通販生活の疑問 秘密厳守のあの仕事の中身はどうなっているんだろう?

通販生活の疑問 秘密厳守のあの仕事の中身はどうなっているんだろう?

「王様の耳はロバの耳」の寓話があるとおり、古今東西、秘密を守ることは大変苦しいことでもあります。それが仕事となると責任も重大。それぞれの分野の専門家に、気苦労の多い秘密厳守の仕事の中身と、その秘密をどのように守っているのか聞きました。

秘密厳守の仕事(1)週刊誌記者 中村竜太郎さん(ジャーナリスト)

秘密厳守の仕事(1)週刊誌記者 中村竜太郎さん(ジャーナリスト)

なかむら・りゅうたろう●1964年、山口県生まれ。アパレル会社勤務を経て、95年から『週刊文春』編集部に勤務。2014年に独立、現在は月刊『文藝春秋』などで執筆する他、テレビのコメンテーターとしても活躍する。
なかむら・りゅうたろう●1964年、山口県生まれ。アパレル会社勤務を経て、95年から『週刊文春』編集部に勤務。2014年に独立、現在は月刊『文藝春秋』などで執筆する他、テレビのコメンテーターとしても活躍する。

 スクープを連発し、「文春砲」の代名詞でも知られる『週刊文春』(以下、文春)。その記者は雑誌が発売されるまで、つかんだ秘密をどのように守っているのだろうか。
文春でスクープを担うのは、約40人の「特集班」。日頃から独自の人脈を駆使して情報を収集し、毎週木曜日の「プラン会議」に各自5本のネタを持ち寄る。計200本ほどのネタを編集長と7人いるデスクが精査し、翌週発売のラインナップを決定するという。
「プラン会議にかける段階である程度の証拠はつかんでいます。私がスクープした大物ミュージシャンの薬物事件も、彼が薬物を吸引しているビデオの存在を確認したうえで編集長とデスクに直接持ち掛けました。
実は以前に違う週刊誌にいたころ、会議にあげたネタが事前に漏れていたことがありました。だから特大のスクープを狙えるネタは会議ではなく、デスクと編集長にだけ知らせて秘密裏に取材を進めることもあるんです」
そう語るのは、元・文春のエース記者で、現在はフリージャーナリストとして活躍する中村竜太郎さん。人気タレントの不倫、現役閣僚の汚職事件、組織ぐるみの事故の隠蔽──。スクープの多くは、「こんな話があるらしい」という噂レベルのネタを丹念に調べ上げることによって成就する。記事になって世に出るまでは、情報が漏れることがあってはならない。
「『文春の記者が嗅ぎまわっている』と本人はもちろん、他媒体に悟られてもスクープは取れません。そのために、情報を聞き出す段階では極力正体を明かさず、取材と悟られないようにしています。世間話のフリをして欲しい情報を聞き出すテクニックが必要です」
証言してくれる人物と会う際の場所選びも重要になってくる。内部告発の場合、情報提供者も危険に晒されており、記者と接触した事実も秘密にしておかなければならない。話を聞くのは必ず個室。時にはドラマのワンシーンのように、人気のない埠頭で落ち合うこともある。
「2004年にNHKプロデューサーの横領事件をスクープした時には、NHK側から『誰が情報を漏らしたのか』と迫られました。もちろん、情報源の秘匿はジャーナリストの原則ですからお答えしませんでしたが、同じ編集部内であっても、『A氏が』というようにぼかして伝えていました。
情報はどこから漏れるかわかりませんからね。ミュージシャンの薬物中毒をスクープした時も、騒動の渦中に本人から『話をしたい』と連絡が入りました。彼は自身の潔白を訴えると同時に、『大手芸能事務所の社長がゲラ(校正刷り)を見て、僕を心配している』と話すのです。発売前のゲラは当然部外秘ですが、それすら漏れてしまう。徹底的に調査したので今は誰が漏らしたかもわかっていますが、身内すら信用できないというのが週刊誌記者時代の私の偽らざる本音ですね」

イラスト/伊野孝行

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秘密厳守の仕事(2)元号制定 山本博文さん(東京大学史料編纂所)

秘密厳守の仕事(2)元号制定 山本博文さん(東京大学史料編纂所)

やまもと・ひろふみ●1957年、岡山県生まれ。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。92年、『江戸お留守居役の日記』で日本エッセイスト・クラブ賞を受賞。『流れをつかむ日本の歴史』(KADOKAWA)など著書多数。
やまもと・ひろふみ●1957年、岡山県生まれ。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。92年、『江戸お留守居役の日記』で日本エッセイスト・クラブ賞を受賞。『流れをつかむ日本の歴史』(KADOKAWA)など著書多数。

