週刊通販生活トップページ  >  読み物:『そこが知りたい電力自由化』著者・高橋真樹さんインタビュー

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「人間が手を放すだけで、自然は回復する。これはチェルノブイリや福島の未来に通じる希望の種です」

消費者は、電力会社を選ぶことで
社会への意思表示ができるようになった。

――今年4月に電力小売りが全面的に自由化され、一般家庭でも電力会社を選べるようになりました。高橋さんおすすめの新電力会社(以下、新電力)はありますか。

高橋  今はまだ「ここがベストです」と自信を持って言えるところはないですね。というより僕は、ベストな選択肢は一人ひとりの生活スタイルやエネルギーに対する考え方によっても変わると思っています。
 電気をつくる(発電)、運ぶ(送電)、売る(売電)という電力システムのうち、発電と売電に関しては完全な自由化が実現しました。電力を自由競争市場で売り買いできるようになったのですから、消費者が特定の電力会社から電気を買う消費行動は「たくさんある選択肢のなかから、私はこの電力会社を選びました」という意思表示と言えます。

雪でも発電する「会津電力」の発電所と、佐藤彌右衛門社長。喜多方で江戸時代から続く造り酒屋を営む。(撮影:高橋真樹)

 とはいえ、自由化が始まってまだ半年ですから、新電力も手探りの状態。ベストな会社を選ぶのは難しいと思う人も多いでしょう。それなら、ベターを選べばよいのです。選挙だって、なかなか「この人、満点!」と思える候補者はいないじゃないですか。電力会社も、それと同じ。要は、自分なりの基準で電力会社を選べばよいのです。そして選んだら、その後も関心を持ちながら電力会社をチェックし続けてください。消費者も電力の自由競争市場の一主体となったのですから、積極的な姿勢を持ち続けることが大切です。みんなにとってベストな電力市場をつくれるかどうかは、そこにかかっているでしょう。
 いまのところ、指標として一番分かりやすい料金プランやサービスを見比べながら電力会社を選んでいる人が多い印象ですが、電力会社を切り替える基準はそれだけではありません。「自然エネルギーの電気を買える新電力はどこか」と、電源を見比べたうえで、電力会社を切り替えている消費者もたくさんいます。

――電源を見て電力会社を選ぶというのは、2011年に原発事故を経験した後、消費者に広まりつつある価値観ですね。

高橋  そうですね。ただ残念なのは、今は電力会社の電源表示が義務ではなく努力目標であること。会社によっては、電源を見られないところもあります。ここは、今後改善すべきところですね。電源構成だけでなく、ドイツのように二酸化炭素や放射性物質の排出量など、その発電所がどれくらい環境に負荷をかけているかが分かるデータも併せて公開されれば、さらに理想的です。

――高橋さんは、全国各地に増えつつある「ご当地電力」の取材も続けています。

高橋  原発事故以降、エネルギーをもっと身近なモノにすることをめざして「ご当地電力」の運営を始める人たちが増えています。事故前までは電気とまったく関係のない仕事をしていた人たちが「自分たちが使う電気は、自分たちの手でつくりたい」という思いで、太陽光発電所や風力発電所などをつくり、実際に運営しているんです。
 消費者も、電力自由化によって「ご当地電力」から電気を買えるようになったので、電力の地産地消を応援できるうえ、エネルギーをキーワードにした地域活性化に貢献することもできます。

生活クラブが秋田県にかほ市に建設した風車「夢風」と、新電力会社「生活クラブエナジー」の半澤彰浩社長。生活クラブの組合員は、生活クラブエナジーを通じて、こうした発電所でつくった電力を購入できるようになった。(撮影:高橋真樹)

 制度の自由化以上に、「もう、人や環境に犠牲を強いる電気を使いたくない」という意思を行動にする人たちが増えているのは、大きな希望です。
 電力会社を切り替えようかどうか迷っている人は、下記のサイトを参考にしてみてください。新電力に関する情報が充実していますから、楽しみながら取捨選択できますよ。

パワーシフトキャンペーンHP http://power-shift.org/

電力システム全体の自由化には
発送電分離が不可欠。

――2020年に予定されている発送電分離が実現すれば、発電、送電、売電からなる電力システムの全てが自由化されたことになります。

高橋  発送電分離は、電力の自由競争市場が健全に機能するかどうかのカギを握っています。発送電分離とはつまり、発電と送電を担う事業者を分けるということです。発電所でつくった電気を消費者のもとへ送る送配電網は、いわば電気の流通ルート。いくら発電や小売りの分野に新電力が参入しても、流通ルートが大手電力会社(東京電力など、従来、地域独占を許されてきた電力会社)の管理下にあるままでは、真の自由競争市場は成立しません。
 現状では、送配電網は大手電力会社の所有物ですから、新電力は「託送料金(=送電網使用料)」を大手電力会社に払って、送配電網を使わせてもらう立場に置かれているのです。

