通販生活の読み物

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追及する人々│そこに知りたいことがあるから研究するのだ!

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宇宙人が現れたらどうやって挨拶するのか? 木村大治さん(京都大学大学院教授)

木村大治さん

きむら・だいじ
専門は人類学、コミュニケーション論。共編書に『宇宙人類学の挑戦 人類の未来を問う』(昭和堂)がある。

イラスト/伊野孝行

 宇宙人とのコミュニケーションなんてSFの世界の話で、まじめに研究していると言うと変人扱いされるかもしれませんね」
 そう笑って話すのは、京都大学大学院教授の木村大治さん。しかし、宇宙人に関するプロジェクトは、1960年代から国際的に取り組まれていたのだ。
「宇宙文明を発見する世界的なプロジェクト『SETI(地球外知的生命探査)』では、アレシボ・メッセージを宇宙に発信しています。これは1679個の信号の文字列で、数学的な概念を身につけた知的生命体にはメッセージが伝わるというものなんです」
 木村さんの専門は文化人類学で、「わからない他者や異文化に出会って気づくこと」が研究テーマ。アフリカ地域研究が本業で、年に数ヵ月はアフリカへフィールドワークに行くという。
「わからない他者の究極は宇宙人。11年に神戸大学大学院教授の岡田浩樹さんに誘われて『宇宙人類学研究会』を発足させました。宇宙というフィールドで人類学の可能性を広げたいですね」
 研究では宇宙に関わる人や組織についての調査を行なう。
「宇宙飛行士が宇宙空間で体験したことや地球に戻って重力を受けた際に感じたこと、あるいは種子島でロケットにかかわる人々は宇宙をどのように考えているのか、などを人類学的な見地で調べます」
 実際に宇宙人からファースト・コンタクトがあったらどうするのか。
「言葉が通じず、文化も異なる相手と出会ったとき、相手のマネをすることもファースト・コンタクトにおけるひとつのやり方です。たとえば、送られてきた信号をそのまま送り返す。お辞儀をしてきたらお辞儀で返すなどです。実際に宇宙人がコンタクトしてきたら、天文学者や物理学者などの科学者に加え、言語学者や人類学者も協力を要請されるでしょう。そうなる瞬間を今から心待ちにしています」

「かえるの合唱」みたいに本当に輪唱している。合原一究さん(筑波大学教授)

合原一究さん

あいはら・いっきゅう
理化学研究所の基礎科学特別研究員などを経て現職。生物の行動を数理モデリング・音響計測・フィールド調査などで研究。

イラスト/伊野孝行

 童謡「かえるの合唱」で輪唱した経験は誰もがあるだろう。実は本物のカエルも鳴くタイミングをずらして輪唱している──。そんな研究をしているのは、筑波大学助教の合原一究さんだ。
「カエルが鳴くのは、オスがメスを呼び寄せる求愛のためです。鳴き声が被ると、メスが聞き分けられなくなってしまうので、輪唱は自分をアピールするためのいわば戦略だと考えられています。ちなみに、鳴くのは基本的にオスだけでメスは鳴きません」
 研究対象は、田んぼや池など日本各地に生息するおなじみのニホンアマガエル。鳴き方のルールを詳しく調べたのは合原さんらの研究が初めてだ。なぜ、研究テーマがカエルだったのか。
「最初に興味を持ったのは大学生の頃。所属していた京都大学の野生生物研究のサークルで、島根県の隠岐島に行ったとき、田んぼに響くカエルの声がそろっているように聞こえたんです。調査してみたら輪唱していることがわかりました。カエルは単独では1秒間に3~4回鳴き、鳴き始めると数十秒間続きます。1匹目が鳴くと、タイミングを見計らって2匹目が鳴き始め、さらに3匹、4匹と続くんです」
 何十匹もいるカエルの声を人間が聞き分けるのは難しいので、マイクとLEDライトが連動した「カエルホタル」という装置まで開発した。これを田んぼに40個ほど並べるそうだ。
「音を光に変換する装置で、近くでカエルが鳴くと光ります。その様子をビデオで撮影し、研究所で動画解析をして計測しました」
 研究の結果、近くにいるカエル同士が交互に鳴き、田んぼのなかでいくつかのグループを作ることがわかった。
「観測できた範囲では、3~4匹で1つのグループを作っているようです。鳴いて位置を知らせる行為は、メスばかりでなく、天敵も呼び寄せてしまうわけで、求愛は命がけ。なかには自分は鳴かずに鳴いている別のオスのそばに隠れていて、近づいてきたメスを横取りするずる賢いヤツもいるんですよ」
 カエルの輪唱の研究が、実社会でどう役立つのだろう。
「音と同様に、機械が通信する際の電波は“波”で伝わります。複数の電波が一度に発信されると、電波が被ってしまうためにうまく届きません。ぶつからずに、機械が交互に通信するしくみ作りに、カエルの輪唱がヒントになると思っています」
 研究を生活に応用するためには、まだまだ田んぼに通う必要があるそうだ。

