「次々に起こる官僚の不祥事は、安倍官邸の一極主導も大きな原因です」ゲスト前川喜平さん(現代教育行政研究会代表、前文部科学事務次官)

「次々に起こる官僚の不祥事は、安倍官邸の一極主導も大きな原因です」ゲスト前川喜平さん(現代教育行政研究会代表、前文部科学事務次官)

一強政治のもと、社会を覆う執拗な靄(もや)のような思いを一掃してくれたのが、前川喜平さんだった。
1月に前川さんの講演会を主催した時、控え室でしみじみと「本当に自由になれました」と晴れ晴れとした表情でおっしゃっていた。
筋を通すことで手にした自由についても、まさに「自由に」存分に語っていただこう。

落合恵子

「獣医学部の件を早く進めてほしい」と首相補佐官。

落合 本日は、文部科学事務次官でいらっしゃった前川さんに「官僚と政治」についてお伺いしたいと思います。 森友・加計疑惑、自衛隊の日報隠蔽、財務事務次官のセクシュアル・ハラスメントなど、官僚の不祥事が次々に起きていますが、まず前川さんが「当事者」でもあった加計学園問題(下コラム参照)からお聞かせください。

前川 加計学園問題で問われるべきことは「行政の私物化」です。約50年も新設が認められなかった獣医学部の設置を、首相の「お友だち」が理事長を務める加計学園に許可するために官僚組織が動いたと考えざるを得ない。 私が文科省の事務次官に就任したのは2016年6月ですが、その約3ヵ月後の9月下旬に、内閣府から文部科学省に対し、「平成30(2018)年度の今治市の獣医学部新設に向けてスケジュールを組むように」という指示がありました。その前の9月9日には、当時首相補佐官だった和泉洋人さんに私は呼ばれて「獣医学部の件を早く進めてくれ。総理が自分の口から言えないから、私が代わって言うんだ」と言われました。この時、この案件には首相の意思があると感じました。この発言を和泉さんは「覚えていない」と言いますが、私は鮮明に記憶しています。

落合 「覚えていない」という言葉、一連の騒動の中でよく出てきますね。

前川 10月に入ると、圧力がさらに強まったので、当時の担当課長が「どうしてそんなに急ぐ必要があるのか」と内閣府に確認に行きました。すると内閣府の藤原豊審議官(当時)が「平成30年4月開学は動かせない、これは総理のご意向と聞いている」と言ったのです。この会話は文科省の文書にも記録されており、当初は文書の存在を認めなかった文科省も「再調査の結果、文書が発見された」と認めました。

落合 加計学園は15回も獣医学部新設を申請して、そのたびに落ちていますよね。そこまでして、なぜ獣医学部を開設したいのでしょうか。

前川 これは想像でしかないのですが、獣医学部は非常に儲かるんですね。志望者が多くて定員割れすることはまずあり得ない。授業料が年間300万円程度で、入学金なども含めると6年間で学生1人あたり2000万円前後を納付します。学生が毎年入ってくれば莫大な収入になるわけです。

落合 そうすると、どうしても獣医学部を新設したい加計孝太郎理事長が、友人である安倍首相にお願いをして、首相がそのために動いたと?

前川 今まで明らかになっている事案を見ると、首相が何らかの形でその意思を周辺に伝えた可能性が高いと思います。首相の周りの人間が意向を忖度して勝手に動いたとは考えにくい。

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落合 獣医学部新設のためには、厳しい基準をクリアする必要があるそうですが、加計学園はどうだったのですか。

前川 簡単に言いますと、基準を満たすためには、既存の獣医学部ではできないことをやる、つまりは全く新しいタイプの獣医学部である必要があるのですが、その点についてのまともな審査は行なわれていません。
同時期に京都産業大学が、加計学園と同じ「国家戦略特区」の枠組みを利用した獣医学部新設プランを出していたのですが、こちらは「京都大学のiPS細胞研究所と連携する」という構想を持っていました。国家戦略特区は、国際競争力の強化や国際拠点の形成を目的として規制緩和を行なう制度ですから、その意味では京産大のほうが有利でした。ところが、新設は「広域的に獣医学部が存在しない地域に限る」「平成30年度から開学可能なものに限る」という加計学園に有利な条件が突然加えられ、京産大は排除された。「平成30年度から開学」という条件が公表されたのは平成29年1月。開学までたった1年2ヵ月という無茶な日程に、加計学園だけが手を挙げたのです。

落合 とすると、「加計学園」という答えが、最初から決まっていたとしか思えません。

加計学園問題とは?

