週刊通販生活トップページ  >  読み物:「乳児用液体ミルクプロジェクト」代表・末永恵理さんインタビュー

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「外出時や災害時に、赤ちゃんに手軽に飲ませられる液体ミルク。日本で製造・販売できるようになれば、助かる人はたくさんいます」

末永恵理さんインタビュー記事の更新準備をしていた週末(2016年10月16日)、「日本でも液体ミルク導入を検討」の報道が流れました。末永さんたちの訴えが届いたわけで、とてもうれしいニュースでした。そもそも液体ミルクとは何? どうしてこれまで日本にはなかったの? 末永さんのインタビューはこうした疑問に答えてくれます。ぜひお読みください。

お湯に溶かす手間いらず、荷物も減らせる。
災害時にも安心な「液体ミルク」。

――末永さんは2014年11月、「お出かけや災害の時に赤ちゃんがすぐ飲める乳児用液体ミルクを、日本でも製造・販売してください!」と題したインターネット署名を立ち上げられました。まず、この「液体ミルク」とはどういうものなのか、ご説明いただけますか。

末永  「乳児用液体ミルク」とは、文字どおり最初から液体状で販売されているミルクなのですが、成分は粉ミルクとほぼ同じ。赤ちゃんに必要な、母乳に近い栄養が含まれています。個包装なので衛生的だし、常温で保存できるので、ペットボトル入りタイプは付属の乳首をつければそのまま赤ちゃんに飲ませられるんです。欧米などでは店頭に並んでいるのですが、重さがあるので輸送費がかかる分、粉ミルクよりは少し割高なようです。

各国で売られている液体ミルク製品。付属の乳首を付けてそのまま飲ませるペットボトル入りのもののほか、一般の哺乳瓶などに移して用いる紙パック入りのものも。いずれも殺菌済みで密封されており、衛生的。

――水に溶かす手間がないのは便利ですね。

末永  粉ミルクを赤ちゃんに飲ませるには、お湯を沸かし、粉を計って哺乳瓶に入れてお湯で溶かし、適温になるまで冷ます…と、けっこうな手間がかかります。哺乳瓶の消毒まで入れたら1回に7〜8分はかかりますよね。液体ミルクはそれがないので時間の短縮になるし、お出かけのときにもこれがあれば、お湯を入れた魔法瓶などの重い荷物を持ち歩く必要がありません。
 また、災害時にも非常に役立ちます。被災した場合に、ストレスなどで母乳が出なくなってしまうお母さんが多いらしいのですが、たとえ水や粉ミルクを常備していたとしても、避難所などで哺乳瓶を洗って消毒し、お湯を沸かして粉ミルクを調乳するのは大変なことです。でも、封を開けてそのまま飲ませられる液体ミルクなら、そうした心配もいりません。

――欧米ではかなり以前から、広く普及しているそうですね。

末永  1970年代に製造が始まり、80年代ごろに急速に普及したと聞いています。今ではドラッグストアなどで粉ミルク同様に売られていて、特にヨーロッパでは粉ミルクと半々くらいの割合で使われているようです。欧米のメーカーがアジアやアフリカの一部にも進出していますし、韓国では地元メーカーで製造を開始したところもあると聞きました。

フィンランドのスーパーで。粉ミルクとともに、液体ミルクの製品がずらりと並ぶ。
写真提供:藤原斗希子さん(フィンランド在住CSR/サステナビリティ・アドバイザー)

行政も企業も「ニーズがないと動けない」。
だから「必要な人がいる」と伝えたかった。

――ところが、日本では製造・販売されていないんですね。なぜなのでしょうか。

末永  まず、法的な問題があります。粉ミルクを含む乳製品の規格は、食品衛生法の下位法である「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」で定められているんですが、この省令は1951年──つまり、液体ミルクが存在していなかった時代につくられたもので、大幅な改定がなく今に至っているんですね。当たり前ですが、「液体ミルク」という項目はないので、製造も輸入も認められないということになってしまうわけです。