 来年5月1日から使用される次の元号。政府は1ヵ月前の4月1日に公表予定と発表したが、元号自体は誰がどうやって決めているのだろうか。『元号 全247総覧』(悟空出版)の編著者である歴史学者の山本博文さんに聞いた。
「日本で最初に制定された元号は、『大化の改新』で有名な大化。平安時代には制定の流れも固まり、現在までほぼ変わらない方法で決められています。
まずは中国古典に詳しい文章博士の菅原氏らが朝廷から『元号勘者』に指名され、意味や吉兆などを考慮したうえで候補を挙げます。その中から公卿が3つくらいに絞り込み、最終的には天皇が選ぶのです。
現在の元号制定も、首相が学識経験者を指名し、挙げられた候補を官房長官が整理・検討して3案程度に絞ります。その後、有識者の懇談会や衆参両院の正副議長の意見聴取などを踏まえ、最終的に首相が選んだものを閣議で決定し、天皇の決裁を仰ぎます。考案にあたる元号勘者は公表されませんが、学界の誰もが納得する人選でなければいけません。おしゃべりな人は、まず選ばれないでしょうね(笑)」
元号には「俗用されていない」という条件があるため、商標登録されていないか、会社名や商品名に使われていないかなど、ラーメン店の屋号に至るまで候補の段階で調べる必要がある。つまり、元号制定はそれなりに時間が必要な作業のはず。
しかし大正から平成までは、建前としては天皇の崩御を受けて考案を始めている。内閣内政審議室長として「平成」の選定に携わった的場順三さんらの証言によれば、昭和60年には秘密裏に準備が始まっていたという。
最終候補に残ったのは、「平成」「修文」「正化」の3案。昭和天皇が崩御した昭和64年1月7日午後1時から「元号に関する懇談会」が開かれ、出席した有識者8人中5人が「わかりやすく、親しみやすい」と「平成」を推した。
「関係者の証言などから判明していますが、『平成』を提案した山本達郎先生(東洋史、東京大学名誉教授)は、平成13年に亡くなるまで、ご自身が考案に携わったことは誰にもお話しにならなかったと聞いています」
興味をそそられるのは、新しい元号が何になるかだろう。昭和や平成の制定時には、マスコミによる激しいスクープ合戦が繰り広げられた。
「これまで247の元号に使われた漢字はわずか72種類です。多いものは、永=29回、元・天=27回、治=21回、応=20回。新しい元号のうち1文字は、72種類の中から選ばれると思います。明治以降に使われた8文字は外されるでしょうから、私は『文』が選ばれるのではないかと予想しています。
出典となる中国の古典も『尚書=書経』や『史記』など限られたものですし、今はすべてデータベース化されています。私よりもAI(人工知能)に予想をさせたら案外当たってしまうんじゃないですか(笑)」

イラスト/伊野孝行

秘密厳守の仕事(3)裁判員 田口真義さん(裁判員経験者)

秘密厳守の仕事(3)裁判員 田口真義さん(裁判員経験者)

たぐち・まさよし●1976年、東京都生まれ。東京地裁で2010年に裁判員をつとめる。2012年、裁判員経験者同士の交流などを目的とした団体を発足、現在33人が参加する。編著に『裁判員のあたまの中』(現代人文社)。
たぐち・まさよし●1976年、東京都生まれ。東京地裁で2010年に裁判員をつとめる。2012年、裁判員経験者同士の交流などを目的とした団体を発足、現在33人が参加する。編著に『裁判員のあたまの中』(現代人文社)。