――9月には、新電力が東京電力に対して支払っている託送料金に、原発の廃炉費用を上乗せする可能性が報じられました。

高橋  言うまでもないことですが、新電力に福島第一原発事故の責任がないことは明白ですから、廃炉費用を負担せねばならない理由はどこにもありません。「原発の電力は安い」と言い続けてきた大手電力会社が負担すべきだと僕は思います。
 しかし実際に託送料金に廃炉費用が上乗せされたら、送配電網を使わせてもらっている立場の新電力は、言われた通りに支払わざるを得ないでしょう。送配電網を利用できなければ、電気を売れなくなりますからね。そして結局、その料金は、電気料金として消費者にはね返ってくる可能性が高い。こんな理不尽はないですよ。
 こうした面から考えても、電力自由化は制度ができただけでは不十分。消費者は、電力会社や、市場の動向に目を光らせる必要があります。
 電力システムが公正なものになるよう監視する「電子力取引監視等委員会」(通称、「電取委」。今年4月からは「電子力・ガス取引監視等委員会」に変更)という中立の組織が昨年9月に設置されています。託送料金などの決定も、電取委の役割です。まだできたばかりということもあり、どれだけ監視機能を果たせるかは未知数ですが、こちらも期待しながら見守っていきましょう。

正しい情報を分かりやすく伝え、
自然エネルギーに関する誤解を解きたい。

――電力自由化以降、多くの消費者が関心を持っているのが、今後、日本の電力供給における自然エネルギーの割合が伸びるかどうかです。

高橋  私も、そこに大きな興味を持って取材を続けています。
 日本政府は、2030年時点での自然エネルギーの割合を22~24%とするという目標を設定しました。2014年度の比率が12.2%ですから、15年かけて10%程度上昇させるという目標です。
 しかし実際には、日本の自然エネルギーの割合はもっと伸ばせます。100%は難しくても、50%くらいまでは十分実現可能なラインでしょう。

――よく、「自然エネルギーは天候に左右されるから安定供給が難しい」という主張を耳にします。

高橋  確かに、自然エネルギーによる発電量は、天候に左右されます。例えば、ある特定の地域の風力発電所だけを見れば、当然、発電量は日ごとに変動するでしょう。しかし、電力供給のためには普通、何ヵ所かの発電所を稼働させますよね。風力や太陽光、水力など、いろんな種類の自然エネルギーの発電所を広い地域で稼働させれば、天候による変動分を吸収できます。現在の気象予測システムはかなり正確ですから、発電量を計画的に調整することも十分可能です。実際、世界ではすでに、変動する再生可能エネルギーを調整しながらうまく活用するのが主流となっています。
 それでもある地域の電気が足りなくなったら、電気が余っている他の地域から融通してもらえばよいのです。これは、既存のインフラである「地域間連系線」という送配電網を活用すれば、簡単にできることです。
 そのうえで、足りない分を火力などで補充するという考え方に切り替えれば、再エネ比率は飛躍的に上昇するでしょう。
 政府や資源エネルギー庁が想定する電源構成の前提は、火力発電所や原発の電気をベースに、足りない分を自然エネルギーで補うという考え方。本来なら、自然エネルギーが増えた分、火力や原子力などを減らして全体のバランスをとるべきです。

――高橋さんは最近、電力システムについての取材に加えて、断熱住宅の取材も行なっているそうですね。

高橋  欧米では、夏は涼しく、冬は暖かく過ごせるよう、断熱性能の高い家をつくるのが当たり前です。そうすれば、エアコンなしでも快適に過ごせますから省エネになります。
 ところが日本の住宅の多くは、各部屋にエアコンを設置するのを前提として設計されています。暮しやすさをエネルギーで生み出す「創エネ」の発想ですね。これでは、いくら再生エネルギーを普及させても、無駄に使われてしまうことになります。

省エネ性能の高い鈴廣かまぼこ(神奈川県小田原市)の新社屋。従来のオフィスビルと比べて60%の省エネ化を達成している。(撮影:高橋真樹)

 家中でエアコンを稼働させて、「原発が必要かどうか」と議論しているのはおかしな話です。欧米の人たちが特別、省エネ意識が高いわけではなくて、その差は単純に、知らされるべき情報を知らされているかどうかだけだと思うんです。
 エネルギーについては知っているつもりでいても、本当にたくさんの間違った常識や誤解が蔓延しています。もちろん僕自身も、みなさんと同じようにたくさんの誤解をしていました。だからこそ、多くの人にエネルギーに関するまっとうな情報を伝えたいと思っています。専門的な難しい言葉を日常の言葉に置き換えて、分かりやすく伝えるのが僕の仕事であり、やりがいを持って続けられています。何より、脱原発社会へと舵取りしようという意志を持って行動する人たちが日本中にいます。課題は多いですが、ここに希望がある。僕はこれからも、自分の役割を果たせればと思います。

高橋真樹(たかはし・まさき)1973年、東京都生まれ。ノンフィクションライター。平和共同ジャーナリスト基金奨励賞受賞、放送大学非常勤講師。「持続可能な社会」をテーマに国内外各地を取材して、雑誌やWEBなどに発表している。著書に『ご当地電力はじめました!』(岩波ジュニア新書)、『そこが知りたい電力自由化』(大月書店)などがある。

「高橋真樹の全国ご当地エネルギーリポート!」

高橋さんが、全国各地のエネルギーシフトの取り組みを紹介するブログ(主催は「エネ経会議」)。
http://ameblo.jp/enekeireport

『そこが知りたい電力自由化 自然エネルギーを選べるの?』
大月書店、高橋真樹著、定価1600円+税

電力自由化について、再生可能エネルギー普及が進む欧米の取り組みや、全国各地の「ご当地電力」などを紹介しながら、電力自由化について分かりやすく説明する。

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