インターネット放送局で活躍する女子アナたち

インターネット放送局で活躍する女子アナたち

熊本・天草テレビのおばあちゃんアナ物語。

2001年に開局した天草テレビは、天草地方の文化や食、観光、社会情報などをインターネットで世界に発信する放送局です。こちらでレポートをしたり、自らの番組を持っているのが66~100歳の女子アナ、総勢7人。「これは会いに行かなくちゃ」ということで、聞き書き作家の小田豊二さんが突撃しました。

取材・文/小田豊二

 いやあ、驚いた。 「何という発想だ! こんな人がいたんだ」と僕は、倒れそうになった。

 その昔、『スター誕生!』という人気テレビ番組があった。森昌子、桜田淳子、山口百恵をはじめ、次々とアイドルが生まれたお化け番組だ。覚えている人も多いだろうと思う。いや、お願いだから、いてほしい。

 その形を変えたものがインターネット放送局天草テレビの金子寛昭さん(60歳)の「お年寄りのアイドル作り計画」だ。

 これが、すごい。いまや、高齢化問題は福祉にいくらお金をかけても解決しない難題となっているが、金子さんの方法は逆だ。

 元気なお年寄りに世の中のために活躍してもらおう。そして、それによって、多くの高齢者たちに元気になってもらうだけでなく、地元のお年寄りを全国的な、いや、いまや「世界的なスター」に育てあげてしまおうという「おばあちゃんのスタ誕!」を考えた。この世界向け大作戦が、インターネットテレビだけあって大成功。実際、「ARDドイツテレビ」をはじめ中東の「アルジャジーラ」まで、多くの外国のテレビ局がひっきりなしに取材に来ている。

 いや、アイドルと言ったって、別に番組で歌ったり(天気予報で歌うこともしばしばあるが……)踊ったり(お祭りの中継で踊ることもあるが……)、コンサートをするわけではない。では何のアイドルか。それは、おばあちゃんたちに若い女性の憧れの職業「女子アナ」になってもらうことだった。

 何しろこのテレビ局、111歳のおばあちゃんを筆頭に代々、高齢者の「女子アナ」を起用し続けているのだから。

 僕は、もともと「お年寄りが亡くなると、ひとつ地域に図書館がなくなる」という言葉を信じてきたくらい、高齢者を敬ってきたから、金子さんの「元気なお年寄りにがんばってもらおう」という考えは大賛成だ。

 たとえば、「歴史」。戦争中の出来事など、語れる人はお年寄りしかいない。たとえば、「地理」。昔、あのあたりに何があったか、高齢者だけが知っている。たとえば「国語」。方言をきちっと喋れる人は、いまやじいちゃん、ばあちゃんだけだろう。

 そのほか、「しきたり」やら、「おばあちゃんの知恵」や「料理」、伝統の「技術」などいっぱい知っている。明日の天気なんか空を見れば、テレビを見なくたってわかる。そうしたお年寄りたちの知識を現在に活かそうとしているのが金子さんの素晴らしい発想なのだ。

 それに第一、お年寄りは偉い人を恐れない。そこで生まれた番組が『ツルの一声!』シリーズ。ツルとは、当時、2代目女子アナとして大活躍した黒川ツルエさんのこと。この一声が鋭い!時の市長までビビった。

 第二に、お年寄りは本当のことを言ってしまう。料理番組で、食べさせられて「まずい!」と言えるのは、おばあちゃん女子アナだけだろう。なかでも85歳の初代広田アヤアナが突撃したルポの傑作のタイトルはこうだった。『島のクッキング ヒトデが美味しい季節になりました』

 金子さんの番組作りって、すごくね?

