陶芸家・本間文江さんの「手あぶり猫」

陶芸家・本間文江さんの「手あぶり猫」

右から焼き締め:高さ21×幅19.7×奥行28.5cm(2018年)釉薬(灰釉):高さ32.2×幅18×奥行24.8cm(2017年)釉薬(灰釉):高さ14.5×幅16.5×奥行23cm(2018年)

「作品がどんなふうに焼き上がったのか、窯出しのときはいつも緊張します」陶芸家・本間文江

 岩手県藤沢町(現・一関市藤沢町)に陶芸家の父が工房を構えたのは、いまから46年前のこと。北上川の河川敷は焼き物に適した粘土が採れるし、近隣で窯の燃料に使う赤松が調達できると考えたようです。

 私は大学(文学部)を出て東京の企業に就職しましたが、2年で退社。帰郷した際、たまたま実家に滞在していた父の知り合いのドイツ人陶芸家に「ドイツの陶芸を見に来ない?」と誘われて、軽い気持ちで出かけました。結局、ドイツには4年いたのですが、その間に現地で開催された父の個展を手伝うなど、ドイツから日本の陶芸を学ぶ機会も持てた。ずっと私には陶芸はできないと思っていたのですが、帰国するころには陶芸に向き合う気持ちになっていました。

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 作家活動をはじめることになった決定打は、江戸時代の名工・仁阿弥道八(にんあみどうはち)の「黒楽銀彩猫手焙」という作品との出合い。寒いときに中に炭を入れて指先の暖を取る「手あぶり」という道具は筒形が多いのですが、仁阿弥のこの作品は目を細めてくつろぐ黒猫をかたどっていました。表面的な面白さだけでなく、造形に猫の本質が見えて「こういう作品をつくりたい!」と強く思いました。私は30歳を過ぎてからのスタートなので、人が手がけていない分野をやりたいという思いもあったんです。

釉薬(灰釉)高さ29.5×幅17.5×奥行22.5cm(2018年)

釉薬(灰釉)高さ29.5×幅17.5×奥行22.5cm(2018年)

釉薬(鉄釉)高さ29×幅16.5×奥行21cm(2017年)

釉薬(鉄釉)高さ29×幅16.5×奥行21cm(2017年)

焼き締め</em>高さ30×幅18×奥行24cm(2018年)

焼き締め 高さ30×幅18×奥行24cm(2018年)

焼き締め 高さ29×幅16.5×奥行21cm(2018年)

焼き締め 高さ29×幅16.5×奥行21cm(2018年)

もっとも大きな窯と小さな窯は東日本大震災で破損。この窯だけが残った。

もっとも大きな窯と小さな窯は東日本大震災で破損。この窯だけが残った。

 最初は父に就いて、土の混ぜ方、こね方、道具の使い方、窯の焚き方などを教えてもらいました。当時は同じ部屋で作業していたのですが、別々の方がお互いに気が楽なので、いまは部屋を分けています(笑)。

 手あぶり猫の中にどのように炭を入れるのか、仁阿弥の作品も外形しか見られないので想像しながらつくりました。いろいろ試した結果、背中から炭入りの炉を入れてフタをしても中の火が消えないよう、手の先、お尻、耳に通気孔を設けました。炉を入れる関係でつくれる猫の姿形には限界があるので、頭の角度などで工夫しています。

手あぶり猫づくりに使う道具は、父・本間伸一さん手づくりのものも多い。藤沢焼の窯元である伸一さんは壷や茶碗、水指、花生などを作陶している。

手あぶり猫づくりに使う道具は、父・本間伸一さん手づくりのものも多い。藤沢焼の窯元である伸一さんは壷や茶碗、水指、花生などを作陶している。

 粘土を棒状に伸ばして下から少しずつ成形し、頭のてっぺんで閉じます。猫のかわいらしい後頭部を再現するのがもっとも難しいですね。最後に耳と尻尾をつけて完成。1週間ほど乾燥させてから焼きます。

 焼き方には釉薬(ゆうやく)をかけて焼くものと、釉薬をかけない「焼き締め」と呼ばれるものがあります。私は、釉薬をかけるものはガス窯か電気窯で18時間ほど焼き、焼き締めは薪窯(穴窯)で1週間かけて焼いています。

 薪窯は父の個展に合わせて焚くので、年に2回くらいでしょうか。窯の温度を保つため、昼、夜、夜中と分担して番をしますが、私はたいてい夜中担当。温度が上がると窯の天井の火吹き穴からピューッと炎が出たり、後方の煙突から火柱が上がったり、まるで生き物のようなんです。炎や灰がかかって作品がどんなふうに焼き上がるのか、予測できないから面白くもあり怖くもあり、窯出しのときはいつもドキドキしています。

本間文江さん

ほんま・ふみえ 1974年、岩手県生まれ。大学卒業後、会社員を経て、2001年にドイツに渡り、陶芸家フォルカー・エルヴァンガー氏から陶芸を学ぶ。4年後に帰国し、父である陶芸家・本間伸一の元で制作を始める。杜の未来舎ぎゃらりぃ(宮城)で作品を取り扱っている。

撮影/吉崎貴幸

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