「米軍基地が必要というなら沖縄に押しつけずに全国で負担してください」稲嶺進さん(前名護市長)

「米軍基地が必要というなら沖縄に押しつけずに全国で負担してください」稲嶺進さん(前名護市長)

……辺野古の海は、沖縄で暮らす人々のもの。いや、海を所有することはできない。人々は豊かな海に感謝を捧げながら、海と共に生きてきた。埋め立ててはならない。潮風に乗って、誰かの言葉が寄せてくる。「人生で最も偉大な栄光とは、転ばないことではなく、転ぶたびに起き上がり続けることにある」わたしたちも共に、いま!

落合恵子

落合 2月4日の名護市長選挙からまだ間もないなか、本日はありがとうございます。いま選挙を振り返ってみて、どのようなことをお考えですか。

稲嶺 前回の市長選の時には自主投票だった公明党が、今回は相手候補に推薦を出して全面的な支援を展開したことや、中央政府が公共事業の推進など経済振興策のなりふり構わぬ「バラマキ」で地元企業の票を集めたことなど、敗因は色々と思いつきます。でも、やはり辺野古の基地問題が選挙の争点にならなかったことが大きいですね。

落合 各種メディアの出口調査によると、60代以上では稲嶺さんへの支持が圧倒的に高かった一方、50代以下ではすべての年代で約6割が相手候補に投票していたことが分かっています。このことについてはどうお考えですか。

稲嶺 名護市や沖縄県だけでなく、日本全国で言えることだと思うのですが、若い世代の戦争に対する意識が薄れているのでしょう。いま沖縄では戦後生まれの世代が人口の90%以上を占めており、実際に戦争を体験している人は10%もいません。太平洋戦争の時、沖縄で悲惨な地上戦が繰り広げられたことや、戦後27年間、沖縄が米国の統治下にあったことを知らない若い人たちもいます。生まれた時から目の前に米軍基地があって、それが当たり前だと思っている。そういう人たちに辺野古の基地建設という問題がピンとこないのは、仕方がないのかもしれません。

落合 政府など基地推進派は今回の選挙結果が「名護市民の民意だ」と言います。でも、稲嶺さんが市長をされていた8年間の「基地反対」の民意はどうなるのかと。都合よく「民意」という言葉が使われているのは実に無念です。 先ほど稲嶺さんに辺野古の海岸を案内していただきました。沖合でクレーン車が石材を落としている様子が見えましたが、基地建設は現在どこまで進んでいるのでしょうか。

稲嶺 テレビなどで海に石材が投入される場面がよく放映されるので、工事が相当進んでいるように感じている方が多いと思います。でも実際は、工事全体からすればほんの一部に過ぎない護岸延長工事の、それも5%程度が進んでいるだけ。埋め立て面積全体で計算すると1%も完成していないのです。

落合 「後戻りできないほど進んでいる」という解釈は間違いなのですね。

「辺野古基地の工事は全く進んでいません。埋立て面積では1%も完成していないのです」 稲嶺

「辺野古基地の工事は全く進んでいません。埋立て面積では1%も完成していないのです」 稲嶺

「辺野古の新基地建設は、『もう後戻りできないほど進んでしまっている』という解釈は、間違いなのですね」落合

「辺野古の新基地建設は、『もう後戻りできないほど進んでしまっている』という解釈は、間違いなのですね」落合

稲嶺 はい、当初の計画では2015年10月の着工から5年で埋め立てを完了することになっていたのが、3年目に入った現在もそんな状況なのです。 これから工事を進めるうえでも、多くの問題があります。たとえば、大浦湾の海底部に活断層がある可能性が指摘されていること。活断層の上に弾薬や化学物質などを扱う軍事施設を置けるはずもなく、もし本当に活断層があれば、建設計画そのものが根底から覆されることになります。大浦湾の海底部にある琉球石灰岩層の一部は非常に軟弱で、基礎地盤の改良工事が必要だとも言われています。改良工事のためには当初の設計の変更が必要で、県知事の新たな承認が必要になります。 また、大浦湾で最初に埋め立てられる予定のエリアには美謝(みじゃ)川という川があり、この流れを切り替えなくては埋め立て工事に着手できません。この切り替え工事には、名護市長との協議が必要になります。つまり、いま工事が進められているのは、名護市長や県知事の権限が及ばない部分であって、そうした権限に関わる部分は何も問題が解決されていないのです。今後も、さらに工事の進捗が遅れることは間違いありません。

