九条国民投票はいまの「2択」では国民の声を反映できない。

九条国民投票はいまの「2択」では国民の声を反映できない。

「現行九条を変えない」案
「自衛隊の存在のみ明記する」案

九条国民投票について、安倍総理はこんな2択制の国民投票を提案していますが、改正案がたった1案しかない国民投票ではとても九条に関する国民の意見を集約的に汲みとることはできないと通販生活は考えます。自衛隊の存在を明記するだけの安倍改正案よりは、
●「二項を廃止し、専守防衛に徹する自衛隊を明記する」案(武器を携帯して海外に出ることはできない)
●「二項を廃止し、集団的自衛権を行使できる自衛隊を明記する」案(外国軍と一緒に行動できる)
このほうがはるかにわかりやすいと思うのですが。さらに言えば安倍案の「自衛隊」は、恐らく集団的自衛権を行使できる自衛隊だと思うのですが、だとすると、「現行九条を変えない」案が勝利した時は、2015年9月に強行採決された「集団的自衛権の行使容認決議」(安保法)も自然消滅すると解釈していいのですね。国民投票について定めた憲法96条は、「投票は二者択一制にかぎる」と決めているわけではありません。「国会の3分の2の賛成による提案」とあるだけです。3分の2を獲得した側がたった1個の改正案で押し切るというのはあまりにも乱暴ではないですか。九条を改めて定め直そうというのであれば、最低、3〜4択の国民投票にしませんか。この本誌の主張について、識者のご意見をうかがいました。(発言は五十音順です) 

「安倍案」か「現行九条」の2択では、両方に賛成ではない僕は投票しにくい。想田和弘さん

そうだ・かずひろ●1970年、栃木県生まれ。東京大学文学部卒業、ニューヨーク在住。映画作家として、台本やナレーションを使わないドキュメンタリー「観察映画」を手がける。最近の監督作品に『牡蠣工場』(15年)、『港町』(18年)、近著に『観察する男』(ミシマ社)などがある。

 僕は長年、憲法九条は変えないほうがいいと思っていました。しかし、2015年の安保法成立を機に「九条に自衛隊の存在を明記するとともに、条文でその活動範囲を厳しく制限すべきだ」と考えるようになりました。
 安保法の成立によって、集団的自衛権の行使を認められた自衛隊は海外で米国の戦争に参加できるようになり、非戦を定めた九条は、ほとんど意味をもたなくなりました。であれば、九条の条文を守り続けるよりも「新しい九条」を創って、自衛隊の行動に歯止めをかけるべきです。
 こうした主張に対して批判があることは承知しています。
 たとえば、「新九条」でどれだけ自衛隊の活動範囲に縛りをかけても、時の政権に拡大解釈されれば歯止めにならないという批判です。確かにそうした懸念はありますが、次の2つの点について考える必要があります。
 1つは世論の問題です。九条の条文をそのまま読めば自衛隊の存在は違憲になりますが、自衛隊をなくすことには国民の多くが反対しています。同時に世論は、自衛隊が海外へ出ていくことにも反対です。だからそのことを憲法に反映させれば政権も破りにくい。
 そしてもう1つは、憲法の制定過程についてです。憲法制定当初から現在まで「米国からの押しつけだ」という批判があります。僕は押しつけられて結果的にはよかったと思いますが、九条が骨抜きにされてしまった原因の1つは制定過程に「疑義」があるからだと思います。
 だからこそ、私たちはこの2点に留意して新たな九条を創る必要がある。新九条が条文で自衛隊の存在を認める世論に沿った内容で、かつ国民投票という公正な制定過程を経たものであれば、時の権力者がそれを無理矢理拡大解釈することは、今よりずっと困難になるはずです。
 自衛隊の存在を憲法に書き込む点で、いわゆる「安倍案」と変わらないという批判もありますが、安倍案と新九条案とは趣旨が180度異なります。
 安倍案は、集団的自衛権の行使も含め自衛隊にフリーハンドを与えようというものです。新九条案はそれとは真逆でPKO(国連平和維持活動)も含めた海外派遣を一切禁止するなど自衛隊の活動範囲や目的を厳しく制限するものです。
 このような考えを持つ僕は、もし安倍案か現行九条かの2択の国民投票が行なわれれば、投票しにくい。
 ですので、通販生活の主張は至極まっとうなものに思えます。よく「改憲に賛成か反対か」という問いの立て方がされますが、これはおかしい。同じ「改憲」でも「改善」だと思えば賛成だし、「改悪」だと思えば反対するのが当たり前です。
 現在でも、安倍案、新九条案のほかに「戦力の不保持」や「交戦権の否認」を明記した九条二項を削除して国防軍の存在を明記し、集団的自衛権の行使も海外での活動も可能にする従来の自民党案があります。それから現行九条の内容をさらに厳格化して、自衛隊も個別的自衛権も明文で否定する案など、さまざまな九条改正案が考えられるはずです。
 国民投票の際に選択肢が3つも4つもあると国民が混乱するという批判があるかもしれませんが、一般の選挙の時に候補者が多いと混乱して投票できないなんてことはないですよね。選択肢が多いことはむしろ主権者の利益になります。
 憲法96条の条文を素直に読めば、「2択しか許されていない」と解釈するほうが強引に思えます。複数の選択肢を可能にするためには国民投票法の改正が必要でしょうが、これだけ重要な問題なのですから、複雑な手続きを経ても民意が正確に反映される仕組みにすべきです。