つづきを読む

『読売新聞』(2017年9月14日夕刊)や仏紙『Libération』(08年11月23日)からも取材される人気ぶり。大学で使う時事英語の教科書『Insights 2010』(金星堂)には「人気キャスター」として登場している。
『読売新聞』(2017年9月14日夕刊)や仏紙『Libération』(08年11月23日)からも取材される人気ぶり。大学で使う時事英語の教科書『Insights 2010』(金星堂)には「人気キャスター」として登場している。

天草弁を使いこなす女子アナ、新人は100歳のはるのちゃん。

『番組収録中の金子寛昭さん(左)と100歳のはるのちゃん(大仁田ハルノ)アナ。
番組収録中の金子寛昭さん(左)と100歳のはるのちゃん(大仁田ハルノ)アナ。

 老人介護施設を作ることばかり考えずに、高齢者を地域のアイドルに育てる「スタ誕!」計画。
でも、どうやって実現したのか、番組はどんな風に作られているのか―。

 これは、実際に金子さんに会わなければ、と僕は、天草に飛んだ。いや、飛んだのは熊本まで。あとは車で、2時間。あった。インターネット放送局天草テレビ本社。いや、ビルではない。普通の一軒家。駐車場脇の一部屋がスタジオを兼ねている。

 もちろん、受付嬢もいない。いきなり、金子さんがニコニコ笑いながら出て来た。スタッフなし。営業から撮影まで、金子さん、ひとりでやっているテレビ局。本社と書いたが支社もない。

 名刺交換もそこそこに、撮影現場に連れていってもらうことにした。

 なんと、その朝は100歳の女子アナ、大仁田ハルノさんの『あなたのアルバム見せて下さい!』という番組作りの日だった。

 ラッキー! 古いアルバムを見せてもらいながら、昔話を聞くというお年寄りならではの好番組。 番組は、まず、ハルノさんの97年前の写真の話から始まった。インタビュアーは金子さん。3歳の時のハルノさん、隣りの子どもに寄りかかってる。このクセ、いまでも変わらないという。

3歳のはるのちゃん。
3歳のはるのちゃん。

 心理学的に言うと、これは愛情に飢えている子に多いとか。ハルノさん、両親が満州に行ったので、親戚に預けられたそうだ。置いてけぼり……。

金子さんの相づちが、実にいい。 翌日は、86歳の田尻冨美子アナ、通称ふみちゃんの『天草弁マイスター養成講座』にこの僕が飛び入り出演。

「〝みぞか〟は、かわいい、〝あったらしか〟はもったいない、〝とりもうじゃ〟は鬼ごっこ、〝いちのどし〟は親友。じゃあ、鬼ごっこは?」「えーと、ガリガリもうじゃ」「じゃあ、もったいないは?」「いちのじょう」
「全然、ダメ! はい、もういっぺん」

 それにしても、金子さんの「お年寄り再生計画」、なぜ高齢者の女子アナを思いついたのか、その動機を聞いた。

すると、意外にも金子さん、苦笑いを浮かべ、頭を掻いた。それを聞いて、僕は再び、倒れそうになった。

「それが、ですねえ」
金子さんは、東京から故郷の天草へUターンし、この天草の情報を日本中に広めようとインターネットのテレビ局を開設した。

 ついては、専属の女子アナが必要だ。ただし、超ローカル局のイメージを強調しなければと、「天草弁のしゃべれる女子アナ」を募集した。若くて美人なのに、訛ってる女子アナ。そんな子がいれば、きっと話題になると思っていたが、募集をかけてもかけても応募が来ない。いや、若くて美人の女子アナ志望はたくさんいるのだが、肝心の天草弁がしゃべれないのだ。

 僕なら「しかたがない、一番好感の持てる女の子にしよう」と、地元の特にかわいい子を選んで採用するのだが、金子さん、ここで天草弁にこだわった。

「じゃあ、お年寄りを女子アナにしよう。天草弁をしゃべるだろうから」

 金子さん、奥さんに相談したら、何と、こう言われたという。「あなたは結婚相手に私を選んでしまったくらい、女性を見る目がないのだから、私が手伝ってあげる」と。金子さんの「そうだ!」と納得した素直な性格もいいけれど、奥さんも一段と素晴らしい。

 そして始まった女子アナ・スカウトキャラバン。「おばあちゃんやーい!」。

 苓北町(れいほくまち)の雑貨屋さん丸錦商店に集まっていたお年寄りたちの大推薦で見つけたのが、広田アヤさん。当時82歳。漁師のご主人が獲ってきた魚を籠に入れ行商しながら13人の子どもを育てたおばあちゃんだった。

 金子さんの猛アタックによって、天草テレビ女子アナ第一号誕生!

