週刊通販生活トップページ  >  読み物:映画『小さき声のカノン』監督・鎌仲ひとみさんインタビュー

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子どもを守りたいと願う母親たちの声が、未来への希望につながります

鎌仲ひとみ(かまなか・ひとみ)映像作家。早稲田大学卒業と同時にドキュメンタリー映画製作の現場へ。映像作家としてテレビ、映画の監督を務める。2003年『ヒバクシャ――世界の終わりに』、2006年『六ヶ所村ラプソディー』、2010年『ミツバチの羽音と地球の回転』の「核をめぐる三部作」を発表。3・11後の2012年、DVD『内部被ばくを生き抜く』発売開始。これらの作品1つひとつは、公開後の現在も国内外で上映され続けている。2015年3月から、最新映画『小さき声のカノン』が公開。

子どもを守れるのは、やっぱり母親。その母親たちの現在〈いま〉を映画にしました。

――前作『内部被ばくを生き抜く』から3年。最新作『小さき声のカノン』で再び被ばくによる健康影響をテーマとしたのはなぜですか。

鎌仲  『内部被ばくを生き抜く』は、3・11後の混乱の中で、未曽有の事態に戸惑う人々に内部被ばくとは何かを伝え、そして生き抜くにはどうすればよいのかを少しでも早く考えてほしくて作った作品です。
 子どもを被ばくから守る社会をつくりたい。その思いが、私を映画製作へとかきたてる原動力です。2003年から2011年にかけて発表した『ヒバクシャ――世界の終わりに』『六ヶ所村ラプソディー』『ミツバチの羽音と地球の回転』の「核をめぐる三部作」はまさに、子どもを被ばくさせない社会にするために作った作品。2010年に『ミツバチの羽音と地球の回転』を撮り終えた時、このテーマについて言うべきことは言いきったという手ごたえを感じていました。でもその後に、原発事故が起きてしまった。
 事故が起き、子どもを含む多くの人が事故以前より高まった放射線の中で暮す社会になった以上、命や健康を守るために行動しなければいけません。当然、政府もきちんと対策をたてると思っていたのですが、事故の影響を過小評価する声が日増しに大きくなっていく。とても危機感をもっていました。
 その一方で、子どもを守るために声をあげる母親たちがいましたが、その声は、社会の中ではあまりに小さい。でも私はその小さな声に、希望を託さずにはいられなかった。だって、一番近くで子どもを守れるのは誰ですか? 母親でしょう。子どもに何を食べさせるのか、外遊びをさせるのか、洗濯物はどこに干すのか。暮しの中で選択を迫られるのは、母親なのですから。
 母親たちの小さな声を広めていきたい。それが、子どもたちを被ばくによる健康影響から守るためにできることだと思い、今回の映画を撮ることにしたのです。

被ばくに関するあらゆる問題について、
オープンな場で議論を始めていきたい

――映画では、母親たちの姿がたくさん描かれています。その中で、福島県に暮す母親たちが県外産の野菜を分け合うシーンが登場しますね。県外産の野菜を求めようとする行動は、放射能に対する過剰反応だととる人もいるかもしれません。

鎌仲  市場に流通する食品は放射能検査を受けていますから、基準値以上のものは出回らないことになっています。しかし、国が定める基準値に対しては、その安全性を疑問視する声も根強い。野菜や肉などの一般食品の放射性セシウムの基準値は1キロあたり100ベクレルです。放射性物質はどんなに微量でもリスクがあるという専門家もいますから、基準値以下でも、子どもに食べさせることに不安を感じる母親もいて当然です。県外産の野菜を求める行動が過剰反応だと言うのなら、母親たちの納得する基準で食品を検査すればよいのです。
 それで「生産者が守られないじゃないか」という意見が出てきたとしたら、私としてはそこを議論してもらいたい。放射能や被ばくについて、なんとなく語りづらいという雰囲気を打開し、オープンな場で対策を語り合ってもらいたいのです。被ばくに関するさまざまな問題について情報を開いていくことこそが、子どもたちを守ることにつながるという思いから、この映画では、ほかのメディアが触れないところにあえて踏み込んでいます。

