週刊通販生活トップページ  >  読み物:『“悪夢の超特急”リニア中央新幹線』著者・樫田秀樹さんインタビュー

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福島第一原発事故をビキニ事件のように「忘却」しないために、放射能のリスクを室戸から世界へ示していきたい。

品川-名古屋286kmの約9割がトンネル。
水枯れや建設残土の問題は解決していない。

――そもそもリニア中央新幹線(以下、リニア新幹線)とはどんなもので、いつから計画が進められてきたのでしょうか。

樫田  リニア新幹線は、強力な超電導磁石で車体を地上から10㎝ほど浮上させ、最高時速500㎞で”飛び”ます。JR東海が事業主体で、実現すれば品川-名古屋間を40分、品川-新大阪間を67分で結ぶと言われています。1962年、旧国鉄の鉄道技師だった川端俊夫氏が発案し、72年には東京の研究所敷地内で時速60kmながら有人浮上走行に成功しました。その後、77年に宮崎県で路線実験を開始し、97年からは山梨県で実証的な走行実験が始まりました。
 しかし、しばらくは計画が止まったまま実用化の見通しはまったく立っていませんでした。国もJR東海も、当時約5兆円と見積もられていた事業費を出す気がなかったのです。地元では、「リニアは実験線だけで終わる」と思われていました。
 状況が一変したのは2007年です。いきなりJR東海が全額負担すると言い出しました。いつまでたっても、国が税金を財源としたリニア新幹線を計画しないからです。しかも、新しい見積もりでは、事業費が9兆円に増えていました。14年10月に国土交通相の認可が下り、今年12月にも本線の建設工事が開始する予定です。まず品川-名古屋間が2027年に、名古屋―新大阪間は2045年に開通予定です。

※『“悪夢の超特急”リニア中央新幹線』(旬報社)より引用

――マスメディアでは「夢の超特急」などと報道されていますが、実際にはさまざまな問題があるそうですね。

樫田  まずは環境破壊です。品川から名古屋までの286kmは約9割がトンネルで、山や地下に穴を開けることになっています。すると水脈が断ち切られて、近隣の地域では水枯れが起こります。99年、実験線の線路を造った山梨県大月市では、トンネルができた3ヵ月後に簡易水道の水源が枯れました。09年には、同県笛吹市の水源である1級河川天川が枯れ、農業用水に使っていた農家から困惑の声があがりました。ほかにいくつも例があります。
 それから、トンネル工事で出てくる大量の残土も大きな問題です。具体的な置き場所を示した自治体は少なく、いったいどうやって処理するのかはわかりません。工事中は、狭い田舎の山道を1日に1000台以上もトラックが走り、騒音や振動などで住民の生活環境が損なわれることも深刻です。

――ほかにはどんな問題がありますか。

樫田  私が今、最大の問題として捉えているのが、建設のための土地や家屋、畑の収用です。収用の対象者は5000人ぐらいと言われています。今までの公共事業の事例を見ると、9割方は話し合いで「わかりました、売りますよ」となりますが、少数ながら絶対に土地や家を売らない人もいます。そうした人々も大きな事業のために犠牲になっていいのでしょうか。
 先日、東九州自動車道の開通のために、ミカン農家の方が強制的に畑を収用させられました。農作業小屋から引きずり出され、チェーンソーでミカンの木を切られてしまった。同様のことがリニア新幹線建設の現場でも起きていいのか、ということです。

リニア実験線のあとに枯れた「棚の入沢」(山梨県上野原市)(撮影 樫田秀樹)

――リニア新幹線の通る地元では、賛成と反対のどちらが多いのですか。

樫田  09年に朝日新聞甲府総局が行ったアンケートでは、「リニア新幹線はどのルートにすべきか」との問いに、回答者約4000人の57%が「リニアは必要なし」と答えていました。13年には、神奈川県の市民団体が市民に実施したアンケートで「リニアに乗って40分」か「のぞみに乗って100分」のどちらかを尋ねたところ、約90%がのぞみを選びました。
 地元で賛成しているのは、宿泊業や雑貨店、ガソリン販売業などの一部です。

