週刊通販生活トップページ  >  読み物:映画『神宮希林 わたしの神様』樹木希林さんインタビュー

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「私の持っている質や考え方が素直に出ている映画です。ま、こんなもんですよ」

きき・きりん/1943年、東京都生まれ。テレビドラマ「時間ですよ」「寺内貫太郎一家」で人気を博し、個性派女優として活躍する。『わが母の記』(12年、原田眞人監督)で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞など数多くの映画賞を受賞した。

 伊勢神宮へ行ったことは、これまで一度もなかったんですね。あこがれとかそういう思いもなく、ただ多くの人が集まって祈る場所がどんなところなのか、そういう興味はありました。

 神様もそうだけれど、「目に見えないもの」に興味があるんです。いまの世の中、目に見えるものだけを追求していてはどこかで行き詰まってしまうんじゃないか。だからって、なにも目に見えないものに依存するってことはないけれど、そういうものを感じる自分が原点にあれば、なにもなくなってもそこから歩いていくことができる。こういうことは、孫にも伝えたいと思っているんです。

 でもね、最初に伊勢神宮にお参りに行ったときは社が御帳(みとばり)に隠れていて、ぜんぜん神様を感じなかったの(笑)。そのあと2ヵ月くらい、伊勢神宮にまつわるあちこちを訪ねて歩いているうちに自分のなかで受け取り方が変わってきたのね。遷宮を終えた次の日の早朝、あたらしい内宮の前で礼をしたら、御帳がふわ~って浮き上がってなかの社が姿を見せてくれた。

 そんなのただの自然現象かもしれないけれど、それをどう感じるのか。「大きなエネルギーが動いた」と言ってくれたテレビ局のお偉方もいたけれど、私はおもしろいなあ、こういう場に出逢えてよかったなあと思いました。

 あの映像が撮れたのは、ローカル局(東海テレビ放送)の執念ですよ。もうやめてくれって言うくらい、30分テープで400本分も撮影したんだから。(昨年10月の)式年遷宮のあと、最初はテレビ番組として放送したんだけど、使ってないテープが山ほど残っちゃった。もったいないし、なんとかしなくちゃテープにも悪いじゃない(笑)。

 私がお経をあげている声も、ロケの途中で車のなかに1人で残されちゃったときに読んでいたら、たまたまマイクが入っていたの。自宅でも冷蔵庫の中まで撮っているし、そういう意味で演じている感覚はまったくなかったですね。そうだったら化粧のひとつもするわよ。でもそうすると、すごくみっともなくなるの(笑)。

 だからこの映画には、もともと私の持っている質や考え方が素直に出ているのではないかと思います。いまでも密着取材をしたいって依頼がたくさん来るけれど、そういう人たちには、もうこの映画を見てください。こんなもんですよって言える。映画は残るものだから嫌だったんだけど、結果的にはテレビ番組とは違う、映画館に足を運んでもらってこそのものになりました。

原発は、この地面の揺れる国には
なくていいものですよ。

 9年前に乳がんの手術をしてから、再発や転移があって「全身がん」の状態だったんですけど、今年1月に治療が終わったんです。まあ、小さいがんはあると思いますが、大きくからだに影響するものは消滅したみたい。

 ただね、私は病気になることをきっかけに、そこにある目に見えないものに思いをはせる必要があるんじゃないかって思うの。「病気=悪」「健康=善」としてしまったらつまらない。自分のなかには善もあれば悪もあって、それを受け入れるところから人間はたくましくなっていくんじゃないかって。

 それでも今回の撮影で、震災後初めて宮城県石巻市を訪れましたが、いまの時代、畳の上で死ねるというのは上出来な人生だって、常々そう感じてはいましたが、あらためて思いました。

 震災から3年経っても、いまだに見つかっていない人もたくさんいる。目に見えないものがさまよっているであろう土地で、神宮の森から伐り出された檜でつくられた、ほんとうに小さな社でもよすがとしなければ生きられない人間の愛おしさ。大震災に出くわすのも人間だし、幾度もそこから立ち上がってきたのも人間なんだなって。歌人の岡野弘彦さんもこう詠んでいましたね。「怒りすらかなしみに似て口ごもる この国びとの 性(さが)を愛(を)しまむ」(『美しく愛しき日本』所収)

 だからね、事故が起こったらその土地で人が生きられなくなってしまう原発は、この地面の揺れる国にはなくていいものですよ。次に変わるエネルギーを考えると、それは簡単にはいかないかもしれない。でも、人間には天井知らずの欲があることをもうちょっと考えてね、私たちが享受してきたものをどう始末していくかってことをみんなで考えなきゃいけない。そういう時代に来てるのは間違いないのよね。

『神宮希林 わたしの神様』 
プロデューサー:阿武野勝彦 監督:伏原健之
製作・配給:東海テレビ放送 配給協力:東風 2014年/96分
4月26日より、オーディトリウム渋谷、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
公式サイト http://www.jingukirin.com/