保養が内部被ばく量を下げるのは
ベラルーシの経験で実証されています。

――映画では、チェルノブイリ原発事故後のベラルーシの取り組みもたくさん紹介されていますね。

鎌仲  ベラルーシでは、事故から28年経った今でも食品の汚染が続いているので、空間線量がある程度下がった地域でも、内部被ばくを避けられません。小さい子どもほど、放射能に対する感受性が強いことがわかっていますから、子どもたちの内部被ばく量を下げるために、放射線量の低い地域で一定期間過ごす保養を行なっています。ベラルーシでは、年間被ばく線量1ミリシーベルト以上の放射能汚染地域の住民に対して、多額の国家予算を使って、放射線防護対策をし、その一環として毎年1回、子どもたちを21日以上保養に出しているのです。

――映画では、保養から帰って来た子どもたちの内部被ばく量をホールボディーカウンターで検査すると、全員の値が保養に出る前よりも下がったというデータも示されています。

鎌仲  保養は効果があるとわかっているのだから、日本でも放射能汚染地域の子どもたち全員を保養に出す体制を整えてほしいと思います。残念ながら、放射能のことを気にしている一部の親しか子どもを保養に出していないのが現状です。福島県内でさえ、被ばくのことを気にせずに過ごしている人がたくさんいるという状況では、なかなか保養を広めづらい。でも、市民団体や地方自治体が保養の受け入れを行なっている今だからこそ、いろいろなモデルを柔軟に試していくこともできるはずです。
 例えば、「保養」という言葉にこだわらなくてもいいわけです。「大自然の中でキャンプをします」とか、あるいは「農業体験をしに行く」とか、「伝統芸能に触れに行く」とか、結果的に子どもたちが一定期間汚染地から離れられればいいわけですから、いろんなやり方があっていいと思うんです。

子どもを守りたいという“小さき声”が意志として現われるとき、未来に希望が生まれる。

――「ここ(福島県二本松市)で暮すと決めたからには、どうにか子どもを被ばくさせない方法を探しだして、続けていかなくては」と映画の中で不安そうにつぶやいていたあるお母さんは、同じ思いを持つ地域の母親たちと一緒に、子どもたちの通学路などの除染や、食品の放射線量の測定を行ない、子どもたちを保養に出すようになりましたね。

鎌仲  彼女たちは、子どもを守りたいという意志を、行動で示し始めたのです。
 「放射能による影響は、心配しなくても大丈夫ですよ」と国や行政が言っていますし、福島県内に住む人たちの大半もそれを信じています。普通の人は、国や、有名な学者の言うことは確かなんだと思ってしまう。映画に登場するお母さんたちも最初は不安を感じながらも、大丈夫だと信じていた。でも、子どもの体からセシウムが検出されたり、様々な勉強をしたりするうちに、このままでは子どもを守れないと思い始めたのです。そして、「国がこう言っているから」「周りがこうだから」ではなく、子どもを被ばくさせないためにはどうするのがよいか自分の頭で考え、行動するようになりました。母の愛に裏打ちされた意志が引き起こす行動は、私が待ちわびた希望の芽です。
 最初はひとつのメロディーから始まり、少しずつメロディーが重なり合ううち、やがて壮大な音色を奏でる「カノン」のように、母親たちの小さな声も、子どもたちを被ばくから守る大きな力となりうるのです。
 “うまれてきたから生きていきたい 命をかけてうんでそだてる”――これは今回の映画のエンディングに流れる曲の歌詞の一節です。長い時間をかけて繰り返されてきた命をつなげる営みは力強い。つながり、重なり、響き合う“小さき声のカノン”が、もっと大きくなるようにと願っています。

『小さき声のカノン』

東京電力福島第一原発の事故から4年。不安を抱えたお母さんたちの声が届かないところで、事故の影響が評価されようとしています。ベラルーシでは、チェルノブイリ原発事故から28年が経った今も、お母さんたちは不安を抱えながら、子どもたちを守る道を探し続けています。ベラルーシの子どもたちに何が起き、お母さんたちはどうやって子どもを守ってきたのか。そして、福島県のお母さんたちは今、どうやって子どもを守ろうとしているのか。映画からは、事故の影響を「安全だ」「危険だ」と評価する前に、私たちが今、聞かなければいけない声がたくさん聞こえてきます。

2014年/カラー/デジタル/119分
監督:鎌仲ひとみ 音楽:Shing02 製作・配給:ぶんぶんフィルムズ

●3月7日(土)より、シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。
公式サイト http://kamanaka.com/canon/

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