 なぜ、金子さんはアヤちゃんが人気女子アナになるとわかったのか。

 聞いて驚くな。実は金子さんは、ジャーン! あの生き馬の目を抜くという「芸能界」にいた。

 そう、何と、ギョーカイの人だったのだ。学生時代の夢、考古学者になるのをやめて、タレントの「発掘」に命をかけていたのだった。

 金子青年、芸能界でアイドルの売り出し方を徹底して学び、次に電通に飛び込んで、映像の勉強をした。そして、故郷、天草に帰ってきて、新聞記者になった。そして、作ったのが天草テレビなのだ。

 だから、断っておくが、天草テレビは、おばあちゃん女子アナのバラエティ番組ばかりではない。きちんとドキュメンタリー番組もあれば、なんと、ドラマも制作するぞ。

こんな番組を放送しています

2008年12月7日、ツルちゃん(黒川ツルエ)アナとシノちゃん(森シノ)アナが、当時現役の麻生太郎総理大臣と対談した模様を放送。

2008年12月7日、ツルちゃん(黒川ツルエ)アナとシノちゃん(森シノ)アナが、当時現役の麻生太郎総理大臣と対談した模様を放送。

ふみちゃん(田尻冨美子)アナが、ゲストが話す天草弁を審査する番組。見事、合格すると「天草弁マイスター」の称号が与えられる。

ふみちゃん(田尻冨美子)アナが、ゲストが話す天草弁を審査する番組。見事、合格すると「天草弁マイスター」の称号が与えられる。

社会派キャスターとしてツルちゃんが、歯に衣着せずに世相を斬りまくり、広く海外にも評価された番組。2012年シリーズ終了。

社会派キャスターとしてツルちゃんが、歯に衣着せずに世相を斬りまくり、広く海外にも評価された番組。2012年シリーズ終了。

ツーちゃん(橋本ツヤ子)アナのデビュー番組。明るく奔放なおしゃべりで、熊本のゆるキャラ・くまモンともすぐに仲良しに。

ツーちゃん(橋本ツヤ子)アナのデビュー番組。明るく奔放なおしゃべりで、熊本のゆるキャラ・くまモンともすぐに仲良しに。

女子アナを続けるのは、目立ちたいからでもお金のためでもない。

初代女子アナのアヤちゃん、金子さんの予想した通り、デビューするやいなや、大人気になった。

 アヤちゃん、とにかく性格が明るい。道で会えば、誰とでも大きな声で会話を交わし、何をやるにもいつも前向きだった。
でも、その人生は大変だった。

 5歳の時に母を亡くし、祖母に育てられたが、中学1年の時、その祖母が病気で視力を失う。それ以後、食事も洗濯も繕い物も、すべてアヤちゃんの仕事。味噌や醤油の仕込みもした。

 そんなアヤちゃんの特技は口の中からの入れ歯の出し入れだったと金子さん。女子アナになった以上、皆を喜ばせようと精一杯努力していたという。こともある。

 その初代のアヤちゃんが亡くなって、ぽっかり空いたアナを埋めたのが、88歳だったツルちゃんこと黒川ツルエさん。ツルちゃんは金子さんの息子の保育園の先生が推薦してくれた。

 『ツルの一声!』の天草切支丹館解体のニュースの現場で、「こりゃ墓場荒らしじゃ。ここは400年前に1300人が死んだ墓場! 女、子どもまで犠牲になったところぞ。市長は気が狂っとる!? タリバン、ポル・ポトとちがわん。末代までたたる!」とマイクで叫んだことで一躍世界的に有名になった。