国民主権を重視するなら、九条国民投票は「4択」にすべきです。南部義典さん

なんぶ・よしのり●1971年、岐阜県生まれ。衆議院議員政策担当秘書、慶應義塾大学大学院法学研究科講師(非常勤)等を経て、2017年より現職。著書に『図解 超早わかり国民投票法入門』(C&R研究所)、『広告が憲法を殺す日』(共著、集英社新書)など。

 憲法九条の改正について、現段階では少なくとも次の3つの方向性が考えられます。
 ① 一項、二項はそのままにして、「自衛隊の存在」を新たに明記する。
 ② 二項を削除して「自衛隊の存在」と「交戦権の保持」を明記する。
 ③ 二項を削除して「自衛隊の存在」と「海外での武力行使禁止」を明記する。
 安倍首相が推す①案は、今年3月の自民党大会で改正案の「たたき台素案」として了承されました。安倍政権下で国民投票が実施される時は、①案の賛否が問われる可能性が高いでしょう。その場合、①案を支持する人は賛成票を投じ、現行九条を支持する人は反対票を投じることができますが、②案や③案に賛成の人は国民投票で自分の意思を示すことができません。
 一般の選挙のように何年かに1回必ず実施されるのであれば、その都度国民の意思を問うことが可能です。しかし、憲法改正国民投票の場合は同一テーマに関して2回も3回も行なうことは事実上不可能です。
 特に九条のような国の行方を左右する重大なテーマでは、その選択肢はより慎重に決定すべきです。
 この意味で、私は通販生活の提案に大賛成です。3つの改正案が同時に発議され、3案のいずれかに賛成する、または現行九条に賛成なので3案全てに反対するという「4択の国民投票」を検討すべきです。こうした投票方式は「併合発議+複数選択肢方式」と命名できるでしょう。
 改正案のうちいずれかが「投票総数の過半数の賛成」を得られればその内容で改正が成立し、いずれの案も過半数を得られなければ現行の九条が維持されることになります。
 この提案に対しては反論があることでしょう。国会では各委員会で複数の法案が提出された時には、必ず1本に絞り込まれます。その後の本会議では、その1本の法案の採決だけが行なわれることが通例です。つまり「併合発議+複数選択肢方式」は、国会運営のルールには合わないのです。
 ところが、国会では過去に本会議に複数の法案が提出されたことがあります。2009年6月18日の衆議院本会議では、臓器移植法改正案として提出されたA、B、C、Dの、内容が異なる法案4本の採決が行なわれたのです。
 脳死と臓器移植という個人の生命観や宗教観に密接に関わる「重大なテーマ」であることから、厚生労働委員会で一本化せず、4本の法案を本会議に提出して全議員の判断に委ねたわけです。
「重大なテーマ」についてより多くの選択肢を保障することの重要性は、九条国民投票にも当てはまります。
 憲法96条には、国会発議の要件(衆参総議員3分の2以上の賛成)と国民の承認の要件(投票総数の過半数)が明記されているだけで、賛否は「2択に限る」とはどこにも書いてありません。「併合発議+複数選択肢方式」を許容していると考えられます。
 ただし、改正手続きの具体的内容を定める国会法と国民投票法では、「賛否2択方式」を前提とした規定が含まれているので、そこは改正しなければなりません。たとえば「投票用紙の様式」です。現行法では「賛成」「反対」の項目だけが明記された「2択方式」の投票用紙ですが、これを複数選択が可能な様式に改めることが必要です。
 最近、私の講演会でも複数選択肢の可能性に関する質問をよく受けます。「2択方式」への疑問が広がっているのでしょう。「国民主権」をどこまで重視するか、国会の姿勢が問われています。

