人生の失敗

 石田純一さん│不倫騒動で叩かれた僕が言うことではないかもしれないけど、元気でいるためにも色気は必要です。

人生の失敗 石田純一さん│不倫騒動で叩かれた僕が言うことではないかもしれないけど、元気でいるためにも色気は必要です。

ここ数年、不倫(疑惑)が発覚したことによってメディアや世間から指弾され、その地位を追われる著名人が多い。「不倫=人生の失敗」という構図だ。不倫がよくないのは当り前だが、当事者の全人格を否定するかのような行き過ぎた報道と世間の反応に違和感を覚える人も多いのではないだろうか。不倫をめぐる昨今の風潮をどう考えればいいのか。やはりこの人、石田純一さんに聞いてみたい。

取材・文 溝口敦(ジャーナリスト)

 石田純一さんといえば、「不倫は文化」という発言を思い浮かべる人が多いだろうが、実際は、そんな紋切り型の発言ではなかったという。少し長くなるが石田さんの著書『落ちこぼれのススメ』(光進社、2000年刊)から引用する。

「最初から不倫をしようとか、相手を騙してやろうとか、そんなことを考えているものは問題外だが、期せずして不倫をしてしまって、悩み、苦しみながら、一生懸命に自分の道を模索しているものはいるはずだ。そのとき、感じること、考えること、それが文化や芸術を生み出してきたのではないか、とぼくは思った。実際に、古今東西そういう苦しみのなかから多くの優れた文化や芸術が生まれてきた。そして、ぼくらは、そういう文化や芸術を享受してきた。これからもしていく」

 こうした発言を聞きとったスポーツ紙記者が「何が悪い? 不倫は文化 石田純一」と簡略化した記事を書いたことで、「不倫は文化」は今や石田さんの紹介に欠かせない惹句となってしまった。

 だが、この発言自体は今から21年も前、1996年のこと。その年10月、石田さんは写真週刊誌『FOCUS(フォーカス)』(新潮社、01年休刊)にファッションモデルとの不倫をすっぱ抜かれ、メディアを賑わせた。騒ぎが一段落した頃、ゴルフコースに出たときに記者に直撃され、とっさに弁明したわけだ。翌97年8月、またも『FOCUS』に同じ女性との交際を報じられ、石田さんはテレビ番組やテレビCMを降板する破目になった。

 今あらためて不倫問題で石田さんに登場願うのは “文春砲”などと、なにかと不倫を暴き、それで著名人を失脚させる昨今のメディア状況は「いかがなものか」と思えるからだ。

 とはいえ、筆者自身はスキャンダリズム大いに結構と考えている。権力を持つ者に醜聞をぶつけ、ダメージを与えられるなら、いくぶんか溜飲も下がろうというもの。ただこうした場合、メディアが叩く対象とするのは、国民の税金で飯を食っている人、つまり国会議員や地方議員、中央省庁や地方自治体の役人、天下り団体の幹部などに限るといった不文律がある。

 要するに公人に対しては、下半身問題を含め、たいていの報道が名誉毀損には当たらないと判断される。真実と信じるに足る状況があれば、裁判で記事の公共性、公益性が認められやすいのだ。しかし、芸能人やスポーツ選手などは税金でご飯を食べていない。にもかかわらず、醜聞を書き立てられるのは、人気商売だからだろう。「その者が青少年に多大な影響を与える立場にあり、よき手本となるべきところ、かかる不祥事を起こし……」といった理屈がよく並べられる。一種の〝有名税〟だから、多少の非難は我慢せよ、ということなのだろう。

 しかし、日本に姦通罪がない以上、不倫は私事である。他人がとやかく口を挟む分野ではない。他方、逆に不倫報道が常態化して、確実にダメージを与える狙撃銃として使われるのは嫌な感じがする。不倫報道が政治的な思惑を込めた「手段」になっているのだ。

 理屈はともかく、石田さんの話を聞こう。

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5歳の時の石田さん。お姉さんと
5歳の時の石田さん。お姉さんと(写真は石田さんの提供。以下クレジットのないもの同)。

 石田さんは1954年、東京生まれ。大学在学中に結婚し、一子、いしだ壱成さん(俳優)が生まれた。その後渡米して演劇を学ぶが、渡米中に妻から別かれ話が持ち出されて離婚。帰国後、下積みを経てNHKのドラマ「あめりか物語」で俳優デビューする。

 88年、女優の松原千明さんと再婚し、すみれさん(モデル、女優、歌手)をもうけた。この結婚生活中に前記の不倫騒動があり、結局は松原千明さんとも離婚、8年あまりつき合った女性とも別れた。