――1951年ですか。でも、それだけ欧米で普及しているものであれば、「日本でも製造・販売できるように法律を改正すべきだ」という声はなかったのでしょうか。

末永  欧米で普及した70〜80年代、日本の一般家庭にはインターネットもなかったので、そもそも「海外には液体ミルクというものがある」ということが消費者に伝わらなかったんだと思います。
 また、当時、欧米では女性の社会進出が急速に進みましたが、日本ではまだそこまでではなかったこともあるのでは、と考えています。仕事に限らず、赤ちゃんのいるお母さんは今以上に外出する機会がなくて、せいぜい近所に買い物に出かけるくらいだったでしょう。
 結果として、法律を改正する機運は生まれなかったのだと思います。

ペットボトル入りの液体ミルクを飲む赤ちゃん。
写真提供:乳児用液体ミルクプロジェクト

――最近はお母さんをとりまく状況も変わってきていますし、日本はこれだけ自然災害の多い国ですから、災害時の備蓄品という観点からも、もっと注目されていいように思います。

末永  調べてみたところ、日本で初めて液体ミルクがメディアに登場したのは、1995年の阪神・淡路大震災の後なんです。「欧米には液体ミルクがあるけど、日本にはないから神戸の親御さんたちは大変だったんじゃないか」という、海外で子育てを経験された方の投書が朝日新聞に載りました。
 このときはそんなに注目もされなかったんですが、2004年の中越地震、2007年の中越沖地震、そして2011年の東日本大震災と震災が立て続けに起きて、一部で「液体ミルクがあれば」という声があがったようです。東日本大震災のときには、海外に住んでいる日本人ママたちが寄付を募って、液体ミルクを被災地に届ける運動が起こりました。本来であれば、輸入も法的には許可されないんですが、災害支援のための緊急措置として認められたようです。
 また、中越地震や中越沖地震の影響もあってか、実は2009年に、日本の粉ミルクメーカー5社が加盟する業界団体「日本乳業協会」が、「法改正して液体ミルクの規格をつくってほしい」と厚生労働省に要望書を出しているんです。

――自分たちも製造・販売をする方向で考えたいから、まずは法整備をしてほしいということですね。

末永  そうです。ところが、厚生労働省の返答は「安全性を担保するため、あなたたち(日本乳業協会)がある程度のデータや試作品を準備してから法整備の議論を具体的に進めましょう」というものでした。その後、乳業協会の加盟メーカーで実際に試作を行なう企業が出てきていないために、行政とメーカー側との「にらめっこ」になって話が止まったまま、今に至っているんです。

――どちらも「そっちが先に動いてくれ」ということなんですね。

末永  メーカーは販売できるようになって利益を出せる保障がないと動けないし、行政は「自分たちにはそこまで乳製品や製造方法に対する知見があるわけでもないのに、税金を使って法整備を先行させるのはハードルが高い」ということのようで…。そうした状況を知って、だったら「欲しい」と願っている人がたくさんいることをきちんと示せば、メーカーも行政も動くんじゃないかと思ったのが、署名集めを始めたきっかけです。
 2014年11月に署名をスタートしたのですが、1ヵ月で約1万筆が集まった。それが、今年4月の熊本地震の後に、一気に数が増えました。緊急支援物資としてフィンランドから液体ミルクを輸入したことが報道されたことも大きかったようです。現在までに、4万筆以上集まりました。

初めはほんの「思いつき」。
たくさんの声に背中を押されて動き始めた。

――署名を始めたきっかけをもう少し詳しくお聞かせいただけますか。末永さんご自身も、2歳のお子さんがいらっしゃるんですね。

末永  長女を出産したのが2014年4月で、母乳と粉ミルクの混合で育てていたのですが、ミルク作りの負担がすごく大きかったんです。特に夜、娘の泣き声で起きてキッチンまで行っても、眠くて粉ミルクを何杯入れたのか分からなくなったり。しかも、お湯を沸かしたりしている間、娘をずっと泣かせておくことになってしまうので、かわいそうで気が焦ってつらかった。
 娘が生後半年を過ぎて落ち着いてきたころに、以前、ネットで見た「液体ミルク」のことを思い出したんです。「あれさえあれば、こんな苦労もしなくて済んだのに」と思っていろいろ調べるうちに、メーカーと行政の「にらみ合い」の状況を知りました。それで、自分1人で「つくってください」と電話するより、何人かでも署名を集めたほうが効果があるかな、とサイトを立ち上げたんです。

