週刊通販生活トップページ  >  読み物:枝廣淳子さんのゼミ生「夏合宿」

カタログハウスの公式通販サイト

都会の学生17人は、10世帯18人・平均年齢72才の集落で、何を見て、何を考えたのか。

エダヒロゼミ、大学から飛び出して熊本へ!

 私たち東京都市大学環境学部の枝廣研究室では、「社会を変えながら、社会を変えられる人を育てる」をモットーに、これまでに何度も学外ゼミ「飛び出せ、エダヒロ研究室」を開催してきました。大学に閉じこもるのではなく、社会の現場を見て、いろんな方々の話を聞いて、自分のアタマで考えることが、生きる力・自分や組織や社会を変える力をはぐくむと信じているからです。夏合宿ならふだんよりも遠くに行ける!と、9月1日〜3日の3日間、17人のゼミ生と熊本の山奥までやって来ました。
 私たちの宿泊用に布団を運んできてくれた町の貸布団屋さんが「こんな山奥に集落があるとは知らなかった」と言うほどの水増(みずまさり)集落との縁を結んでくれたのは、そう、『通販生活』なのです。
 2015年春に再生可能エネルギーの連載の取材先として訪れた山都(やまと)町の水増集落。たった半日の滞在でしたが、大好きになりました。取材後にお茶を飲みながらの「20年以上子どもが生まれていない」「若い人たちの声を聞くこともない」という話に、「いつか学生たちを連れてこられたらいいですね」と言っていたのが、とんとん拍子に実現したのです!
 17人のゼミ生のほとんどが都会生まれ・都会育ち。地方や農業の現状を自分の目で見ること、そこで暮している人々の話を聞くこと、地域を五感で感じて、自分の頭で考えることをめざして、ゼミ合宿が始まりました。

ほんとにお店もコンビニもない……

 1日目、熊本空港で集合。ほとんどの学生は格安航空会社の飛行機で到着です。半分以上の学生が「九州は初めて」。ワクワクしながら迎えのマイクロバスに乗り込みます。そこから1時間ほどバスでの移動。どんどんと緑濃い山の奥に向かって走って行く車内では、「こんな山奥に家があるの?」という不安の声も。
 到着したのは、棚田と棚畑が山の斜面に這うように広がり、そのてっぺんにたくさんのソーラーパネルが張り付いている、集落の谷です。小さな川沿いにわずかに開けた土地に、私たちが宿泊する農村環境改善センターと高齢者向けの憩いの場「茶飲ん場」(数年前までは保育園でした)、そして800年の歴史を持つ水増神社があります。
 バスを降りた学生たちは、「コンビニがないからいるものは持っていらっしゃいと先生に言われていたけれど、コンビニもお店も……本当にない!」「建物がほとんどない」「どこを見ても緑しか見えない!」とびっくりしています。ちょっと不安そうな学生たちも……。

人の温かさと思いに打たれる

 集落の方々にあいさつをした後、すぐにお昼ごはんをいただきました。「おいしい!」という声があちこちから上がります。かっぽう着のお母さんたちが用意してくれた煮物やおつゆ、ご飯がとてもおいしいのです。「おかわりは?」と聞いてくれるまなざしも声も優しくて。18人の集落に同じ数の私たちが訪れたわけですから、この3日間は人口が2倍! 学生たちの話し声や笑い声が響きます。にぎやかな学生たちの様子を、集落の皆さんはにこにこと見てくれていました。
 そもそも私が通販生活の取材で水増におじゃましたのは、この集落で大きな太陽光発電が始まっているからでした。山の斜面にある村の共有地の維持が高齢化によって難しくなってきたこと、福島原発事故があったことから、共有地を太陽光発電用に使ってもらうことにしたそうです。
 手を挙げた10数社の事業者の中から「ただ『地代でどれだけ儲かるか』でなく、『地代に加え、売電収入の5%を村のために拠出するから、その資金を活用して村づくりをしよう』と提案した地元のテイクエナジー社と組むことを決め、ソーラーパークは去年春に完成して発電を開始。テイクエナジー社とともに「子どもたちが帰ってくる村づくり」の取り組みが始まっているのです。お昼ごはんを食べながら、こういった経緯と村づくりにかける思いを聞かせてもらいました。
 来る前は「18人しかいない、平均年齢72才の集落」と聞いて、どんなにひっそりとした、もしかしたらあきらめのムードも漂っている集落ではないかと思った学生もいたようですが、どっこい、集落のみなさんは元気いっぱい。前向きな集落の皆さんの話に、みんな圧倒されたようです。
 事前に学生たちは、「歴史文化」「自然環境」「暮し」「今後の展開」という4班に分かれて、それぞれインターネットなどでの予備学習をしてきました。集落のみなさんにも4班に分かれていただき、各グループが集落のみなさんから聞き取りを行ないます。学生たちはみんな、(授業では見られないほど!)熱心に真剣に耳を傾けていました。