 そのころ石田さんは3億円ぐらい年収があったという。しかし、不倫騒動がたたって、その後約8年間、沈滞を余儀なくされた。

いしだ・じゅんいち
1954年、東京都生まれ。NHKドラマ「あめりか物語」で俳優デビュー。以降、「抱きしめたい!」(88年)、「君の瞳に恋してる!」(89年)ほか多数のドラマや映画に出演。現在、「おはよう朝日です」(朝日放送、毎週水曜6時45分~)にレギュラー出演中。2015年より法務省矯正支援官に就任。

3歳の時に父親の仕事の関係で渡米し、6歳まで過ごした。写真は当時暮していたワシントンDCで家族と。
3歳の時に父親の仕事の関係で渡米し、6歳まで過ごした。
写真は当時暮していたワシントンDCで家族と。
早稲田大学在学中の石田さん。
早稲田大学在学中の石田さん。

石田 実際に厳しかったのは最初の1年ですけど、収入が多かったときの翌年に請求された区民税や都民税がすごく大きい額だったんです。いろいろなところに行って頭を下げて、税金を8年間に分割して払いました。収入は10分の1ぐらいに激減し、半年ぐらいは表に出ることもできませんでした。

 いわば不倫がたたって、蟄居の状態に追いやられた。

石田 そうですね。損害といえばテレビCMもなくなったし、『スーパーJチャンネル』という夕方のニュース番組のMC(司会役)も降板しました(97年3月〜98年4月まで出演)。降板した時点のギャラだけでなくその後の契約分も含めると、失った金額は30億円ぐらいだと思います。「30億の恋」だったのかなという感じです(笑)。

 金額的には想像を超える大きな「人生の失敗」だった。「不倫は文化」発言は、記者の質問に対して、自分としては異議申し立てをしたという気持ちがあったのだろうか。

石田 結婚生活をうまくやっている人は偉い。しかし、自分は自分らしく、やむを得ない、という気持ちもありました。

 では、当時の妻・松原千明さんとの関係はもうすでに崩れていた、家庭はブロークン・ファミリーになりつつあった?

石田 その時点では、そうでもないんですよ。ただ、「不倫は文化」発言以降は、娘が小さかったのに、記者が家にまでやって来て「お父さんいらっしゃいますか」とやられた。そうした状況を娘が非常に怖がるようになってしまい、申しわけなかったと思っています。

 石田さんの著書『落ちこぼれのススメ』や『マイライフ』(幻冬舎、06年刊)を読んで、一読者として感じるのは、不倫騒動のとき、石田さんは松原千明さんとの結婚生活をすでに諦めていたのではないか、ということだ。

石田 いずれにしても、最終的に僕が三行半を突きつけられたんだと思いますが、決定的だったのは娘の小学校受験でした。
都内の附属小学校なんですけど、一次試験に受かって、父母面接の際、校長先生にこう言われました。「最初にお伺いしたいのは『不倫は文化』というのはどういう意味ですか」と。その瞬間、横でガクッと音がしたと思うぐらい松原さんが俯いた。彼女からすれば、かわいい娘が受験のときに、バカな夫が不倫をして子どもにも迷惑をかけた、と。たぶん、あの面接のときに彼女の心の「突っかい棒」が外れてしまったのだと思います。

 その後、松原さんとすみれさんはハワイに移住した。石田さんの本を読むと、どうも石田さんは、「男前の女」に惚れっぽいのではないかという感じが漂う。石田さんが交際してきた女性の行動には「男勝り」の面や気性の強さが感じられる。

石田 それは、そうかもしれないですね。皆さん、強いです。今の(妻の)理子にしても、そうです。

 石田さんは、女性から学ぶ性格なのかもしれない。

石田 吉行淳之介さん(作家、故人)がおっしゃっていたと思うんですけど、男は女によって一人前の男に仕立てあげられるとか、女が男をつくっていくとか。やっぱり僕にも当てはまります。だから、女性には感謝してます。

 もともと石田さんはサービス精神旺盛というか、気が多いというか。

石田 多いかもしれないですね。

 石田さんは道ならぬ恋によって心身だけでなく経済的にもダメージを受けた。これを世間の人は「失敗」と言う。

石田 はい、もちろん。

 ある週刊誌の編集者によれば、週刊誌の企画の1つとして、読者の嫉妬心をかき立てる手法があり、それも売り物になる、とのこと。不倫とか男女問題を報じることで、嫉妬をかき立てられる読者がどれほどいるか不明だが、そういう要素もあるらしい。

石田 (メディアは)嫉妬をかき立て、世間はそれを見て溜飲を下げる。書かれる側からすると、非常に追い詰められ、追い込まれていく。ある位置から落ちるとか、私生活もめちゃくちゃになる。メディアはそこまでしっかりやり遂げ、かつ見届けていると思います。