2017年1月、愛媛県今治市に獣医学部を新設する「国家戦略特区」の事業者に学校法人加計学園が選定される。同年11月、加計学園が運営する岡山理科大学の獣医学部新設が文科省に認可される。その選定過程が不透明で、加計学園理事長の友人である安倍首相の関与があったのではないかとの疑惑が浮上する。獣医学部は18年4月に予定どおり開学したが、文科省や愛媛県からは、選定に「首相の意向」が影響したことを示すような文書が複数発見されている。

「首相の周りの人間が意向を忖度して、勝手に動いたとは考えにくいです」 前川

「首相の周りの人間が意向を忖度して、勝手に動いたとは考えにくいです」 前川

「どうしても獣医学部を新設したい加計孝太郎理事長が、友人である安倍首相にお願いをして、首相がそのために動いたと?」落合

「どうしても獣医学部を新設したい加計孝太郎理事長が、友人である安倍首相にお願いをして、首相がそのために動いたと?」落合

「動かぬ証拠」となった愛媛県の記録文書。

落合 安倍首相はこの問題に「関与していない」と言い続けていますが、次々と明らかになる「証拠」を目にすると、多くの国民が疑問を抱くのはごく自然ですよね。

前川 多くの人が「嘘だろう」と思っていたところに、「動かぬ証拠」として出てきたのが、今年4月に存在が明らかになった愛媛県作成の文書です。
これは、15年4月2日に、愛媛県の地域政策課長が加計学園の事務局長や今治市の企画課長らとともに官邸を訪れ、当時首相秘書官だった柳瀬唯夫氏と面会した際の記録です。愛媛県の中村時広知事も記録の存在を認めており、同じ文書が農林水産省からも出てきています。文書には当時の面会内容が具体的に記述されていますし、愛媛県の職員が嘘を書く理由は全くないのですから、信憑性の高い記録と言えます。
この文書で明らかになったのは、15年4月2日の面会以前に、安倍首相が加計理事長と会食し、その時に加計学園の獣医学部設置に関する話題が出ていたということ。それから、柳瀬首相秘書官が面会相手に「本件は首相案件」と発言したことです。

落合 柳瀬さんは今年5月10日に国会で、愛媛県の文書に関して答弁しましたが、前川さんはどのような印象を持たれましたか。

前川 全体として信憑性が薄弱で、首相を守るために答弁を作り上げているように感じました。それまで「記憶の限りでは会っていない」としていた面会の件については、加計学園関係者とは官邸で会ったと認めながら、愛媛県や今治市の職員が同席していたか覚えていないと述べています。でも、そんなことありえないでしょう。

落合 面会当日、愛媛県の職員が柳瀬さんと交換した名刺の存在を、柳瀬さんの国会招致のあと愛媛県知事が明らかにしていますね。「本件は首相案件」との発言については、「国家戦略特区制度は安倍政権の看板政策として説明した」と答弁。つまり、「加計学園が首相案件だとは言っていない」ということですが、これもとってつけたような。

前川 柳瀬さんの答弁は、愛媛県文書に対する反証には全くなっていません。つまり、愛媛県文書の内容は事実と推定され、加計学園の獣医学部新設計画を「17年1月20日に知った」という、安倍首相の答弁は虚偽になります。

落合 柳瀬さんは、2015年4月2日だけでなく、その年の2〜3月ごろから6月にかけて都合3回、首相官邸で加計学園関係者と面会したと答弁しました。柳瀬さんの答弁で私が最も不自然だと思うのは、加計学園と3回も面会しているのに、安倍首相に「報告したことも指示を受けたことも一切ありません」と答弁していることです。そんなことあるのでしょうか。

前川 首相秘書官の職務遂行上あり得ません。首相と秘書官の間には誰も介在しておらず、まさに一心同体の関係です。似たような肩書きの首相補佐官は官邸の4階に席がありますが、首相秘書官は首相と同じ3階に席があり、柳瀬さんも言っているとおり1日に5回も10回も顔を合わせるわけです。首相の大事な友だちの学園関係者に3回も会っているのに、報告を一切しないなんてことは考えられません。

