週刊通販生活トップページ  >  読み物:映画『千年の一滴 だし しょうゆ』監督・柴田昌平さんインタビュー

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身近にありながら知られていない、自然の営みと日本人の知恵が凝縮されている「だし」と「しょうゆ」の世界。

柴田昌平(しばた・しょうへい)1963年、東京都生まれ。映像作家。NHK、民族文化映像研究所を経て、現在は映像製作会社プロダクション・エイシア代表。初監督作品『ひめゆり』(2007)は、キネマ旬報ベストテン・文化映画1位など8冠を受賞。ドキュメンタリー番組も数多く制作し、NHKスペシャル『クニ子おばばと不思議の森』(2011年)は国内外で大きな反響を呼んだ。 その他、映画『森聞き』(2010年)、NHKスペシャル『世界里山紀行 フィンランド・森・妖精との対話』(2007年、独・ワールドメディアフェスティバル銀賞)など、海外で受賞した作品も多い。

しいたけ、昆布、かつお節。
和食に欠かせない「だし」はどう作られる?

――作品は、『だし』と『しょうゆ』の2本立てですが、日本人に身近な調味料をテーマに選んだ理由からお聞かせください。

柴田  決して料理が得意なわけじゃないんです(笑)。僕は「民族文化映像研究所」の出身で、日本人と自然の関係をじっくり捉える映像を作ってきました。ドキュメンタリー作家の姫田忠義さんが立ち上げた研究所で、民俗学者の宮本常一さんの世界観を映像化してきたのです。
 今回、だしをテーマにしたきっかけは、2011年にNHKで放送したドキュメンタリー番組『クニ子おばばと不思議の森』で焼き畑農業を撮ったことでした。山の木々を刈って斜面を焼くと、新しい植物が生え、山菜やきのこなどの恵みをもたらします。その循環の主役は、実はしいたけなどのきのこなんですよ。きのこの菌糸が木を腐らせ、土の栄養分となって次の作物ができます。
 しいたけ栽培の手法の一つに、「鉈目法」(なためほう)があります。なたで原木に切れ目を入れて胞子がたくさん根付くようにするのですが、切り込むタイミングが大切です。早いと原木の中の養分が足りなくてしいたけがうまく育たない。遅すぎると、木が菌を寄せ付けない成分を出します。生産者は、上手に木の状態を見極めながら、しいたけを育てています。
 そうやって人間が自然の循環の一部となっている風景を撮りながら、しいたけに接しているうち、だしがテーマになると思いつきました。食べることと言うより、だしが誕生するまでにどんな知恵が積み重なっているかを撮りたかったのです。日本の代表的なだしには、しいたけのほかに昆布と鰹節がありますが、それぞれに日本人の知恵が込められています。

――作品では、北海道の昆布漁師や、鹿児島県のかつお節工場の仕事ぶりが収録されていますね。

柴田  世界中を見ても、昆布を食べる民族は日本人しかいません。中国で薬にしたり、ヨーロッパで畑の肥料にしたりしますが、食用は日本だけ。海から引き揚げた昆布は、オーシャン臭と呼ばれる独特の臭みがあり、そのままではとても食べられないからです。でも、日本には臭みを取る知恵がありました。昆布を洗い、乾燥させてにおいのもとの微生物を取り除きます。夜になると再び浜にならべて、夜露に含まれるわずかな水分でもう一度しめらせます。こうすることで昆布の細胞が壊れてにおいが取れ、いい香りのだし昆布になるのです。
 かつお節は逆に微生物を付けることで、薄く削れるくらい硬くなります。かつおをさばいて燻製にして、室(むろ)に寝かすと自然とカビが寄ってきます。それを何度か天日に干すことで、カビが脂肪とタンパク質を分解し、うまみと香りに変えてくれます。
 だしには、日本人がずっと伝えてきた独特の手法、自然との向き合い方があるのです。だしをめぐる現代の人々の営みや、その背景にある大自然の面白さを映像にしました。