「3択」以上の選択肢の提示は、「予備的国民投票」によって実現できます。平野貞夫さん

ひらの・さだお●1935年、高知県生まれ。法政大学大学院社会科学研究科政治学専攻修士課程修了。衆議院議長秘書、衆議院委員部長などを経て92年に参議院議員初当選。自民党、新生党、新進党、自由党を経て民主党入り。04年に政界引退。著書に『わが輩は保守本流である』(五月書房新社)など。

 今回の通販生活の提案には正直なところ驚きましたが、国民投票の結果に民意を反映させるための重要な指摘だと思います。
 確かに、現状のような1つの改正案と現行の条文のどちらかを選ぶ「2択の国民投票」では、国民の多様な意思を十分に反映させることは難しい。特に九条のような重要な問題の場合は、国民投票の結果を多くの国民が納得できるものでないと、その後の分断を招くことになります。
 国会での法案審議においても、通常は委員会での審議で1つに絞られたものを本会議で採決するわけですが、2009年6月の臓器移植法改正案の審議の際には、4つの改正案を本会議で採決する異例の措置がとられたことがあります。非常に重要な問題なので、より多様な意思を取り入れていくための措置でした。
 憲法九条の改正についても、多様な意思が反映されるべきです。ただし、国民投票で3つや4つの選択肢を示せばいいかというと、話はそう簡単ではありません。
 私たちの社会が採用している間接民主制とは、国民の中にある様々な意見を国会がまとめて、1つの意思を作るということ。つまり、議決までに様々な案が出て議論するのはいいけれど、最終的には国会の意思を1つにするのが原則です。
 特に憲法改正は、過半数ではなく衆参総議員の3分の2以上という特別多数決によって改憲案が発議されます。より慎重な審議の末にまとめた「国会の意思」が国民投票に諮られる仕組みなわけです。
 国民投票で3択、4択を認めてしまうと、国会の意思を1つに絞るという間接民主制の原則を否定することになります。
 では、多様な民意を反映させるにはどうしたらいいのか。実は、そのための仕組みは、国民投票法の附則に書き込まれているのです。
 附則の内容を簡単に言いますと、憲法改正に関係してくるような重要な問題については、本番の憲法改正国民投票に先立って「国民の意思を聞くための仕組みを国は検討しなさい」ということです。実は07年の国民投票法制定の際、この附則の元となる条文を入れ込むよう主張したのは私です。間接民主制の下、国会の意思は1つでなくてはならないという制約の中で、何とか国民の多様な意思を反映できるようにしたいと考えたからでした。
 具体的には、憲法改正案の発議よりも前に「予備的国民投票」ともいうべき投票を実施して、国民の意思を確認します。憲法審査会では、予備的国民投票の結果を取り入れながら審議を行ない、改憲案を1つに絞り込んでいきます。
「予備的国民投票」の結果に法的拘束力はありませんが、国民の意思が示された以上、国会はそれを尊重せざるを得ません。
 法的拘束力のない国民投票は、海外でも数多く実施されています。たとえば16年6月にイギリスで実施された「EU(欧州連合)離脱の是非を問う国民投票」もそうです。法的拘束力はありませんが、イギリス政府は投票結果を尊重して、EUからの離脱を決めました。
 2択の国民投票では、国民の意思を正しく反映することは難しい。しかし、複数の改憲案を国民投票にかけるのは間接民主制の下での制約がある。であれば、複数選択肢に近い機能を果たす補完的な制度をどう作るのかという議論が必要です。
 予備的国民投票では3択、4択を可能とするのか、それとも2択の投票を何回か行なって改正案を絞り込むのか。そうした細かい方法については、これから議論して決めていけばよいでしょう。
 すでに国民投票法の中に予備的国民投票に関する附則があるのですから、それをフル活用して、多様な国民の意思を反映する仕組みを早急に作るべきです。