落合 柳瀬さんご自身が「国家戦略特区制度は安倍政権の看板政策」だと言っているのですから、それに関わることであれば首相に報告するはずですよね。また、柳瀬さんは国家戦略特区に関連して加計学園以外の学校の関係者とは会ったことがないとも答弁していますから、「加計ありき」の印象がさらに強まりました。前川さんは文科省でこの加計学園の問題に触れられた時、どんな思いを抱かれたのでしょうか。

前川 公平・公正な行政を行なうという観点からして、やってはいけない仕事だと思いました。この件に関わった職員みんながそう考えていたでしょう。

次々に起こる官僚の不祥事

役所の仕事としてあり得ない決裁文書の改竄。

落合 森友学園問題についてもお聞きしたいと思います。当初は、財務省が国有財産である土地を、はっきりした根拠もなく8億円も値引きして売却したことが問題になりました。ところがその後、「公文書の改竄」というさらに大きな問題に発展しました。

前川 土地取り引きに関わる公文書を問題発覚後に改竄して国会に提出したわけですが、この改竄が明らかになったのは今年3月2日の朝日新聞の報道がきっかけでした。それがなければ財務省は今も、国民を騙し続けていたでしょう。さらに、4月にはNHKなどの報道によって、財務省理財局が森友学園側に、値引きの根拠となる「ゴミ撤去」について口裏合わせを依頼していたことも明らかになっています。

落合 財務省は当初、土地の取り引きに関する文書の多くを「廃棄した」としていましたが、後日その存在が明らかになりました。防衛省・自衛隊の日報問題もそうですが、そもそも公文書をそんなに簡単に廃棄できるのですか。

前川 公文書管理法にガイドラインが定められており、それぞれの文書の重要性や性格によって保存期間が決められているのですが、その判断は各省庁に任されています。そして、保存期間が1年未満とされた文書については、ファイルの管理簿にも掲載しないまま廃棄できることになっているのです。

落合 森友学園問題ではさらに公文書の改竄があったわけですが、一度決裁した公文書の書き換えというのは……。

前川 絶対にあり得ないことです。公文書が決裁されるということは、組織としての意思決定が行なわれることですから、それ以降は一言一句変えてはいけない。さらに、その改竄した文書を国会にまで提出したことは大問題です。役所の仕事としてあり得ないだけでなく、国会を欺いたという意味でも、絶対にやってはいけないことでした。

落合 官僚自身はそんなことをしても何の得にならないわけで。

前川 むしろ、刑事訴追の恐れがあるので官僚だけの判断でやるわけがない。「動かざるを得ない人」の存在や指示があったとしか思えません。

落合 加計も森友も非常に似た構図です。「首相と関係のある人物」を優遇するために、不正が行なわれたのではないかと。文書改竄当時の財務省理財局長だった佐川宣寿さんは今年3月に国会に証人喚問されましたが、話のすり替えや証言拒否の連続でした。首相秘書官だった柳瀬さんもそうですが、何かをかばうために必死になっているように見えました。同じ官僚だった前川さんはどのように感じられましたか。

前川 両者とも不誠実な答弁だったのは間違いないですが、同じ役人だった身としては、どうしても「気の毒だな」という気持ちになってしまいますね。

落合 これからの長い人生、すべてを背負って生きていくのはたまらないだろうな、と私も思います。ちなみに、「モリカケなんて些細な問題、国会はもっと重要なことを審議しろ」という声もありますが、どう思われますか。

前川 公務員は、憲法15条にあるように「全体の奉仕者」でなくてはなりません。一連の問題では、それがないがしろにされたわけですから、「些細な問題」ではまったくないです。

落合 官僚の不祥事としては、財務省の福田淳一前事務次官による取材記者に対するセクシュアル・ハラスメントもありました。前川さんは官僚時代、取材記者とどのように接していましたか。

前川 記者と食事をしたことはありますし、取材にも応じていましたが、こちらから呼び出すことはありませんでした。だから、福田さんの行動は理解できません。私は、会社によって優遇するなんてことはしませんでしたが、そうでない人もいましたね。読売と産経だけに情報を流す政治家もいました。

