映画史の巨人フリッツ・ラングのアメリカ時代のフィルムノワール傑作集。

映画史の巨人フリッツ・ラングのアメリカ時代のフィルムノワール傑作集。

解説◎岸川 真

映画史の巨人フリッツ・ラングのアメリカ時代のフィルムノワール傑作集。

 映画史の巨人、フリッツ・ラングは二つの顔を持つ。一つはドイツ・ウーファ撮影所時代、『ドクトル・マブゼ』(22年)、『メトロポリス』(27年)、『M』(31年)といった傑作を世に送り出した芸術家の顔。サイレント期に善と悪の彼岸をスリラーやSFといったジャンルを超え、強烈なストーリーと斬新な映像で魅せきった。その後、ナチスから逃れてハリウッドへ渡ったラングは職人としての顔を獲得する。ボニーとクライドに材をとった『暗黒街の弾痕』(37年)などに代表されるフィルムノワールや西部劇など幅広く手がける。スターを達者に撮るラングだが、異国でもその土性っ骨(どじょっぽね)は折れない。彼の魂には大戦に揺れたドイツがあった。人のみならず国も罪を犯すという己の哲学を、娯楽映画だろうと陰影に富んだ映像で表現し続けたのだ。

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フリッツ・ラングのアメリカ映画

アメリカ時代のフリッツ・ラング
DVD5枚組


税込15,000円(送料270円別)
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激怒(36年)日本公開37年

脚本/フリッツ・ラング 出演/スペンサー・トレイシー シルヴィア・シドニー

 誘拐犯だと誤認逮捕された男が、住民の集団ヒステリーの餌食にされる。留置所が自警団に襲撃されて放火されるが、男は九死に一生を得る。そこから一転、映画は裁判劇へ。男が生死不明のため、自警団は殺人容疑で裁かれる。被告を皆、死刑台に送りたいスペンサー・トレイシーが独自の正義に目覚めるシーンは感動的だ。また証拠フィルムに映る暴力に酔いしれる普通の人々の顔がとても怖い。ナチス時代を体験したラングならではの傑作。

真人間(38年)日本公開39年

脚本/ヴァージニア・ヴァン・アップ 出演/シルヴィア・シドニー ジョージ・ラフト

 ワルを雇う奇特な百貨店が舞台。元ギャングのジョーは同僚のヘレンと恋に落ちて結婚する。しかし、彼女もまた仮釈放中と知らされ、ヤケになったジョーは仲間の強奪計画に加わるが、という喜劇。シルヴィア・シドニーのヒロインによる「犯罪の割に合わなさの講義」が可笑しい! ギャング俳優として鳴らしたジョージ・ラフト主演の嬉しい拾い物だ。

マン・ハント(41年)日本公開95年

監督/サム・ウッド 脚本/D・モロー、G・トロスパー 出演/フリッツ・ラング, ジェームス・スチュワート

 出来心からヒトラーを的にかけた英国人大尉と、彼を暗殺犯にしたて上げ、英国に宣戦布告したいナチスドイツの秘密警察の攻防を描く。二枚目ジョージ・サンダースの憎らしさ、怪優ジョン・キャラダインの刺客など、悪を描く天才ラングの手腕がキラリと光る逸品。

飾窓の女(44年)日本公開53年

脚本/ナナリー・ジョンソン 出演/エドワード・G・ロビンソン ジョーン・ベネット

 謹厳実直な心理学教授が殺人事件に巻き込まれる。心の隙間に生じた浮気心が仇となり、罪と罰の迷宮をさまよう。ギャングのボス役が似合うエドワード・G・ロビンソンが罪の露見を恐れる演技。そしてジョーン・ベネット演じる純朴なアメリカ娘の面影を残す孤独な女のコントラストの妙。これにシャープな映像が加わり、泥沼の悪夢が展開する傑作。

ブルー・ガーディニア(53年)日本未公開

脚本/チャールズ・ホフマン 出演/アン・バクスター リチャード・コンティ

 プレーボーイが火掻き棒で殴られて死ぬ。事件当夜、被害者と一緒にいたアン・バクスター演じる女は酒に酔って記憶がない。果たして真犯人は? というミステリ。映画を支えるのはルームメイトを演じるアン・サザーン(J・L・マンキウィッツ監督の傑作『三人の妻への手紙』(50年)も必見)の姉御っぶりと、キャメラが捉える光と影の深みだ。ぜひ、短い撮影期間で仕上げたラングの職人芸を堪能されたい。

岸川 真(きしかわ・しん)● 作家。1972年、長崎県生まれ。助監督や出版社勤務を経て作家・編集者に。『赫獣』『暴力』(河出書房新社)、『映画評論の時代』(カタログハウス、共編著)ほか著書多数。

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