民意を正確に反映する方法として、「複数選択肢」の投票に興味があります。藤岡信勝 さん

ふじおか・のぶかつ●1943年、北海道生まれ。北海道大学大学院教育学研究科博士課程単位取得。東京大学教育学部、拓殖大学などに奉職。現在は教科書改善の活動に取り組む。著書に『通州事件 日本人はなぜ虐殺されたのか』(共編著、勉誠出版)、『教科書採択の真相 かくして歴史は歪められる』(PHP新書)など。

 私は、安倍政権を総合的には評価する立場です。特に経済政策では、雇用の安定や株価の上昇など着実に結果を出しています。外交面でも日米関係を立て直すなど、歴代内閣で一、二を争う実績だと思います。
 ところが、そんな私でも安倍首相の憲法九条改正に対する姿勢は評価できません。
 自民党が2012年に発表した憲法改正案は、「戦力の不保持」と「交戦権の否認」を明記した九条二項を削除し、国防軍を明記して交戦権も認めるという内容でした。ところが安倍首相が昨年(17年)5月3日の読売新聞紙上で語り、今年(18年)3月の自民党大会で「たたき台素案」として認められた改正案は、一、二項を残し、「九条の二」として自衛隊の存在を明記するというもの。これは全く評価できません。
 自民党は1955年の結党以来、自主憲法制定を党是としてきたわけで、安倍首相が改憲に取り組む意思を示したことは評価できます。しかし、そもそも改憲の目的とは何なのでしょうか。
 現行憲法は、米国占領下で日本が主権を持たない状態のなか米国から押しつけられました。その憲法のもとで、日本は軍事的に自立できず、今日まで米国の「属国」状態にあるのです。日本が自立した国家になるためには、九条二項を削除し、自力で国を守れるようにしなくてはならない。安倍首相の改正案では、「属国」状態を続けるということになります。
 もし、安倍首相の案が国民投票で可決されれば、日本国民が「属国であること」を自ら選択したことになる。今までのように、この憲法は米国の押しつけで日本の意思ではない、と言えなくなるのです。
 逆に安倍首相の案が国民投票で否決されれば、自衛隊の存在を憲法に明記する提案を国民が拒否したことになります。そうなると、自衛隊の活動内容も今までどおりというわけにはいきません。安保法制で認められた集団的自衛権の行使もできなくなるなど、むしろ安全保障政策が大きく後退することになります。
 安倍首相は秋の臨時国会に「たたき台素案」を基にした自民党の改憲案を提出したいと言っています。自民党の議席減が予想される来年の参院選前に何としてでも国民投票を実施したいのでしょう。
 でも、こんな大事な問題を「スケジュールありき」で決めていいはずがない。日本の安全保障について徹底的に議論したうえで改正案をつくるのが筋ではないでしょうか。とにかく改正したい、だから連立を組む公明党の支持が取りつけやすい改正案で、という考えは不真面目です。北朝鮮や中国の脅威を考えれば、自民党が12年に作った二項削除の改憲案こそが正しい選択だと私は思います。
 将来、安倍首相の推す改正案が国民投票にかけられたら、現行の九条との2択ということで、私にとっては難しい選択になります。その意味では、「複数選択肢」の国民投票という通販生活の提案には興味があります。民意を正確に反映するための方法として検討に値するでしょう。
 安全保障に関する国民の意識を高めるうえでも、「複数選択肢」の国民投票の議論をすることには意味があると思います。
 だが、課題も大きい。まず選択肢を誰がどう設定するのかという問題があります。九条については細かく分ければたくさんの改正案が出てくるでしょうから、それをどうやって絞り込むのか。
 さらに、たとえば3つの改正案が発議されて、それぞれが33%ずつ得票した場合はどうするのかという問題もあります。投票者の99%が改憲を望んでいるのに、どの改正案も過半数に届かないから否決とし、現行憲法のままとしてよいのか。こうしたことをどう解決するのかが課題でしょう。

facebook

twitter

LINEで送る