週刊通販生活トップページ  >  読み物:日本の貧困・処方箋「フードバンク山梨」理事長 米山けい子さん

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 私たち「フードバンク山梨」は、山梨県南アルプス市を拠点に、県内の生活困窮世帯へ無償で食品を届ける活動を行なっています。支援の対象となるのは、生活保護を受けていない困窮世帯。いわば行政のセーフティネットからもれてしまった方々です。希望世帯に月2回、お米や乾麺、缶詰、調味料、嗜好品など約10キロの食料品が詰まったダンボールを宅配便で直接お送りしています。
 活動を始めたのは2008年8月です。「コープ山梨(現・パルシステム山梨)」の理事長を退任し、人生のセカンドステージにどのような社会貢献ができるかを考えていたとき、当時、日本でも話題になりはじめていた「フードバンク」をやってみようと思ったんです。
 08年10月には賛同してくれる仲間を集め、企業からいただいた余剰食品を児童養護施設や福祉施設へ届ける活動からスタートしました。それと並行して、南アルプス市役所にアプローチを始めたのです。フードバンクはアメリカで40年以上前に始まった社会福祉活動で、ボランティアの観点からも、食品ロス(まだ食べられるにもかかわらず廃棄されてしまう食品)削減の観点からも、欧米では国の政策に浸透しています。
 一方、日本では文化の違いもあるのでしょうが、まだ広く知られた存在とは言えません。どうしたら日本に合った活動になるのかと考えた結果、行政と連携していくことを考えました。
 生活に困窮した方が私たちの活動を自ら見つけ、直接連絡してくれたケースはわずか6パーセントに過ぎません。残り94パーセントは、連携する市町村や地域住民の福祉活動を支援する社会福祉協議会などを通じて紹介された世帯です。生活に困った方はまず行政に相談に行くわけです。
 しかし、所持金が100円程度しかなく、困り切って市役所の窓口を訪れた方に対して、行政にはその場で支援できるシステムがありません。生活保護申請が通るとしても、受給までは審査や手続きで通常1ヵ月ほど時間がかかります。そこで、その間をしのぐための緊急支援物資として私たちの提供する食品を利用してほしいと市役所に提案したのです。
 それがきっかけになり、山梨県から厚生労働省管轄事業の委託を受け、県下全域に食料支援を行なう「食のセーフティネット事業」を開始することができました。
 生活保護基準ギリギリの収入なのに、自分さえ頑張ればなんとかなると無理をされている方もいれば、基準に該当していても「国の世話にはなりたくない」と行政の支援を拒む方もいらっしゃいます。そういった方々に役所の職員さんが私たちの支援内容を伝え、ご本人の同意のもと支援の申請をしていただくのです。行政としても、生活保護を受ける前の段階で就労し、自立が可能になれば、増え続ける社会保障費の抑制につながります。

 9世帯の支援からスタートした事業が、現在では年間のべ4000世帯にまで広がっています。そのうち約40パーセントが育ち盛りのお子さんを抱える家庭です。母子世帯の割合も多く、30代~40代女性の約65パーセントを占めています。
 行政との協働はNPOにはハードルが高く、視察に来られた方からも「秘訣は何ですか?」とよく聞かれます。でも、特別なことは何もないんです。まずはいちばん身近な自治体にアプローチして、相手にとってメリットのある提案をしていくこと。意見が食い違っても諦めずに話し合い、失敗を繰り返しながらも関係を継続していくしかありません。

家族構成や生活習慣に合わせて、
世帯ごとに食品の内容を変えています。

 貧困に対してはさまざまな形の支援がありますが、食の支援は幅広く、すべての貧困に対応できる汎用性があると思います。
 単身高齢者、ひとり親家庭、病気や障害、親の介護による就労制限、外国人、路上生活者、震災避難者……。貧困状態に陥るにはさまざまな理由がありますが、最終的にはすべて“食べ物がない”という問題に行き当たります。
 私たちが提供する食品はすべて、市民や企業からの寄付でまかなわれています。提供企業は約38社。山梨には農家が多いこともあり、お米は県内農家からの寄付ですでに14トンの備蓄があります。
 毎年8月と12月には、社会福祉協議会事務所など県内20~30ヵ所に食品回収スペースを設置して、家庭に眠っている保存食(穀類、缶詰、調味料、レトルト食品、乾物、ギフトパックなど)の寄付を募るイベント「フードドライブ」を行なっています。お菓子1つ、カップラーメン1つから気軽に参加していただくことができ、14年12月のフードドライブでは、過去最高の7・6トンの食品を集めることができました。