(C)プロダクション・エイシア/NHK

――日本でだしが使われるようになった歴史についても触れていますね。

柴田  日本食にだしが使われた起源を探ると、仏教伝来の1500年前にさかのぼります。殺生を忌み嫌う仏教を尊ぶ朝廷は、たびたび肉食禁止令を出しました。最初は支配階級に、江戸時代には庶民にも浸透しました。人々は、肉に代わるうまみを得ることを模索したのでしょう。江戸時代に発行された料理本『料理塩梅集』には、初めて「だし」という言葉が出てきます。だしは、日本列島全体を舞台に、人々が育んだ“食の革命”と言ってもいいかもしれません。

わずか4つの調味料から作る懐石料理。
その原点には、日本独自の麹菌があった。

――もう一方のテーマ、醤油については、どんな経緯で作品にしたのでしょう?

柴田  2011年12月に国際ドキュメンタリー映画祭「Tokyo Docs」(当時の「東京TVフォーラム」)が開催されました。世界中の映画プロデューサーや配給業者が20~30人集まり、僕たちのような独立系の制作会社のプレゼンテーションを見て、国際共同制作をする映画やテレビ番組を選ぶ場です。僕は『出汁:日本料理のうまみを生み出す不思議世界を旅する』というタイトルのテレビ番組を提案し、フランスのテレビ局「アルテ」に採択されました。
 でも、国際共同制作を成立させるには、日本側の放送局の力も借りなくてはなりません。海外だけでなく、日本国内でも番組を放送してもらうためです。NHKに提案すると「だしをテーマにした番組は過去にもある」と言われて困りました。そこで、だしと2本立てで番組になるテーマを探して、たどり着いたのが醤油だったんです。僕は、悩んだときには現場に行くのが一番だと思っていて、京都の祇園にある料亭に1週間ほど泊まり込まさせてもらったのがきっかけでした。

――伝統的な懐石料理を提供する料亭ですね。そこでは、どんなことがあったのですか。

柴田  驚いたことに、調味料はたったの4つだったのです。濃い口と薄口の醤油、みりん、酒。あとは塩を使うくらい。たったこれだけで、懐石料理を作っていました。4つの調味料は、どれも少しつんとした独特のにおいです。調べると、醤油に使う麹菌が生み出すにおいで、みりんにも酒にも使われています。その麹菌は「アスペルギルス・オリゼ」という日本にしかないカビでした。
 京都御所の近くにある醤油屋では、町屋の2階が“麹の畑”のようになっていました。床一面にゆでた大豆を敷き詰め、「枯れ木に花を咲かせましょう」と唱えながら、オリゼを蒔くのです。やがて大豆の表面にオリゼの胞子が根を張り、まるで花が咲いたようにきれいな薄緑色が大豆全体を覆います。それを桶に移して1年がかりで醤油にするのです。
 目に見えないミクロの自然から和食が生まれると思うと、どんどん興味が湧いてきて。NHKに、カビと日本人の関係を深めた番組はどうかと再度提案して、採用されました。

(C)プロダクション・エイシア/NHK

――作品では、胞子が飛ぶ様子や、菌糸が勢いよく伸びる様子を実写で撮った映像が神秘的です。撮影中には苦労が多かったのではないでしょうか。

柴田  胞子の映像は顕微鏡にカメラをセットして撮りました。カメラマンとアシスタントと3人で滞在していた京都の家の中で、自分たちでカビを栽培しながら、撮影する日々でした(笑)。でも、もっと大変だったのはオリゼを作っている種麹屋(たねこうじや)の取材ですね。国内に10軒ほどしかなく、なかなか内部の取材に応じてもらえなくて、半年かけて交渉しました。