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米兵の犯罪や事故の度に立ちはだかる日米地位協定。

落合 辺野古の新基地は普天間飛行場の「代替施設」という言い方がされます。政府もあくまでも「移設」だと言いますが、どう思われますか。

稲嶺 政府は「負担軽減」という言葉を大義名分として使っていますが、沖縄の人は負担軽減とは思っていません。普天間は老朽化してもう長くは使えない状態なのですが、辺野古に新しくできるのは耐用年数が100年以上の滑走路が2本もある巨大な基地。米軍の強襲揚陸艦が接岸できる軍港機能もあり、普天間にはなかった弾薬庫のエリアもつくられる。さらには、ヘリパッドも4ヵ所設けられ、水陸両用の車が発着するための施設もつくられる。最新鋭の機能を備えた要塞みたいな基地になるわけです(下図参照)。しかも、そこには100機のオスプレイが配備されるといいます。

落合 とうてい「移設」などではありませんよね。反対される理由を、さらにお聞きしたいのですが。

稲嶺 一つは、自然環境への影響です。埋め立てられようとしている大浦湾は、絶滅危惧種に指定されている260余りを含む5800種もの生物が生息する生物多様性の宝庫です。ウミガメやジュゴンがいることはよく知られていますが、先人たちから受け継いだこの豊かな自然を破壊してはいけません。 それから、基地建設の問題は本来、保守とか革新とかいったイデオロギーとは関係ない、私たちの生活そのものの問題だということです。辺野古の反対運動は、基地建設計画を知った地元のおじいやおばあたちが「自分と子どもや孫たちの生活を育んできた辺野古の海を、戦争につながる基地によって失いたくない」という思いで座り込みを始めたのが最初です。そうした地元の人たちの生活を守りたいのです。 そしてもう一つ、新基地建設の根拠とされている「辺野古が唯一の選択肢」という話が、全くの嘘だからです。 よく「地理的優位性」ということが言われますが、仮に日本政府が「仮想敵国」として中国や北朝鮮を想定しているのであれば、沖縄よりも九州のほうがよほど近い。「抑止力のため」とも言うけれども、新基地に配備されるオスプレイは「輸送機」です。なぜ「輸送機」が抑止力と関係あるのか分かりません。「辺野古が唯一」という論拠は、もうとっくに破綻しているんですね。 沖縄の人たちに「反基地」の思いが強いのは、かつての戦争で、日本軍が駐留していたことで沖縄が攻められたという経験をしているから。基地があることは「抑止」ではなく、狙われることにつながると考えているんです。

名護市発行のパンフレット『米軍基地のこと 辺野古移設のこと』等を参考に作成。右上写真は石材を海に投入するクレーン車。

名護市発行のパンフレット『米軍基地のこと 辺野古移設のこと』等を参考に作成。右上写真は石材を海に投入するクレーン車。

辺野古の海を埋め立てるための石材は、トラックで米軍基地「キャンプ・シュワブ」内に運ばれる。基地のゲート前では搬入を阻止すべく、地元の方たちが座り込みを続ける。 辺野古の海を埋め立てるための石材は、トラックで米軍基地「キャンプ・シュワブ」内に運ばれる。基地のゲート前では搬入を阻止すべく、地元の方たちが座り込みを続ける。