ひとりだけの味気ない食事も鏡を見たらおいしく感じる。中田龍三郎さん(名古屋大学大学院特任講師)

中田龍三郎さん(名古屋大学大学院特任講師)

なかた・りゅうざぶろう
研究分野は認知科学、実験心理学、神経生理学など。主に高齢者を対象に、食や行動における認知心理学の研究を行なう。

イラスト/伊野孝行

 ひとりで食事をとるのは味気ないが、鏡1枚用意するだけでおいしく感じられる。名古屋大学大学院特任講師の中田龍三郎さんらの研究結果をまとめた論文が、2017年5月、米国の科学誌に掲載された。
「私は認知心理学が専門で、食事中に鏡で自分を見ると、ダイエットや食事に集中できるなどの効果があるという話は知っていました。それで、実験をして確かめようと思ったんです」
 65歳以上の高齢者と大学生のそれぞれ16人が実験に参加。正面に鏡を置いた部屋と、何かを見て食べるという条件をそろえるため鏡サイズのモニター(無人映像を表示)を置いた部屋の2つの個室を用意。ひとりずつ個室に入って、塩味とキャラメル味のポップコーンを1分30秒間食べた。
「“おいしさ”を6段階で評価してもらった結果、どちらの味も『鏡あり』が『鏡なし』より8~21%高く評価され、食べる量も鏡ありが14~42%多かったんです。この実験は、統計学的に『有意』(偶然ではない)となり、『鏡を見て食事をするとおいしく感じる』ことが証明されたわけです」
 実験では「どちらがしょっぱい(もしくは甘い)と感じたか」も聞いたが、鏡あり・なしで変化はなかったという。
「甘さやしょっぱさは、味覚をそのまま脳で感じるもの。おいしさは味だけでなく、周囲の状況を総合的に理解・判断する高次な脳機能によって感じられるものと言われています。言い換えれば、味覚は舌で感じ、おいしさは“心”で感じるということです」
 しかし、自分が食べる姿を鏡で見るだけで、おいしいと感じるのはなぜか。
「人と食事をすることを共食と言います。家族や友人との食事は、認知的な効果によっておいしく感じるものです。人と食事をするとき、相手が食べ物を口に運ぶと自分も食べるなど、自然に同じ行動をとることがある。心理学ではミラーリングと言うのですが、鏡写しのように同じ動作をすることで、好感を持ったり信頼関係が構築されたりすると言われています。これと同じで、鏡の中に人の存在を感じる“鏡食”(きょうしょく)によって、食べる量が増え、おいしく感じられるわけです」

全国に散らばる資料を解析して忍者・忍術の実態に迫る。山田雄司さん(三重大学教授)