―― 一般に、経済波及効果があると言われていますが、そうでもないということでしょうか。

樫田  山梨県のリニア実験線に関係した建設会社の社員の方とお会いしたら、「当社では、会社をあげてリニア本線の工事に参入しません」と話していました。理由の一つは、採算性です。「総価請負方式」といって、受注した企業はすべての工事をその受注額のなかで行なわなくてはなりません。仮に1kmあたり数百億円で受注しても、ペイできるかどうかわからないそうです。
 例えば、山を掘ると異常出水が起きて川になり、人が亡くなることがあります。その場合の補償も、予算内で賄わなければなりません。また、異常出水があると必ずどこかで水枯れが起き、代わりの井戸を掘ったり給水車で水を運んだりしなければなりません。水質を元に戻す施設も造ることになりますが、すべて受注額の範囲で実施することになります。建設会社にとっても、決しておいしい話ではないのです。
 観光による地域振興が起きるとも言われていますが、もともと観光資源がある地域ならいいのでしょう。でも、リニア新幹線の駅ができる地域は、観光客を呼べる資源がなにもないところも少なくありません。推進派のなかでも、「リニアが来るから即観光化されるわけではない」と言う人がいるくらいです。

長野県大鹿村のメーン道路。保育園の脇を、1日1736台もの大型車両が通ることになる。(撮影 樫田秀樹)

――住民たちには十分に説明されているのですか。

樫田  11年に国土交通省の小委員会で、リニア新幹線計画の妥当性が審議されましたが、民意軽視が露骨でした。888件ものパブリックコメントが集まり、推進を望む声16件に対して、中止や再検討を望む声は648件もありました。しかし、委員に伝えられた反対意見は10件のみ。それも、委員会最終開催日の前日の夕方でした。国交省によると「反対意見は多いが、多くが組織的な投稿なので数は重視していない」という理由です。
 その数ヵ月後、JR東海による住民説明会が開かれましたが、質問は1人3問に制限したうえ、終了時間がきたら挙手している人がいるのに閉会してしまった。住民が自然環境への影響などを聞いても、JR東海は具体的な回答をせず、着工直前に公開する「環境影響評価準備書」(準備書)で明らかにすると先延ばししました。その準備書では、質問されたことに触れてはいるものの「影響は少ないと思われる」など推定の文言ばかりが並んでいました。
 ほかにも例をあがればきりがありませんが、ことごとく住民の意向を無視した事業なのです。

マスメディアがスポンサーに遠慮し、
報道を控える姿勢は原発問題と似ている。

――そうした問題は、あまり報道されていないようです。

樫田  民意を軽視する姿勢も、メディアの対応も、原発問題と同じですよ。私が99年にリニア新幹線の取材を始めた頃、記事を掲載できた雑誌は1誌だけでした。JR東海はほとんどのメディアの大スポンサーだからです。拙著『“悪夢の超特急”リニア新幹線』(旬報社)も、本当は別の出版社から出版される予定でした。しかし、印刷が済み、もうすぐ店頭に並ぶという段階で、突然の出版停止を食らいました。その出版社の上部団体にあたる大学が、「卒業生に鉄道関係の研究をする人がいる。JR東海を批判するような内容のこの本が大学の意図と思われては困る」という理由でした。
 神奈川県でリニア新幹線に反対している市民団体は、NHKの取材を受けましたが、放送予定の前日に「放映できなくなりました。理由は申し上げられません」と言われたそうです。これもなんらかの力が働いたとしか思えません。
 ほかにも、新聞や雑誌でリニア新幹線を批判する記事が出そうになると、それを察知したJR東海が「ご説明に伺います」と3〜4人で新聞社や出版社にやってくるケースが多いと聞きました。あえて「ご説明」という言葉を使っていますが、実質は抗議です。JR東海が来た新聞社などでは、私が企画を出しても通らないことが続いています。
 リニア新幹線の取材は広域にわたり、交通費や宿泊費がかかるのですが、記事を発表できないと原稿料も入りません。近々、クラウドファンディングで資金を募り、リニア新幹線に関する単行本の第2弾を出したいと考えています。