辺野古の海を埋め立てるための石材は、トラックで米軍基地「キャンプ・シュワブ」内に運ばれる。基地のゲート前では搬入を阻止すべく、地元の方たちが座り込みを続ける。

辺野古の海岸に設置された米軍基地への立ち入りを防ぐフェンスには、様々な基地反対のメッセージが掲げられている。市長選後には稲嶺さんをねぎらうメッセージも。

辺野古の海岸に設置された米軍基地への立ち入りを防ぐフェンスには、様々な基地反対のメッセージが掲げられている。市長選後には稲嶺さんをねぎらうメッセージも。

落合 市民の立場からすれば、基地をなくさない限り安全保障にはならないということですね。

稲嶺 さらに沖縄では、戦後72年にわたって、人々が米軍による事件や事故に苦しめられてきた事実もあります。それも、小さな子どもや女性といった弱い立場の人たちが数多く犠牲になってきました。なぜこんなことが起こるかといえば基地があるからだ、という思いが沖縄では非常に強いのです。

落合 今でも「由美子ちゃん事件」と呼ばれる事件が55年にありました。6歳の女の子が米兵から性暴力を受けて殺され、遺体はごみ捨て場に捨てられました。あのような凄惨な事件のほかにも、隠された性暴力事件が山ほどあるのですよね。プライバシーの問題もあって全てが表には出てこないだけで……。この事実一つをとっても、基地はあってはならないものだと思います。そして、こうした事件の際に、いつも立ちはだかる壁が日米地位協定です。

稲嶺 その後、95年に起きた少女暴行事件のことは「本土」の方たちも覚えているでしょう。あの時、日本側は容疑者である3人の米兵の身柄引き渡しを要求しましたが、米軍は日米地位協定を理由に拒否しました。この協定によって、これまでどれだけの沖縄県民が泣かされてきたことでしょうか。

落合 いま、安倍総理は憲法改変に熱心なようですが、憲法よりもまずは地位協定を改定すべきだと考えます。

稲嶺 そうですね。でも、そのためには世論が盛り上がらないとダメです。「本土」から地位協定改定の声が聞こえてこないのは、沖縄に比べてこれまで米軍基地による被害をあまり受けずに来たからでしょうか。

落合 そうかもしれません。でも、もうこれ以上、他人事でいることは許されないと思います。

「後戻りしている」との翁長知事批判は的外れ。

落合 市長という立場を離れられた稲嶺さんは、基地問題に今後どのように関わられますか。

稲嶺 先ほど辺野古から帰る途中、落合さんと米軍キャンプ・シュワブのゲート前に行きましたが、基地建設阻止のためにみんな頑張っています。我々はいつも「諦めた時が負けなんだ」と言っていますから、諦めない運動を私も続けていくつもりです。
日米の環境保護団体が米国防総省を相手に、ジュゴン保護のための辺野古基地建設工事中断を求めた「ジュゴン訴訟」という裁判があります。昨年8月、サンフランシスコの控訴裁判所が原告の主張を一部認める判決を出し、国防総省が何らかの責任を問われる可能性が出てきました。「環境」という視点で世界的な注目を集めたことが成果につながったので、今後も様々な角度からアプローチする必要があります。

落合 そして、今年の11月には沖縄県知事選があります。

稲嶺 被害は戦争の結果でして、原因まで遡って学ぶことで、戦争の本質が分かります。以前、センターに来館してくれた中学生からこんな質問を受けたことがあります。「東京大空襲の体験を語り継ぐことで、戦争を防ぐことができるんですか」と。私も一瞬首をかしげてしまいました。たしかに「伝える」だけで戦争を防ぐことは、物理的には無理かもしれない。それでも多くの人が「真実を知る」こと、正しい情報を選択するための知性、理性を身に付けることは、戦争を食い止める一歩にはなるはず。その一歩の積み重ねが、戦争をできない明日をつくっていくんだと思うのです。