 そのツルちゃんが95歳で逝去したあと、活躍したのが時に102歳だった森シノちゃん。日露戦争の前年明治36年生まれだったからすごい。

 天真爛漫な人柄でみんなに愛され、〝歌うお天気おばあちゃん〟は、世界最高齢女子アナとして活躍。

 ツルちゃんとシノちゃん二人で、時の麻生総理との対談も敢行して、人気番組になったこともある。

 そのシノちゃんは111歳で亡くなるが、90歳のヒデちゃんこと山下ひで子さん、続いて86歳のツーちゃん、橋本ツヤ子さんと、次々に「若手」がアナウンス室入り。

 それからというもの、86歳のふみちゃん、88歳のかずちゃん、そして10代目が先の100歳のはるのちゃん、あとは最近、75歳のトキちゃんこと宮崎登喜子さん、そして社会派のナレーターとして活躍する、女優で演出家の嶽本秀子さん、66歳と、天草テレビアナウンス室花ざかり。

 もちろん、おばあちゃんたちが一生懸命がんばってくれたことが一番だが、地域のお年寄りをスターにしたい人は、金子方式をぜひ参考にしたらいい。

 もちろん、このテレビ局、金子さんひとりでやっているから慢性資金不足。気になったので最後に誰も聞かない質問をしてみた。

「おばあちゃんたちのギャラは、どのくらいですか?」

 我ながらこの質問には勇気がいった。

 金子さんは、真面目な顔で言った。

「あるおばあちゃんに怒られたんです。お金をもらうなら、仕事はしない。天草のために役に立つなら、と思って、女子アナを引き受けたのだから、と」

 これだ!

 お年寄りはきっと誰かの役に立ちたいのだ。これには、僕も思わず胸が熱くなった。

「タリバン、ポル・ポト」を例に出して報道したことで、海外のメディアが殺到した時のツルちゃんの言葉が残っている。

「学はなかですが、人のためになるのならと思って、アナウンサーをしております」

 ああ、天草までやってきてよかった。

 家に帰って、僕は、珍しくかみさんに吠えた。「やっぱり、お年寄りは地域の図書館だったぞ」。返事は、ひと言。

「どこかに貸し出してくれるの?」

撮影・吉崎貴幸 取材協力・片山幸子 写真提供・天草テレビ

天草テレビを見るには

天草テレビはインターネットで配信している有料放送です。おばあちゃんアナの活躍を見るには、インターネットで天草テレビに入会する必要があります。

天草テレビのHP(「天草テレビ」で検索)を開き、トップ画面の右上部ある「会員登録」から案内に従って登録してください。番組の一部だけ見られる「お試しコース」500円(税込)と、全部見られる「1年払いコース」3150円(税込)があります。過去の番組もHP内のアーカイブから視聴できます。

問合せ:天草テレビ TEL 0969-22-2350
http://www.amakusa.tv

天草テレビ女子アナ名鑑

大仁田ハルノさん

大仁田ハルノさん通称・はるのちゃん。2017年8月に活動をスタートした新人。世界最高齢女子アナとして注目されている。趣味はグラウンドゴルフ、編み物、折り紙。

田尻冨美子さん

田尻冨美子さん通称・ふみちゃん。2013年から活動。メイン女子アナとして活躍中。老人会では「天草の吉永小百合」と呼ばれる人気者。原付バイクを乗り回すライダー。

錦戸和子さん

錦戸和子さん通称・かずちゃん。2014年から活動。小学校の教師だったので「先生」と呼ばれ、頼りにされている。母から受け継いだ雑貨店を1人で切り盛りしている。

山下ひで子さん

山下ひで子さん通称・ヒデちゃん。2009年から活動。年下のご主人とおしどり夫婦として有名。料理、歌、踊りが得意。デビュー時には番組で「天草小唄」を披露した。

橋本ツヤ子さん

橋本ツヤ子さん通称・ツーちゃん。2012年から活動。明るく楽しいおしゃべりが評判になり、女子アナにスカウトされた。テレビのクイズ番組が大好き。

宮崎登喜子さん

宮崎登喜子さん通称・トキちゃん。2014年から活動。ふみちゃんの後輩として、メインアナになるべく見習い中。「妻は女子アナなんだ」とご主人は自慢しているらしい。

嶽本秀子さん

嶽本秀子さん2009年から活動。教師や女優など、多方面で活躍中。天草テレビでは、シリアス路線に欠かせない存在として社会派リポートやドラマのナレーターを担当。

facebook

twitter

LINEで送る