 ライフラインが止まった方やダブルワークなどで忙しく、食事の支度をする時間が取れない方には、すぐに食べられるレトルト食品やカップ麺が喜ばれます。前回のフードドライブでは、カップ麺のご寄付を重点的に呼びかけたところ、1171個のご寄付をいただきました。
 食品の仕分けや発送作業はスタッフとボランティアが1回につき2日がかりで行なっています。お米や乾麺、缶詰などの「基本セット」に加え、家族構成や生活習慣、アレルギーの有無、ガスや水道などライフラインの状況を踏まえたファイルを見ながら、世帯の実情に合わせた食品を詰めていきます。子どものいる世帯にはお菓子やジュースを箱を開けたとき最初に目につく場所に配置しています。
 多くの家庭が、月2回の支援をとても楽しみにされています。中には、着いてすぐに箱を開けられるよう、ハサミを片手に待っているお子さんもいるそうです。お菓子などの嗜好品はなかなか買えない方が多いので、特に人気が高いのです。
 食品にはスタッフからの手紙を必ず添え、支援する世帯からはお便りやアンケートで意見を募ります。特に公的支援を受けていない方の多くは社会から孤立していますから、このやりとりが心のケアにもつながるんです。私たちからの手紙を常に持ち歩き、くじけそうになったときに目を通していると書いてくれた方もいました。
 フードバンクの仕組みは、支援をする側も受ける側も、お互いの顔を知らないから良いという面もあると思います。特定の誰かではなく、社会からの贈り物だと思うことで気兼ねなく受け取れますし、何より社会のなかで1人ではないと感じてもらえることが大切なのです。

関わる人が増えれば見えないSOSを
見つけることができる。

 食品の支援はあくまでも自立を前提とした補助的なものであり、それだけで生活できるものではありません。期間も最長3ヵ月です。ただし、やむをえない場合には延長も受け付けており、継続して支援を受ける世帯も少なくありません。
 病気や家庭の事情から失業期間が長い方にとっては、ハローワークに行くことすら高いハードルになっている場合があります。そこで、耕作放棄地や市民農園を利用して農作物や花木の栽培を行なう「フードバンクファーム」をつくり、就労意欲や社会とつながる感覚を取り戻していただく試みも始めています。
 フードバンクファームで収穫されたじゃがいも、ナス、ミニトマト、大根、小松菜などは寄付された食品と一緒に箱詰めし、支援する世帯に届けています。
 また、年に数回子ども向けに「フードバンクキッチン」というイベントも行なっています。困窮世帯では、食品の不足もさることながら、家族の団らんや一家揃って食事をする経験が乏しいお子さんが多いのです。みんなで一緒に料理をつくって食べる企画をしたところとても好評で、昨年は南アルプス市内のキャンプ場でバーベキューも行ないました。

 厚生労働省の調査では、16・3パーセントの子どもたちが貧困状態にあると言われています。けれど子どもたちははっきりとしたシグナルを出しません。飢えて痩せているわけではなく、むしろ偏った食事で太ってしまう子もいる。だからこそ、企業、市民、農家、学校、病院など多くの人たちを巻き込み、地域全体で見守ることが必要なのです。
 学校の先生方も、どう手をさしのべていいのか迷っていると思います。そんなとき、フードバンクの活動を紹介して申請用紙を渡してくれたら、私たちからは見えなかったSOSとつながることができる。関わってくれる方が増えれば増えるほど、見えないSOSを見つけることができるのです。  

行政と連携したフードバンクを
全国につくりたい。

 支援開始以来、順調に進んできたフードバンク山梨の活動ですが、現在、大きな危機に直面しています。
 これまで山梨県から一括して受託していた事業が今年3月で廃止され、「食のセーフティネット事業」を県下全域で続けるには、4月に施行された「生活困窮者自立支援法」に基づいて山梨県や各市町村と新たな提携を結びなおす必要があるのです。
 しかし、予算不足などを理由に3月現在で連携を結べているのは8市のみ。連携を結べない自治体に住んでいる支援者に対してこれまで通りの支援を続けることが難しくなっています。
 支援する食品はすべて寄付・寄贈でまかなっていますが、宅配料や倉庫代、人件費などは事業の受託料から捻出しています。活動継続のために寄付を募っていますが、現在も厳しい状況が続いています。
 ボランティアで運営することは難しいですし、継続性を考えるのであればボランティアだけでやってはいけないとも思っています。これまで日本は年間500~900万トンといわれる余剰食品がありながら、欧米のように政策で解決することができていませんでした。
 微力ながらもこの6年で、私たちは食品ロスを減らし、困窮者へ直接寄贈する独自の仕組みをつくってきたと自負しています。いまは正直ピンチですが、ピンチはチャンスでもあります。これを機に改めてフードバンクの有用性を社会に伝えることができれば、さらにステップアップした支援になるのではないかと思っています。
 今後の大きな目標は、行政と連携した地域密着型のフードバンクが全国各地に生まれて、根付くこと。そのためのシステムを構築することです。いちNPOの活動には限界がありますから、全国で活動しているフードバンクと相談して、4月から「全国フードバンク推進協議会」を立ち上げる準備をしているところです。次世代以降にも継続してもらえるようなシステムをつくり、困ったときには誰もが支援を受けられる世の中に早くしていきたいですね。

取材・文*藤崎美穂 撮影*細谷忠彦