――だしの撮影はどうでしょう。しいたけが原木の幹を突き破って成長する映像がみごとです。

柴田  しいたけは、成長過程を2分~3分に一度の頻度で写真を撮って、パラパラ漫画のようにつなげています。焼き畑の撮影で約1年間、山に住み込んでいたときに撮りました。
 祇園の料亭では、例えば昆布だしをひくシーンだけで朝から夜の8時まで撮影することもザラでした。昆布だしは、ただの水と違って粘着力があって、少し糸を引くようにしたたる。その様子を、スーパースローモーションが撮れるカメラで一つ一つ丁寧に撮りました。昆布を鍋の水に入れた瞬間を撮る時も、やはり1日がかり。水に入ってどんな風に広がるのかを撮りました。ほかにも、だしや醤油の使い方を延々と撮り続けました。
 でも、僕よりも大変だったのは、料亭のご主人ですね。お店が休みの日に撮らせてもらったのですが、そもそも休みは月に3~4回しかない。それが全部撮影になって、ご主人は「魂をとられた」とおっしゃっていました(笑)。
 こうして撮影した醤油の映像は、2013年12月にNHKスペシャル『和食―1000年の味ミステリー』というタイトルで放送されました。フランスのアルテには、そのNHKの番組を再編集した映像だけでなく、だしについての新しい映像を持っていきました。そして「だし」と「しょうゆ」をトータルにアレンジしたものが、今回、映画になった作品です。

――フランス用に再編集をしたのですか。

柴田  と言うより、世界中で受け入れられる内容にしたのです。アルテはフランスとドイツが共同出資した放送局で、ほかの国々でも番組を放送しています。フランス人のプロデューサーのリュックからは、「フォークロア(祭)やエキソチズムの番組にはしないで欲しい。あくまでコンセプトは自然番組だ」と注文されました。自然がテーマなら、いろんな国々の人が共感できるから、と。
 だしは、しいたけが育つ森、昆布やかつおが捕れる海の映像を使いますから、見るからに雄大な自然です。醤油も、カビというミクロネイチャーの営みを記録した自然なのですが、フランス人に納得してもらうのは大変でした。どんなに説明しても「あれはマニュファクチャー(人工物)だ。自然ではない」と言われるのです。

――日本とフランスでは、自然に対する意識がだいぶ違うのですね。

柴田  そうなんです。ヨーロッパの人たちにとって、自然はコントロールしたいもの。つまり支配する対象なんです。家畜を飼い、牧畜をするために、森を切り開いて柵をつくり、風景もコントロールします。でも日本は違います。自然は常に一緒にいるもので、どうやってうまく付き合うかを考える中で、いろんな知恵が生まれてきました。
 醤油を作る時、今でこそ温度管理ができる設備もありますが、昔は気温に合わせて段取りを決めていました。3月では寒すぎてカビを生やすことができない。5月では暑すぎる。ちょうど4月の桜が咲く頃に合わせてオリゼを蒔くわけです。梅雨の時期になると活発に発酵して、夏の暑い時期はカビの活動が衰える代わりに酵素がはたらいて、大豆の色が茶色に変わる。醤油の色になるわけです。秋に入ると味がまろやかになって、冬になってようやく落ち着く。まさしく自然の営みです。小さな舞台の中で繰り広げられる自然なのです。
 リュックたちとは何度も議論しました。外国人が見て理解しやすい見せ方や、話の順番、音楽をアレンジして、最終的には納得してもらうことができました。フランスとドイツでは、14年夏にテレビで放送しました。

(C)プロダクション・エイシア/NHK

――海外の視聴者の反響はいかがでしたか。

柴田  公式WEBサイトに寄せられた感想では「太古以来のこの叡智。それを西洋は今、改めて発見し直すところから始めなくてはならない」とありました。うれしいですね。

――今回、日本での上映では、どんな人に観てほしいですか。

柴田  普段、忙しくてあまりだしを使わない人や食事をジャンクフードで済ませることが多い人、あるいは食事を見直そうと思っている人に、ぜひ観ていただきたいですね。自分たちが伝統的に口にしているものの奥深さを感じ、楽しむことにつながると思います。だしも醤油も、これだけ日本人の身近にありながら、歴史や背景については意外と知られていないものですから。

日仏合作ドキュメンタリー
『千年の一滴 だし しょうゆ』


2014年/100分(50分+50分)
監督:柴田昌平 撮影:春日井康夫 音楽:Dan Parry ポスター:市川千鶴子 助監督:松井 至 プロデューサー:大兼久由美、牧野望、伊藤純、Luc Martin-Gousset、Catherine Alvaresse

●2015年1月2日~東京・ポレポレ東中野で上映。その他、全国で順次公開予定。 →公式サイトはこちら

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