 開始から10年目に入った裁判員制度。これまでに8万人以上が裁判員、補充裁判員として実際の刑事裁判に参加しているが、裁判員は一生にわたり「守秘義務」を負うことになる。
裁判員裁判は、殺人や強盗致死傷などの重大犯罪に限って開かれるので、裁判員にかかる精神的な負担は大きい。裁判員経験者の団体「LJCC(Lay Judge Community Club)」のまとめ役、田口真義さんによると、「裁判のことを誰かに聞いてほしいが、守秘義務があるから話せない」と思いつめる経験者も少なくないという。
「最高裁は、裁判に参加した感想は守秘義務の範囲外としていますし、見聞きしたこと全てを秘密にする必要はないはずです。経験者が思いを語り合う場は制度のブラッシュアップにもつながるはずですから」
では、実際の裁判員裁判では、どんなことがあるのだろう。
「私が担当したのは、著名人が被告人となる事件でした。裁判中は、連日大勢のマスコミが押し寄せましたので、これは特別の配慮だと思いますが、判決宣告の日は裁判所の職員が駅まで送ってくれました。
過去には暴力団の幹部が被告人となった裁判で、裁判員が元組員に脅される事件がありました。被告席や傍聴席から裁判員の顔が見えるので、報復を不安がる人は多いです」
裁判員の席は裁判官の隣にあり、裁判中は必然的に法廷を見下ろすことになる。傍聴人や被告人、証人の表情もよく見えるのだという。有罪かそうでないかといった事実認定や、量刑の決定は評議で行なわれる。
「裁判員として私が感じたのは、『自分が被告の席に座っていてもおかしくない』ということ。たとえば、気をつけていても交通事故を起こすことはあるし、冤罪被害に遭う可能性だってあります」
裁判員はくじで選ばれている。毎年、選挙管理委員会がくじで裁判員候補者名簿を作成し、地方裁判所に提出する。そして裁判員裁判に該当する事件が起こると、候補者はさらにくじで絞り込まれ、選ばれた人に選任手続きの期日を知らせる「呼出状」が届く。
裁判員の任務は基本的に義務である。適切な理由があれば辞退もできるが、呼び出しを受けた候補者には出頭が義務付けられている。ところが、この出席率が年々低下しており、17年は63.9%だった。
「時間的にも精神的にも大きな負担になるのは事実ですから、僕は決して裁判員になることを積極的にお勧めはしません」
しかし、裁判員の経験は、田口さんの人生を大きく変えた。LJCCを立ち上げたほか、受刑者の更生支援に取り組み、本業の不動産業では、出所後の人たちに率先して物件を紹介しているという。最高裁が17年に行なった経験者アンケートでは、96.3%が「よい経験と感じた」と回答している。秘密厳守を含めて大変ではあるが、得がたい充実感もあるのだろうか。

イラスト/伊野孝行

秘密厳守の仕事(4)産業スパイ 梅村陽一郎さん(弁護士)

秘密厳守の仕事(4)産業スパイ 梅村陽一郎さん(弁護士)

うめむら・よういちろう●1963年、東京都生まれ。早稲田大学法学部卒業後、94年に司法試験合格。第二東京弁護士会知的財産権法研究会で知的財産や著作権法を研究。共著書に『不正競争防止法の新論点』(商事法務)など。
うめむら・よういちろう●1963年、東京都生まれ。早稲田大学法学部卒業後、94年に司法試験合格。第二東京弁護士会知的財産権法研究会で知的財産や著作権法を研究。共著書に『不正競争防止法の新論点』(商事法務)など。

 産業スパイと言うと、厳重管理を施す企業と特殊技術を使って情報を奪うスパイとの熾烈な攻防といった、ハリウッド映画のようなシーンをつい想像してしまう。ところが、企業機密の漏洩事件に詳しい梅村陽一郎弁護士は、「ハッキングやサイバー攻撃といったハイテクな手法よりも、ライバル企業の従業員をだまして顧客名簿や研究データを盗んだり、転職する社員が『手土産』として元の勤務先の顧客名簿を持ち出すなど、最近はアナログな手法に回帰している印象です」と話す。
「2012年に、日本最大の鉄鋼メーカーである新日鐵住金が、鋼板の製造技術盗用をめぐって韓国の鉄鋼最大手・ポスコに損害賠償を求める訴訟を起こしました。この事件が発覚したのは、別の中国企業へ製造技術情報を漏洩して逮捕されたポスコの元社員が、『盗んだ情報はもともと新日鐵住金のもの』と韓国の裁判で証言したことでした。日本企業を退職した社員によって海外に技術が流出していると言われていましたが、新日鐵住金は約20年間、自社の情報漏洩の証拠をつかめていなかったのです」
独立行政法人情報処理推進機構が2017年に発行した「企業における営業秘密管理に関する実態調査」によると、企業が自社の情報漏洩を認識するきっかけとして最も多く挙げているのは、全体の41.3%を占める「第三者からの指摘」。
2014年に発覚したベネッセの個人情報漏洩事件も、「心当たりのない会社からダイレクトメールが届く」という声が数多く寄せられたことがきっかけで、グループ企業の元エンジニアによる顧客情報の持ち出しが判明した。
「秘密に接する立場にある従業員との間に秘密保持契約や、一定期間は競合他社への転職を制限する競業避止義務契約を結ぶ企業もありますが、退職した社員の行動を全て把握することは難しいです。
秘密防御の肝は、従業員を管理すること。具体的な対策として、社員のパソコン画面を逐一記録する企業も増えていますが、やりすぎると社内がギクシャクしてしまう。特に、社員数が少ない中小企業ではなかなかやりづらいでしょうね」
また、何が企業にとって秘密かを理解することも大切だ。「不正競争防止法」では、次の3要件を満たした場合に限って「営業秘密」と定めている。
(1) 秘密として管理されていること
(2) 有用な技術上又は営業上の情報であること
(3) 公然と知られていないこと
「私のところに『情報漏洩があった』と相談に来る経営者は多いのですが、詳しく話を聞くと、ほとんどが先の(1)の要件を満たすような事前対策をしていないんです。それでは訴訟は起こせませんし、ほかに打てる手もありません。秘密防御にはそれなりの投資も必要になりますし、完璧に行なえている企業はほとんどないというのが現実ではないでしょうか」