――これまで、こうした署名運動の経験はあったんですか。

末永  まったくありませんでした。市民運動とかボランティアに参加したこともほとんどなかったですし。ただ、インターネットで署名を集められるプラットフォームがあることは、知人から回ってきた情報で知っていました。はじめはフェイスブックでつながっている人たちに呼びかけてみよう、というくらいの軽い気持ち、ほんの思いつきでした。

――それが、数万筆を集めるような大きな活動になった。

末永  先ほどもお話ししたように、最初の1ヵ月で1万筆以上が集まったんですが、そこに添えられたメッセージがとても切実なものばかりだったんですね。
 「お出かけのたびに山のような荷物を持って歩いています」とか、「調乳にかかる時間が短縮できれば、その間、身体を休められるのに」とか。皆さん、本当に大変な思いをしながら育児をされているんだなあと思いました。「夫や祖父母に預けるときも、これがあれば気兼ねなく頼める」という方もいらっしゃいましたし、災害への備えについても不安に感じている方が多かったですね。「液体ミルクがあれば、安全をストックできる」という言葉も印象的でした。
 メッセージを読んでいるうちに「乗りかかった船だし、できるところまでやってみよう」と思うようになりました。署名を始めた当時は専業主婦で、時間もありましたし…。

――ただ、そのときは娘さんの授乳も落ち着いて、ご自身にとってはそれほど「喫緊の問題」ではなくなっていたのでは?

末永  そうですね。でも、だからこそ動ける余裕があったんです。
 待機児童の問題もそうですが、液体ミルクの問題も、なかなか広まっていかない理由はそこなんですよね。「当事者の期間」が終わってしまうとみんな関心が薄れて、問題意識が世代間を超えて共有されていかない。そこを乗り越えていくには、当事者かどうかではなく、「できる人ができるときにやる」ことが重要だろうと思っています。
 2015年の春に、メーカーである森永乳業さんと和光堂さんに集まった署名を提出したので、そこで一区切りにする選択肢もあったのですが、当然ながら「これだけ署名が集まったのなら、じゃあ作りましょう」と簡単にはならない。やっぱり消費者が引き続き声をあげていくことが重要だと感じて、活動を継続することにしました。液体ミルクに関しての情報をフェイスブックなどで発信したり、興味をもってくださる企業の方たちと勉強会を開いたりしています。
 あわせて、自治体や国にも法の整備を働きかけていきたい。そのためには、単に「署名を集めました」ではなくて、きちんと消費者団体、市民団体として交渉していく必要があると感じ、今年8月には思い切って一般社団法人を設立しました。

熊本地震を機に急増した署名を提出するため、2016年も再度粉ミルクメーカーを訪問。写真は5月に雪印ビーンスタークを訪れたときのもの。
写真提供:乳児用液体ミルクプロジェクト

――「市民運動やボランティアにも参加したことはなかった」2年前には思いもよらなかった展開ですね。

末永  まったく想像できなかったです。夫も「いったい何をやってるの?」と不思議そうな顔をしていますが(笑)、それでも「頑張ったら」と言ってくれるのでありがたいですね。周囲の友だちも海外に行ったときに液体ミルクを買ってきたりして応援してくれています。

――最後に、今後の活動について教えてください。

末永  ちょうど今、子育て世代を対象にしたウェブアンケートを実施中なんです。液体ミルクがあったら、いつどんな場面で使いたいか、粉ミルクを使っていてどんなことが大変かなど、液体ミルクに関するニーズや意見を数値化して、メーカーなどに働きかける材料にしたいと思っています。ぜひご協力ください。

→署名ページ

→乳児用液体ミルクについてのアンケートページ

末永恵理(すえなが・えり)1979年、神奈川県生まれ。外資系金融企業を退職後の2014年に長女を出産する。現在は在宅で仕事をしつつ、乳児用液体ミルクプロジェクトに奔走。2016年8月に一般社団法人乳児用液体ミルク研究会を設立し、代表理事を務める。夫と娘の3人暮し。

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