初めての農業体験と特別なシフォンケーキ

 2日目の午前中は、お楽しみの農業体験です。初めて担ぐ鍬。もっこで肥料を運ぶ学生。土地を耕し、畝をつくり、肥料を撒いてから、ダイコンなどの種まきをします。指導役は、集落の農作業の中核を担う70〜80代の男性陣。体力には自信があるといっていた男子学生たちも、しばらくすると「体がキツイ」と腰を伸ばします。「こういう作業を1日中、毎日のようにしている集落の人たちはすごいなあ!」と心から感心していました。
 また、自分たちが汗をかきながら、鍬をふるって懸命に耕していてもほんのちょっぴりずつしか進まない傍らで、トラクターがあっという間に畦を作っていく様子にも「機械のありがたさを痛感した」。これも体験したからこその学びですね。
 農作業の途中で、5人の女子学生は集落の公民館へ移動し、集落の女性陣といっしょにシフォンケーキ作り。これから集落が売り出そうと考えている、特別なシフォンケーキなのです。
 この地域には「八天狗」という在来種の大豆があります。農水省のゲノム解析によると、日本古来の在来種とのこと。実は、農水省の大豆のデータベースに載っていない、つまり、「存在していない」、幻の?大豆なのです。土地の有機農家が自家用に作り続けてきたために今に伝わったというこの八天狗を、村おこしの中心の1つにしようと、集落では今年3ヘクタール作付けしたそうです。
 この八天狗、味が濃くてとってもおいしい。煮豆をご飯の時に出してもらったのですが、みんなパクパクといただいていました。そして、その豆乳も、豆乳をしぼった後のおからも最高においしい。この八天狗の豆乳を使ったシフォンケーキを、集落のお母さんたちが開発したのです。われらが女子学生たちも手伝ってのシフォンケーキ、楽しみです!

何もない田舎? それとも……?

 昼食の後、今回大学生たちがやってくるということで予定を合わせて来て下さった農林水産省大臣官房の環境政策課・地球環境対策室長の作田竜一さんから、農業と環境との関わり、国レベルでの温暖化や生物多様性への取り組みや考え方についてうかがい、質疑応答の時間を持ちました。地元では村づくりのために再エネを導入している一方、国では国レベルのCO2削減のために、再エネや森林保全の取り組みを応援する仕組みを設けている――私たちは地元目線と国・世界目線の両方を持つことが大事だと考えているので、大変よい勉強の機会となりました。
 その後、学生たちは4班に分かれ、集落のみなさんへの聞き取りのまとめと、「集落を消滅させないための提案」づくりを始めました。
 集落の人たちは、私たちが到着してから何度も、「ここは田舎で、何もない。店もない。せっかく東京から学生が来てくれても、退屈で、1日が長く感じるんじゃないかと心配だ」とおっしゃる。「でも、こんなに緑が豊かで」と言っても、「気を遣ってくれなくてもいいんだよ」と言われる。
 でも、東京から来た私たちから見ると、水増には東京にはないお宝がいっぱいあります。各班では、聞き取りの内容や、自分たちがここで見つけたものや感じたことを元に、「水増にはどんなお宝があるのか、それをどのように、集落の存続につなげることができるだろうか」考えを出し合います。最終日の午前中には、集落の方々を前に各班が提案を発表します。
 夕方にいったん作業を終え、車で片道30分のところにある温泉へ。最後の夜となる夕食懇親会には、集落のみなさんがたくさん来てくれました。
 大皿に盛り合わせたご馳走や、身の引き締まったお肉と脂ののった鶏汁に、歓声が上がります。昔は特別な時に鶏をしめて作ったという、とっておきの鶏汁のおいしいこと。昼間、女子学生が地元の方と作ったシフォンケーキも登場。ふわふわでおいしくて、ついおかわりをしちゃいました!
 挨拶をしてくれた80歳の荒木博明さんは、「みんなが明日帰るのかと思うと、寂しくて」と声を詰まらせます。今回のゼミ合宿を受け入れるに当たって、集落では何度も話し合いを重ね、1週間前からいろいろな準備をしてくれたそうです。男性陣は農業体験ができるよう、畑の整備を、女性陣は献立を考えたり食材を調達したり。自分たちのために、集落をあげて時間をかけ、準備をしてくれていたことを知って、学生たちは感じるものが大きかったようです。