落合 そのために、センターが果たした役割、これからも果たすであろう役割は大きいと思います。

稲嶺 4年前の県知事選の際には、その前年に当時の仲井眞(弘多)知事が、辺野古の埋め立てを承認するという非常に大きな「事件」がありました。それによって、沖縄の人々の間に「これは許せない」という思いが広がり、翁長(雄志)知事が相手候補に約10万票の大差をつけて勝つことができました。
しかしその後、翁長知事が出した「埋め立て承認取り消し」を国が違法と訴えた裁判で沖縄県が敗訴し、今年3月には国が岩礁破砕許可を得ずに工事を進めているのは違法だとする沖縄県の差し止め請求も却下されました。一部とはいえ辺野古の工事が進められるなど、4年前と状況が違うのは事実です。そのため「もう無理ではないか」と諦めている人たちもいますので、この状況を乗り越えなくてはなりません。 まずは、先ほど申し上げたように、辺野古の新基地建設はまだ止められるということを周知する必要があります。活断層や軟弱な地盤の問題もあって、このままいけば必ず設計変更が必要になる。そしてその設計変更には県知事の承認が必要なので、翁長さんが再選すれば工事を止められるのです。県民のパワーと知事が持つ力を組み合わせれば、必ず基地建設は止められます。
それから、名護市では9月に市議選があります。私の市政を支えてくれた与党がいま14議席ですので、それを今回も確保することで、新市長の政策や方針をチェックしていくことができる。当面は市議選に向けて、議席を確保するための活動を進めていきます。

 「基地建設は必ず設計変更が必要になる。変更には県知事の承認が必要なので、翁長さんの再選で工事を止められます」稲嶺「基地建設ストップ、日米地位協定の改定、『本土』への基地引き取り、この3つの宿題に『本土』の私たちがどう応えるかです」落合

「基地建設は必ず設計変更が必要になる。変更には県知事の承認が必要なので、翁長さんの再選で工事を止められます」稲嶺「基地建設ストップ、日米地位協定の改定、『本土』への基地引き取り、この3つの宿題に『本土』の私たちがどう応えるかです」落合

落合 反対運動をしている方たちの中には「翁長知事が反基地から少し後戻りしている」という声があるそうですね。辺野古の工事用の石材搬送のために2つの港の使用許可を出したことや、翁長知事が埋め立て承認を撤回しないことなどがその理由のようですが。

稲嶺 そうした声は私のところにも届いています。でも、そんなことを言って、誰のためになるのかと思います。港の件は、仮に翁長知事が使用を許可しなかったとしても、行政代執行などの制度でひっくり返されてしまう。埋め立て承認撤回も、いつ、どんな理由で行なうのが一番効果的かという、高度な政治判断が迫られます。いま私たちができることは、知事を信頼することです。自分たちが担ぎ上げた知事を、内側から引きずり下ろすようなことになっては元も子もありません。

落合 当たり前ですが、知事選は沖縄県民の方たちの一票で決まります。でも「本土」で暮す私たちも他人事ではなく、知事選と基地問題を考えなくてはなりません。稲嶺さんの話をお聞きして、「辺野古の新基地建設をどう止めるのか」「日米地位協定を改定するにはどうすればよいか」、もし、それが必要だというのであるなら「本土に基地を引き取るべきではないか」という3つの「宿題」をいただきました。沖縄県民だけでなく、「本土」の私たちがどう応えるかが問われていると思います。動を進めていきます。

構成・仲藤里美 撮影・細谷忠彦

いなみね・すすむ 1945年、沖縄県生まれ。琉球大学法文学部卒業。
72年、名護市役所に就職し厚生課に配属。総務部長、収入役、教育長を務める。
2010年、「普天間基地の県内移設反対」を掲げて名護市長選に出馬し初当選。以後、2期8年間、市長を務める。

おちあい・けいこ 1945年、栃木県生まれ。作家。『決定版 母に歌う子守唄』(朝日文庫)ほか著書多数

稲嶺さんの共著書

『東アジア共同体と沖縄の未来』花伝社 本体800円+税

『東アジア共同体と沖縄の未来』 花伝社 本体800円+税

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