます。かつての地域社会は、農業のための同作業がありましたから、自然な結びつきができていました。田んぼに水を引いたり、止めたりっていう作業ですね。今はそれがないから、ちょっと煩わしい人間関係になっています。自然な結びつきは薄れたけれど、お互いをしばりあう面は残っていて、やたら濃い関係性なんですね。一方で、都会は希薄すぎる。中間くらいをうまく作り上げることができなければ、防犯や防災も難しいかもしれません。

●くさか 確かに、地域のコミュニティを制度化して委員とか委員長を決めようとしても、いい結果にはならない気がします。

●色平 そう。お金では得ることができない関係性ですから、お互いを思いやる気持ちが必要です。長い友人でバングラディッシュ人の医師が言っていた“金持ちより心持ち”という言葉を思い出します。

●くさか “心の長者”という言葉もありますよね。『ヘルプマン!』で成年後見人を取り上げたとき、お向かいに住むおばあちゃんのことが煩わしいけれど、気になってしまう税理士の男性を登場させました。地域のコミュニティは大事だけど、実際には面倒に思うのが普通ですよね。私は、そういうところのある人が好きです。人の長所は、優しいとか面白いとか、けっこう似ていますが、欠点は本当に様々で、それがその人の持ち味になると思います。みんな欠点があるからぶつかることもあるけれど、そういう関わり合いがないと生まれない関係性もすごく多い。

●色平 山村医療なんて、まさにそうですよ。患者は医者に感謝しつつも、最初はなかなか受け入れない。私も一緒に農作業をして、酒を飲み交わして、ようやく信頼してもらえました。

●くさか ちょっと雑多な感じが、生きている面白さだと思います。失敗したりケンカしたりしてもいい。みんながもっと緩く、お互いを恐れずに向き合えるコミュニケーションが生まれるといいですね。

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