水増集落の未来へ向けて

 3日目の朝が明けました。10時に集落への提案発表会が始まります。集落の人たちがたくさん聞きに来てくれました。お母さんたちもかっぽう着を脱いで、ホールの前方に座り、学生たちの発表に耳を傾けます。
 「歴史もある、農業もできる、自然が豊かな水増だから、歴史ツアー、農業ツアー、自然ツアーができる」「集落の公式Webサイトを作って情報発信しよう」「地元の料理のレシピ本を」「大豆の八天狗をゆるキャラに」「農業を学ぶ学生向けのフィールド+学生寮もいい」「八天狗のソフトクリームや、これまた地元産のおいしい赤かぼちゃと八天狗の豆乳を使ったかぼちゃプリンを開発しませんか」――さまざまな視点からの、学生らしい提案が次々と発表されます。うなづきながら聞いている集落のみなさん。発表が1つ終わるごとに、感想や質問を出してくれます。
 「集落を消滅させないためには、若い人たちが移り住む必要がある。そのためには、①興味を持ってもらう、②住みたいと思ってもらう、③住めるとわかる、④住む、というプロセスを進んでいくための情報やサポートが必要だ。それはどのようなものか、どのようなチャネルで届ければ良いか」という提案を発表したグループもあります。
 どのグループも「豊かな自然、集落の皆さんの温かさ」を「水増のお宝」として提案に含めていました。あるグループの発表者はこのように言いました。
 「満天の星空、きれいな川、豊かな緑。都会では味わえないものです。都会には、川はあっても汚い川ですし、星空はあっても満天じゃない。緑も人工の緑、あまり豊かじゃない緑です」
 集落の人たちにとっては当然であって、特に珍しくもない自然の豊かさや緑がいかに素晴らしいか、学生たちの口から繰り返し語られると、集落の人たちは、「なるほどな。都会の人はそう思うんだ」「今の時代はこれがいいのかな」と。最後に集落を代表して総括してくれた荒木和久さんはこのようにお話しになりました。
 「東京で味わえないこと、願ってもできないことが、田舎には、この水増にはいっぱいあるんだなと感じました。自然の豊かさに、もっと自分たちも目の向け方を変えないないと思いました。これまでは、ただ田舎、ありふれた田舎と思っていました。
 東京から皆さんが2泊3日で来られる。それで頭がいっぱいで、どう対応したらいいか。それだけでした。こうして、水増の姿を皆さんに見てもらって診断を受けましたので、胸を張って『水増』と言えるように頑張りたいと思います。ありがとうございました」

ヤギと別れのアーチ、そして今後へ

 発表会が終わった後、3日目にしてようやく出てきてくれたお日様の下、雨続きで行けなかった山のソーラーパークへ。深い緑の中できらきらと輝いているたくさんのソーラーパネル。「こんな斜面でもよくずり落ちないね」「日当たりはほんとに良さそう!」と学生たち。「パネルの間にカボチャを植えて世話していたんだよ。さっき食べたカボチャがそうだよ」という声に「ソーラーカボチャ!」と笑い声が上がります。
 山の斜面にあるのはパネルだけではありません。パネルと反対側の斜面を、ヤギが歩いたり走ったり。10頭いるそうです。「もともとソーラーパネルの邪魔になる雑草を食べてもらうつもりだったけれど、パネルに飛び乗ってしまうので駄目だった」と集落の人たちは笑います。「いっそ、ヤギを増やして、ヤギ園を造ろう」「子どもたちに喜んでもらえるだろう」「ヤギの乳でチーズも作れるんじゃないか」そんな話を集落の人たちはしています。
 最後にセンターに戻って、学生みんなで掃除し、お礼の手紙を集落のみなさんに手渡しました。集落の皆さんが、「また来られるように願を掛けて」と作ってくれたアーチを学生一人ひとりがくぐっていきます。小柄な集落の方々のアーチを大きな学生たちが身をかがめてくぐっていく様子は、胸がきゅんとする光景でした。
 でも、これで最後ではない。これは最初の一歩なのです。水増集落のみなさんにとっても。そして、学生たちにとっても。学生たちの発言や感想の端々から、たった2泊3日でもそれぞれ感じ、考え、成長してくれたことを感じます。
 水増集落の未来と枝廣ゼミの学生たちの今後に、どうぞご期待を!

↑このページの先頭へ