「第二次安倍内閣の発足以降、官邸が官僚の人事権を手中に収めたことで、官僚側は完全に萎縮しています。」前川「加計や森友の問題を見ると、強大な権限を持つ安倍官邸に官僚がひれ伏しているかのようですね。」落合

「第二次安倍内閣の発足以降、官邸が官僚の人事権を手中に収めたことで、官僚側は完全に萎縮しています。」前川「加計や森友の問題を見ると、強大な権限を持つ安倍官邸に官僚がひれ伏しているかのようですね。」落合

今の状況は「政治主導」ではなく「官邸一極主導」。

落合 さて、55年体制以降、「政官財の癒着」や「官僚支配」など、「官僚主導」の弊害が長らく語られてきました。それを是正するということで、民主党政権下での事務次官会議の廃止や、第二次安倍政権下では国家公務員幹部の人事を決める内閣人事局の発足など「政治主導」への動きが続いています。このことはどう見ておられますか。

前川 基本的には政治主導はいいことだと思います。選挙で選ばれて国民の直接の信託を受けている政治家が最終的に物事を決定していくのでなければ、代議制民主主義は成り立たないからです。私が入省したころなどは、「全ては役人が決めるんだ」というような官僚側に驕りがありましたから。

落合 私もそう思いますが、それでは、現在の「政治主導」と呼ばれる状況はどうでしょう。

前川 今は「政治主導」というよりも「官邸一極主導」という状態で、官僚の力が非常に弱まっています。内閣人事局の設置によって官邸が官僚の人事権を手中に収めたことが一番の原因でしょう。ふるさと納税の拡大に疑問を呈した総務省の幹部が左遷されるなど、官邸の意向に沿わない官僚が「飛ばされる」ということも実際に起こっています。今の状況はひどすぎます。第二次安倍内閣が発足して以降、官僚側は完全に萎縮していますね。

落合 加計学園の問題では、安倍首相の「(加計学園の獣医学部新設計画を)17年1月20日に知った」という答弁に合わせるために柳瀬さんは不自然な答弁をしたように思えます。そして森友学園の問題では「私や妻が関係していたということになれば総理大臣も国会議員も辞める」という首相の答弁に合わせるために、安倍昭恵さんの名前を含む文章が大量に改竄されたように見えます。いずれも、強大な権限を持つ安倍首相、安倍官邸に対して官僚がひれ伏しているかのように見えますが。

前川 官邸に睨まれたら出世ができなくなる、そうならないためには「あったことを、なかったことに」してでも、自己保身に走る。そういう意味では、次々に起こる官僚の不祥事は、安倍官邸の一極主導も大きな原因です。

落合 前川さんは今は講演活動など忙しい日々を送られているそうですね。

前川 講演のご依頼をいただくのはありがたい反面、少しおかしいとも思います。私がヒーローのように扱われているような気がして……誰であれ、偶像化する風潮はよくないです。

落合 講演だけでなく、厚木市と福島市の夜間中学でボランティアとして教えられているそうですね。

前川 長年、教育行政に携わりながら、毎日子どもたちと接して現場で感動を味わえる教師という仕事がうらやましかったんですね。だから、夜間中学で生徒と接するのは楽しいですよ。年配の方が「難しい漢字を書けるようになった」と喜んでくれるなど、「学び」の瞬間に立ち会えるのは嬉しい。

落合 それは素敵ですね。

前川 優等生的な物言いになりますが、「日本の教育をよくすること」に貢献していきたい、今はそう考えています。

構成・仲藤里美 撮影・細谷忠彦

まえかわ・きへい 1955年、奈良県生まれ。東京大学法学部卒業。79年、文部省(当時)に入省し、初等中等教育局長、審議官などを歴任する。
2016年6月、事務次官に就任。
17年1月、文科省での「天下り問題」を受けて事務次官を辞任する。

おちあい・けいこ 1945年、栃木県生まれ。作家。21年ぶりの小説『泣きかたをわすれていた』(河出書房新社)を4月に刊行。

前川さんの著書

『面従腹背』毎日新聞出版 本体1300円+税

『面従腹背』毎日新聞出版 本体1300円+税

落合さんの著書

『泣きかたをわすれていた』河出書房新社 本体1500円+税

『泣きかたをわすれていた』河出書房新社 本体1500円+税

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