掛け紙とは、駅弁の蓋の上に巻かれ紐で縛られた紙のこと。多くの人は、食べ終わった弁当箱と一緒に捨ててしまうものです。上杉さんがそんな掛け紙に興味を持ち収集を始めたのは、中学1年生のとき。
「ブルートレインで北海道まで旅をした帰りに、青森駅で幕の内弁当を買ったらその掛け紙がねぶた祭のきれいな図案でした。実際のねぶた祭は見ることができませんでしたが、掛け紙だけでも記念に持って帰ったのがコレクションのきっかけになりました。
実際に旅行して集めたものが大半ですが、百貨店の『駅弁大会』で購入したり、直接駅弁屋さんに問い合わせて送ってもらったものもあります」
なかでも、宮島(広島県)の穴子飯は大正から昭和初期にかけての復刻版が12種ほど出ていて、定期的に入れ替えるそう。
「『あなごめしうえの』という老舗で宮島にお店があります。駅弁の穴子飯は冷めても柔らかく、とてもおいしい」

上杉さんの本業は高校教師。受験を控える生徒たちと一緒に頑張る気持ちで、2003年に一念発起して「駅弁の小窓」というホームページを開設しました。
「6600枚以上の掛け紙を写真に撮って、深夜遅くまで作業しました。完成まで2週間ほどかかりましたが、その後も毎日のように更新をしました」
国鉄が民営化されJRになった80年代後半から、駅弁は危機にさらされているといいます。
「昔は、駅のホームで駅弁を立ち売りする姿をよく見かけたものです。今は電車の窓は開きませんし、スピード重視でホームに停まっている時間も短い。さらに民営化以降は、JRの子会社が駅弁を大量流通させたことで、各地の駅弁屋さんの多くが店をたたみました。たかが弁当に、ここまでデザインにこだわった掛け紙をつけているのは日本だけ。今も頑張る駅弁屋さんを応援する気持ちも込めて、全国に出かけては駅弁を味わい続けています」


昭和7年(上)と、昭和32年(下)のもの。