山梨県上野原市にあるリニア非常口(横坑)。ここから膨大な残土が排出され、かつトンネルからの異常出水もくみ出している。(撮影 樫田秀樹)

――強行に進められているリニア新幹線ですが、実はそれほど便利ではないそうですね。

樫田  そうです。建設資金の関係で、2027年から45年までは品川―名古屋間しか開通しません。新大阪まで行くには、名古屋で普通の新幹線に乗り換える必要があります。こうした時間を考慮すると、リニア新幹線は普通の新幹線よりわずか20分ほど速いだけでした。重い荷物を持ったビジネスマンが、たった20分のためにわざわざ名古屋で乗り換えるでしょうか。しかも新大阪までの料金は品川から新幹線で行くより1000円ほど高くなります。最初から新幹線で行く人も多いことでしょう。
 ただ、この問題は推進派の人もわかっています。自民党の特別部会や関西の経済界は、できるだけ名古屋と新大阪を同時開業できるように動き始めています。

――足りない資金を、誰かがカバーするのでしょうか。

樫田  税金ですよ。自民党は名古屋―新大阪間の費用3兆6000億円を、国が無利子で融資しようとしています。山本太郎議員が内閣委員会で、「リニア新幹線の工事で建設資金が足りなくなった場合、国費を投入しますか」と質問したところ、石破茂地方創世大臣は「その可能性を否定できない」と答弁しました。もし、3兆6000億円もの税金が使われるとなると、さすがにマスコミも国民も大騒ぎするでしょう。新国立競技場の建設予算が当初の1300億円から2500億円に膨れあがった時でさえ、あれだけの大問題になったわけですから。

――採算性のあやうさは、国民全体にかかわる問題です。計画が見直される可能性はあるのでしょうか。

樫田  難しいですね。リニア新幹線の沿線住民が、国交省に対して事業認可の取り消しを求める行政訴訟を起こそうとしていますが、裁判は5年、10年とかかります。その間も作業は止まらず、判決が出る頃には名古屋まで開通しているかもしれません。
 ただ、住民にもできることがあります。JR東海が最終的に作った「環境影響評価書」(評価書)を読み直して、疑問な点があれば、自分たちの県に「ここがおかしい」と指摘するのです。例えば、静岡県ではトンネル工事の影響で大井川の水が1秒間に2トンも減るそうです。だから新しい導水路を造ろうとしていますが、評価書には書かれていません。そうしたケースがいくつも出てきていますから、住民側から声をあげるといいでしょう。
 今の反対運動は、どちらかというと市民団体がJR東海に直談判することが多いのですが、自分たちにとって身近な都や県に対して論理的に抗議することも重要です。決して諦める必要はありません。

『“悪夢の超特急”リニア中央新幹線』
旬報社(1600円+税)

リニア新幹線が抱える水枯れや建設残土、トラックによる騒音や振動などの問題を丁寧に取材した一冊。第58回JCJ(日本ジャーナリスト会議)賞受賞作。

樫田秀樹(かしだ・ひでき)1959年、北海道生まれ。岩手大学卒業。コンピュータ関連企業勤務を経てフリーのジャーナリストに。NGOスタッフとしての活動や取材でアジア・アフリカ 各地に赴く。著書に『9つの森の教え』(築地書館/ペンネーム峠隆一)、『「新しい貯金」で幸せになる方法』(築地書館)、『自爆営業』(ポプラ新書)、編著書に『世界から貧しさをなくす30の方法』(合同出版)など。各誌で環境問題、社会問題、市民運動、人物ルポなどを手がける。自身のブログやホームページでも多くのテーマを執筆している。

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