 石田さんのその後を見ていると、立派に復活して、一般大衆の「ざまあみろ的」な思いは満たされていないのではないか。

石田 いえ、報道後に番組を降板したり、CM契約を解除されたりして、僕の困っている姿は世間にも伝わっています。後追い報道では、ろくに取材も受けていないのに好き勝手書かれました。そうした報道を見て、「ざまあみろ」と思った人も多いのではないですか。
ただ、面白いこともありましたよ。僕の印象ですが、女性ファン、特にお子さんのいる女性の視線は一番冷たかった。不倫で家庭を捨てた、まさに「民衆の敵」みたいな感じで、そうした女性たちからの視線は「ふんっ」と音がするぐらい厳しいものでした。
ところが男性の場合は、騒動からしばらくすると「頑張れよ」とか「応援してるからな」とか声をかけてくれる人が増えたんです。たぶん、不倫騒動の前は男性ファンなんてほとんどいなかったと思うんですよ。だって、ドラマに出て、人気があって、女性にもてて、ゴルフもうまい。しかもニュースのMCまでやってる。本当にいけ好かない対象だったと思います。そんな男、「ふざけんじゃねえよ」となりますよね(笑)。でも、今ではファン層の男女比が7対3か、8対2ぐらいで圧倒的に男性が多いんです。

 石田さんは09年、プロゴルファーの東尾理子さん(実父は元プロ野球投手の東尾修さん)と結婚、今では2人の間に男女2児が誕生、夫人のお腹には第3子が宿っている。まさに幸せを絵に描いたような家庭だ。そんな石田さんにはぶしつけな質問だが、「今、女性関係はどうなのか?」と聞いてみた。

1989年、ドラマ撮影中の石田さん。
1989年、ドラマ撮影中の石田さん。

石田 もしあっても「ない」って言いますけど(笑)。自分の中では、将棋で言えば「詰んだ状態」が判ったら、「ゲーム」はおわりにしています。

 ゲームオーバーという気持ち?

石田 そうですね。最後の一線を越えると、ややこしいことになる。功罪両方がある。露骨な言い方をすると、100%バレないとか、あるいは相手が100%バラさないとか、そういう保証があれば別ですけど(笑)。

 「今は、そういう気持ちはない」で止めておけばいいのにと、聞いているこちらが心配になるぐらいだが、石田さんのこうした正直な物言いは好感が持てる。現在はそういう欲求を持ちつつも、騒動後、自己コントロールがしっかりできている?

石田 今のところは、そう思います。だから、「これは危ないけど、ま、いいか」みたいなことはないです。

 孔子の言う「心の欲するところに従えども矩を踰えず」という心境か。が、今でも、少しでも好意や好感を持った女性に対して、食事などに誘うことはある?

石田 そうした機会はゼロではないですけど、女性との連続性がないので、進展はしません。もし1週間に3回も4回も会っていたら、マスコミに見つかっていますよ。

 女性との進展はないとしても、そうした気持ちを持つことは人間の色気というか、雰囲気に関係する?

石田 すると思います。そうした気持ちをゼロにはできないというか、ゼロにしてはいけないんじゃないかと。不倫騒動で叩かれた僕が言うことではないかもしれないけど、元気でいて「熱量」を落とさないためにも、色気は絶対に必要だと思います。ダイナミックさや野性味など、そういう要素は色気や性的なものに、すごくリンクしてると思うんです。
例えば80を過ぎて、そういう醜聞があった人を見ても、僕は「すごいな」と感心してしまう。外国の政治家なんかも、不倫騒動になったときでも堂々としているし、メディアの報道内容も違う。特にヨーロッパは全然違います。不倫に対して拍手喝采はしていませんけれど、男女がフェアに書かれている。「妻は、もっと早く夫から離れて、新しい人生を生きたほうがいい」とか、それに対する反対の論調などどんどん新聞に出ている。日本とは全く違う様相で、すごいなと思います。

 政治ということでいえば、石田さんも政治的な言動で注目を集めることがある。15年には国会前の安保法制反対デモで発言し、16年には都知事選出馬を模索したこともあった。
石田さんの考えはリベラルである。例えば北朝鮮問題に対してもこうだ。

石田 今、戦争なんかできますか。トランプ大統領は「北への先制攻撃も辞さない」とか言っていて、それに安倍さんが与していたら絶対にダメでしょう。僕、ラジオでもテレビでも言ってるんですけど、「じゃあ本当に戦争をやるんですか?」ということです。戦争なんて絶対に無理ですよ。

 石田さんはイデオロギーからくる反戦平和ではなく、現実世界を直視したときに出て来る現実からの反戦平和であると言ってもよさそうだ。不倫にも政治にも、真正面から発言する石田さんだが、これまでの自分の人生を振り返ってどう思っているのか。