イラスト/伊野孝行

秘密厳守の仕事(5)核燃料輸送 松久保肇さん(原子力資料情報室)

秘密厳守の仕事(5)核燃料輸送 松久保肇さん(原子力資料情報室)

まつくぼ・はじめ●1979年、兵庫県生まれ。金融機関勤務を経て、2012年より原子力資料情報室研究員。原子力の国際展開などを主な研究分野とする。共著書に『検証 福島第一原発事故』(七つ森書館)など。
まつくぼ・はじめ●1979年、兵庫県生まれ。金融機関勤務を経て、2012年より原子力資料情報室研究員。原子力の国際展開などを主な研究分野とする。共著書に『検証 福島第一原発事故』(七つ森書館)など。

 原子力発電所で使われる「核燃料」は、夜中などにこっそり輸送されていて、それを監視する市民団体があるのだという。そうした監視団体とも情報を共有する原子力資料情報室の事務局長、松久保肇さんに聞いた。
「未使用の核燃料は、日立や東芝、三菱重工など原子炉メーカーの関連運送会社が、核燃料の製造会社から各原発へ輸送しています。運搬の期日やルートは原則非公開。運搬前には原子力規制委員会へ審査申請書が提出されます。輸送容器表面の放射線量が基準値以下であるかを確認するためですが、これも運搬前は非公開です。ただ各電力会社が発表する『新燃料等の輸送計画』に輸送量や大まかな輸送時期が記されています」
陸上輸送の場合、両脇と後部に25センチ四方の黄色と黒のハザードマークをつけたトラックで運搬される。前後には警察車両と運送会社の車両の警備がつき、隊列を組んで走行する。
「運搬中は基本的には幹線道路を走ります。東京であれば首都高速を下りることはありません。なので輸送ルートについても、実はわかっているのです。
ただ、警備にはおそらく覆面車両も使われていて、私どものスタッフが車で追走したところ、数台の車に前を塞がれ、輸送車の隊列を見失ってしまったことがあったそうです」
では、「使用済み核燃料」の場合はどうなのだろうか。
各原発から青森県六ヶ所村への使用済み核燃料の運搬を担っている原燃輸送株式会社に取材を申し込んだところ、「当社のホームページで情報公開をしていますので、そちらをご覧ください」との回答だった。
確認してみると、六ヶ所再処理工場向けの使用済み核燃料の輸送量は、ピーク時の540トン(06年度)から極端に減少し、17年度は0になっている。松久保さんによれば、「再処理工場が稼働できず、六ヶ所の使用済み燃料プールはほぼ満杯です。だから現在国内では使用済み核燃料の運搬はほとんど行なわれていません」とのこと。
国内の原発から出る使用済み核燃料のうち一部はイギリスやフランスで再処理されてきた。再処理で出た放射性廃棄物は「ガラス固化体」となって日本へ海上輸送される。
また海外での再処理から出たプルトニウムも核燃料となって日本に返還される。核兵器に転用可能なプルトニウムが、万が一テロリストの手に渡ってしまっては大変だ。
「運搬に使われるのは、パシフィック・ヘロン号など7000トン級の専用大型輸送船で、船尾には機銃も備えています。運搬は常に2隻で行ない、一方は空にしてどちらにプルトニウムが積まれているかわからないようにしているんです」
輸送は危険の伴う大がかりな作業だが、そのコストは誰が負担するのか。
「もちろんこうした輸送費も電気料金に反映されていますから、最終的に支払うのは電気使用者のみなさんです」

イラスト/伊野孝行

取材・文/石井謙一郎、片山幸子 イラスト/伊野孝行

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