山田雄司さん

やまだ・ゆうじ
日本の歴史学、怨霊などを研究。2012年からは忍者学へ。著書に『忍者はすごかった 忍術書81の謎を解く』(幻冬舎)がある。

イラスト/伊野孝行

 時代劇やアニメでおなじみの忍者はどこまでが本当で、どこからがフィクションなのか。忍者や忍術の研究に取り組むのは、三重大学教授の山田雄司さんだ。
「12年に三重県伊賀市と上野商工会議所、大学が連携して地域活性化プロジェクトの一貫として忍者学の研究が始まりました。私はもともと日本史のなかでも怨霊やたたりの研究をしていまして、『怪しい分野は得意だろう』と学長から指名されたんです(笑)」
 伊賀市にある伊賀流忍者博物館に保管された忍術関係の資料は門外不出とされ、それまで誰も研究したことがない貴重なもの。忍術書の研究を通じてわかった忍者像とはどんなものか。
「忍者の役割は、敵の城下や城に潜入して情報を収集すること。怪しまれないように商売人や旅芸人に変装していました。女性忍者の『くノ一』は、料理人としてお城に入り込んでいた。芸や料理はプロ級だったようです。もうひとつ着目すべきはサバイバル能力です。暗闇の中で移動するために天体の知識があるほか、食べられる植物の知識もありました」
 話を聞き出すために人間関係のネットワークづくり、心理学のようなノウハウも持ち合わせていたという。
 「忍者の研究は、文系・理系の垣根を越えて広がっています。食品化学の分野では、携帯用の非常食である兵糧丸(ひょうろうがん)を古文書に従って再現してみました。腹持ちがよいだけでなく、滋養強壮や腹痛の薬としての効果もあることがわかったんです。また、医学部では忍者の呼吸法や手を合わせる『印のポーズ』で脳波をコントロールし、集中力やリラックスする方法を得られるかどうか調べています」
 三重大学大学院では、今年から人文社会科学研究科の入試に専門科目「忍者・忍術学」を導入、3人が合格した。
「忍者に関する資料は、全国各地にあります。調査はまだ始まったばかりで、研究者はまだまだ足りません。研究者の育成と並行して、忍者のナゾを解き明かしていきます」

「クサいものに蓋」ではなく、混ぜていいニオイに変える。宅 準三さん(東邦車輛)工藤祥一郎さん(凸版印刷)

宅 準三さん(左)工藤祥一郎さん(右)

たく・じゅんぞう(左)
トレーラーやタンクローリー、環境整備車輌の製造・販売を行なう東邦車輛の営業本部に属し、デオマジックVICオイルを開発・販売。

くどう・しょういちろう(右)
印刷業を軸に精密電子部品製造など事業領域を多角化する凸版印刷のビジネスイノベーション本部に属し、デオマジック製品の販売業務を担当。

デオマジックVICオイルで汲み取りの実証実験。窓を閉める人がいない。

デオマジックVICオイルで汲み取りの実証実験。窓を閉める人がいない。

 前項までは研究段階の事例だったが、最後は研究が実を結んだ事例をご紹介しよう。
「衛生車(バキュームカー)のニオイは、あきらめていた部分もありました」
 そう話すのは、バキュームカーやトレーラーなどを製造販売する東邦車輛部品部部長・宅準三さん。下水道が普及した都心ではバキュームカーを見かけることはなくなったが、強烈な糞便臭に鼻をつまんだ思い出はあるだろう。
「より強いニオイで消そうとしたり、ニオイを包み込んだりと試しましたが、ニオイは消せませんでした」(宅さん)
 その悩みを解決したのは紡績大手のシキボウが開発した消臭技術だ。ある日、シキボウの開発部長は、朝日放送のテレビ番組『探偵!ナイトスクープ』で「お父さんの工具箱がうんこくさいので、なんとかしてほしい」という依頼を香料会社がみごと解決したのを見ていた。開発部長は、すぐにこの香料会社に連絡をとり、共同開発をスタート。そしてデオマジックという商品が生まれた。販売代理店の凸版印刷・工藤祥一郎さんは言う。
「高級な香水には、いろいろな香料に加えてごく微量の糞便臭のようなニオイの香料が含まれています。こうすることで、よりいい香りになる。その技術を応用したのです。現場に糞便臭はあるのだから、残りの香料さえあればいい。ニオイに蓋をするのではなく、いいニオイに変えるという発想です」
 問題は、バキュームカーにどのように組み込むか。実際に作業をする会社の協力を得て実験を繰り返した。
「ニオイは糞便を吸い上げるときの排気が原因なので、排気フィルターにデオマジックをしみこませたのですが、強烈なニオイに太刀打ちできませんでした。ある日、車輌の技術者が『潤滑油に混ぜたら?』と思いついた。潤滑油は糞便を吸引する真空ポンプを回すためのもので、排気が必ず通る。これで、完全にニオイを変えることに成功し、バキュームカー用のデオマジックVICオイルができました」(宅さん)
 全国を走るバキュームカーは、現在約2万台。下水道が整備されていない地区や地震などで下水管が壊れた地域では、浄化槽の需要が高い。
「汲み取り作業中、周辺の住宅では慌てて窓を閉める光景が見られました。でも、デオマジックを使った車なら、窓が開いたままなんです」(宅さん)
 ゴミ収集車(生ゴミ)、畜産など、デオマジックは活躍の場を広げている。

イラスト/伊野孝行

取材・文/山下隆 写真/池本昇、坂本禎久、テラサカトモコ イラスト/伊野孝行

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