石田 大変な思いも貧しい思いもしましたけど、何とか立て直してきた今となっては総体的に楽しかったと思えます。まあ、(不倫騒動は)自分らしいし、ある意味では充実していたのではないかと思います。もし不倫騒動がなくて仕事も順調に行って、お金が何十億とあったとしても、敷かれた路線をそのまま行っていたらつまらない人生だったかもしれません。苦労はしたけど、こっちのほうが楽しかったと、今では言えます。

 「不倫は文化だ」は誰かに割りつけられたセリフではなくて、自発的に出た言葉だ。正確には、「不倫は文化」とは言っていないわけだが、一定の反響があり、かつまた逆に美輪明宏さんのように「あれは、あんたの一枚看板になったじゃないの。あれがなければ、ただの老いた俳優」とまで評価する人もいる。とっさに出た「不倫は文化」発言は、これは、自分が生きた証としての態度表明であり、発した言葉だ。これによって、長い目で見て、生き返りができた、と。ということで、石田さんの言う通り、「やりがいがあった過程だった」は理解できる。
またまたぶしつけな質問だが、石田さんは今までに3度結婚して、1度目と2度目は破局した。1度目で1人の男の子、2度目で1人の女の子ができた。そして、その息子、娘はそれぞれ成人した。しかしながら、息子、いしだ壱成さんはこれまで2人の女性と結婚して、いずれも破局。大麻で芸能活動停止も経験した。社会心理学者などの中には、親の離婚が子どもに非常な心理的ダメージを与えるとする意見がある。一人親家庭で育つことの心の傷は大きい。そういう子どもの事故発生率、犯罪発生率も含めて、高くなるという学説もあるようだ。子どものことを突きつけられると、親の立場は弱い。

石田 親の責任はありますね。成人になる前のダメージも確かに親の責任です。やはり子どもの言うことをちゃんと聞いてあげたり、ケアをしなくちゃいけない。子どもは親の持ち物じゃないけれど、才能を引き出したり、生きていくすべみたいなものを教えていく。と同時に、道を逸れちゃったとか、ちょっとおかしいなと思ったときに、相談相手になって、正していく。子が幾つになっても、親の責任はあると思います。

 石田さんは過去の反省も含めて、十分「親の責任」を自覚している。現在、石田家では石田さん自身が上の子ども(5歳)の勉強を見ているという。

石田 (小学校)受験もあるじゃないですか。今、僕の日課と言ったら、まず6時過ぎに起こされます。前日何時に寝ようが、6時には子どもたちに起こされて、だいたい2時間ぐらい勉強を見ています。勉強といっても幼稚園のプリントみたいなものですけど。

 毎日子どものために2時間を割くだけでも大したもの。いいパパをやっている。

石田 いえいえ。奥さんも仕事をしていますから、大変ですよ。彼女はテレビでアメリカの女子ゴルフツアーの解説をやっています。夜中の1時から朝の6時まで生で解説をして、そのあと帰って来て、子どもの面倒をみている。お母さんは本当に大変です。どんなに眠くても、子どもたち、特に小さいほうは「ママ、ママ」と寄ってきますからね。そうすると疲れているだろうに彼女は「は〜い」とか言って、優しく迎えている。世のお母さんたちからすれば「そんなこと当たり前じゃない」と思うかもしれませんが、僕はすごいと思う。だから僕も「おれは仕事で忙しいんだよ」なんて言ってられないんですよ。「大変なんだよ、こっちはつき合いが」なんて言っても、「飲みに行ってるんでしょう」って言われるだけですから(笑)。

 共稼ぎ夫婦のほうが仲はいいと、よく言われる。離婚率も低いらしい。

石田 そうでしょうね。やっぱりお互いの大変なことは分かりますから。

 「おれが妻子を扶養してる」などと、男が威張らないメリットもある。

石田 威張らない、威張れないですね(笑)。

石田さんは不倫騒動の後、一連の過程をかいくぐる中で、「男っぽさ」を増したのかもしれない。輝ける老年の星である。

「本日聞いた話は全て書いて大丈夫ですか?」と最後に質問すると「もちろん。今さら隠すことなんてないですから(笑)」と石田さん
「本日聞いた話は全て書いて大丈夫ですか?」と最後に質問すると「もちろん。今さら隠すことなんてないですから(笑)」と石田さん(撮影/細谷忠彦)

みぞぐち・あつし
ジャーナリスト。1942年、東京都生まれ。『薬物とセックス』(新潮新書)、『闇経済の怪物たち』(光文社新書)ほか著書多数。本連載をまとめた『人生の失敗 転んでもタダじゃ起きない』(七つ森書館)が好評発売中。

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