週刊通販生活トップページ  >  読み物:『ルポ 母子避難』著者・吉田千亜さんインタビュー

カタログハウスの公式通販サイト

「来年3月に迫った借り上げ住宅の無償提供打ち切りを、なんとかして食い止めたい」

目の前に「路上生活するしかなくなる」と
訴える母子がいる。

──母子避難者の苦境を伝える『ルポ 母子避難』の執筆のきっかけとなったのは、昨年発表された、避難者への借り上げ住宅(注)の無償提供打ち切りですね。

(注)借り上げ住宅……災害救助法により、被災者に無償で提供される住宅。応急仮設住宅(プレハブなど)と違い、既存の民間住宅や公営住宅などがあてられるため“みなし”仮設とも呼ばれる。国の避難指示を受けて避難している強制避難者の多くが福島県内で避難生活を送る一方で、自主避難者の多くは県外の借り上げ住宅で避難生活を送っているが、福島県は来年3月いっぱいで無償提供を打ち切ると発表している。

吉田  そうです。母子避難者の多くは国による避難指示のない地域から避難していますから、賠償は全くないか、あったとしてもごくわずか。借り上げ住宅の無償提供で、ようやく避難生活が成り立っている世帯がほとんどです。
 避難者が署名を集めたり、市民団体が抗議行動を起こしたりして打ち切り延長を求めていますが、あるお母さんは「打ち切られるかどうかハラハラしながら過ごすのは辛い」と、3月末に帰還しました。
 やはり3月末に帰還したあるお母さんは「もしも収束作業中の原発で何かあったら、もう一度避難する覚悟で帰る」と語りました。
 またあるお母さんは「無償提供が打ち切られたら、子どもと一緒に路上生活するしかないのかな」と消え入りそうな声でつぶやきました。
 「線量の低下」「避難者の自立」「復興への足がかり」……。希望ある言葉で飾られる帰還政策の内側で、避難者は望まぬ帰還か、生活困窮かの選択を強いられています。
 私は自主避難者の交流会を開いたり、子どもを被ばくから守るお母さんのための雑誌『ママレボ』の制作に携わったりするなかで、多くの母子避難者と出会ってきました。今、私の目の前には「来年どこに住んだらいいの?」と途方に暮れるお母さんたちがいます。それも大勢です。
 住宅提供打ち切りをなんとかして食い止めたい。その思いで『ルポ 母子避難』を執筆しました。

母親たちのこの5年間の避難生活を
なかったことにはしたくない。

──『ルポ 母子避難』には、借り上げ住宅で暮す母子避難者の生活が詳細に書かれています。

吉田  共感できるかどうかは、ディテールが分かるかどうかにかかっていると思うので、できるだけ詳しく具体的に書くことに、すごくこだわりました。
 例えば、本の中に登場するあるお母さんは、原発事故前までは一軒家で暮していたのに、避難生活では古い団地の一室に住み、女と子どもだけの生活が不安で、廊下に面したお風呂に入るときは一度も電気をつけませんでした。また別のお母さんは、自宅に残っている夫の浮気を知り、問い詰めると「お前が避難をしているせいで俺のプライドは傷つけられた」という言葉を浴びせられました。「事故がなかったら今頃どんな生活をしていたかと思うと、力が抜けてしまう」と語ったお母さんもいます。

──母子避難者の苦しい状況をここまで詳細に伝える本はこれまでほとんどありませんでした。

吉田  でも、本で紹介しているお母さんたちは、ほんの一握り。もっとたくさんの方が避難をしているし、避難者の数だけ事情があります。
 ただ、取材の中で母子避難者の多くにあてはまる問題だと実感するのは、孤立の深刻さですね。避難者交流会に初めて参加するお母さんたちは、避難生活の苦しさを、それこそ息つく間もなく立て続けに話します。中には、手を震わせながら絞り出すように言葉を発する方もいて……。本当に、ずっと一人で耐えてきたんだなと感じます。
 避難指示がないことで「帰る場所があるのに、勝手に避難した人たち」という視線を向けられるうえ、自宅に残っている夫に対しても「避難させてもらっている」という遠慮がある。胸の内を吐き出せる場所がないことが、お母さんたちを孤立へと追い立てています。
 苦しくて苦しくて、つい子どもに辛くあたってしまうと話すお母さんもたくさんいます。どうしようもなく追い詰められて「子どもと一緒に死のうと思った」と話すお母さんにも、本当にたくさん会ってきました。……どれだけ辛いか。同じ母親として、想像するに余りあります。
 現在、避難指示も徐々に解除されつつあり、借り上げ住宅の無償提供打ち切りとあいまって、帰還政策が加速化しています。

──――副題の「消されゆく原発事故被害者」はまさに、被害者にとって苦しい現状を言い表しています。

吉田  何年後かには、原発事故の被害は住民の帰還が叶わない一部の地域だけにしかなかったことにされてしまうかもしれません。
 でも、母子避難者がどれだけ大変な思いで避難してきたかを側で見てきた私は、彼女たちの5年間を消したくないし、今後も子どもを被ばくから守りたいという意思を否定したくない。この本を通じて、現状に一石を投じたいですね。

自主避難は間違っていない。
何よりもそう伝えたい。

──『ルポ 母子避難』を読んだ方からは、どんな反応が寄せられましたか。

吉田 あるお母さんが「ここには、私のことが書いてあると思った」という感想を寄せてくださって。その方は、避難者ではないのですが、もし同じ状況になったら、自分も子どもを連れて避難するかも、と。一番伝えたいことが伝わったのかな、と思えました。
 今回、放射線量を書くときには必ず(事故前の●倍)という表記を加えました。避難の原因が放射能である以上、その影響の大きさを客観的に表したかったのです。本に登場するお母さんたちは、5年が経った今も、事故前の数倍から数十倍の線量があるところから避難しています。そこで子育てするのが不安になるのは、ごく当たり前のこと。なぜそれを一部の地域の人だけが受忍させられなければいけないのでしょうか。
 結局、私が一番伝えたいのは「自主避難している人たち、間違ってないよね」ということなんです。「もし同じ状況に立たされたら、あなたも同じ選択をしない?」と問いかけたかった。
 住宅提供打ち切りは、自主避難の正当性を真っ向から否定する決定です。だからこそ、「子どもを守りたい」と思う人なら、母子避難者の思いが通じるはずだ、通じないかな、頼む、通じて! という、ギリギリの願いを『ルポ 母子避難』に託しました。母子避難者の現状を「明日の私の話」と捉え、打開策を一緒に考えてくれる人が増えるようにと、願っています。

吉田千亜(よしだ・ちあ) フリーライター。二児の母。立教大学文学部卒業後、出版社勤務を経て、フリーライターとなる。東日本大震災後、放射能汚染と向き合う母親たちの取材を続けている。原発事故と母親を取材した季刊誌『ママレボ』、埼玉県に避難している人たちへの情報誌『福玉便り』などの編集・執筆に携わっている。

↑このページの先頭へ