週刊通販生活トップページ  >  読み物:エイブルアート・カンパニー東京事務局・柴崎由美子さん、中塚翔子さんインタビュー

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「障害のある人たちを理解し、隣人としてつきあうための第一歩として、アート作品ってすごくいいものだと思うんです」

――「エイブルアート・カンパニー」は、どのような活動をしているのでしょうか。

柴崎 障害のある人たちの絵画やイラスト、書などのアート作品を社会に発信して、仕事につなげる活動をしています。具体的には、以下の4つです。
 1つ目は、カンパニーアーティスト(登録作家)の作品を公開して、著作物使用の窓口となること。作品をウェブサイトで公開して、作家の著作権を守りながら、作品を使いたい企業や団体などがスムーズに使用できるようにしています。
 2つ目は、各種プロモーション活動。登録作家の作品を広告や商品デザインに使用してもらうための営業・商談活動や、見本市でのイベントなどを行なっています。エイブルアート・カンパニーのオリジナル商品も開発・販売しています。
 3つ目は、登録作家のマネジメントです。作家の公募と選考を行なってエイブルアート・カンパニーの登録作家とし、使用実績に応じて著作権使用料を支払います。
 4つ目が、講演活動や研究会・フォーラムなどの開催です。

中塚 2016年10月末現在で、登録作家は104人、登録作品は10,321点です。2007年にエイブルアート・カンパニーを設立した時には、登録作家は8人でしたから、10年で13倍に増えました。

柴崎 実は、エイブルアート・カンパニーは“カンパニー”と名付けていますが、会社ではなく、3つの事業体による共同プロジェクトです。本部の関西事務局は奈良にある「一般財団法人たんぽぽの家」、東京事務局と東北事務局が私たち「NPO法人エイブル・アート・ジャパン」、福岡事務局が「NPO法人まる」で、経理とデータ管理は主に本部が、営業は主に東京が、ご当地性を生かした活動を福岡と東北が、といったように役割分担して、協働しながら同じ目標に向かって動いています。

――そもそもなぜ、このような活動を始めたのでしょうか。

©エイブルアート・カンパニー

柴崎 私たちが活動を始めた1990年代には、まだ障害のある人たちの芸術が社会にあまり出ていませんでした。けれども現場にいる人たちは、芸術の持つ力や、障害のある人たちの作品の魅力に気づいていて、個別に芸術活動に取り組んだり、作品を社会に出そうとしたりしていました。
 そうした活動の情報を集め、ネットワークを作り、作家や支援者の情報を発信していこうと始まったのが「エイブル・アート・ムーブメント(可能性の芸術運動)」で、この活動を進めるために生まれたのがエイブル・アート・ジャパンなんです。
 90年代半ばから00年代半ばぐらいまでは、障害のある人たちの芸術を見つけて社会に発信していくことが活動の中心でした。美術館等での作品展示や、アートサポーター育成のためのワークショップ、フォーラムなどをたくさん実施してきました。
 ところが、06年に「障害者雇用促進法」改正と「障害者自立支援法」の施行(注)があって、障害者を巡る環境が変わりました。企業就労や工賃アップを推進するという国の方針を受けて、多くの障害者団体が仕事にシフトしていったのです。その結果、大事にしていた芸術文化活動の時間や機会がすごく減ってしまった。法制度が、みんなの日常の現場を大変なものにしてしまったわけです。

(注)「障害者雇用促進法」改正:働く障害者、働くことを希望する障害者を支援するため、就業機会拡大を目的とした各種施策を推進するための法改正。精神障害者に対する雇用対策の強化、在宅就業障害者に対する支援、障害者福祉施策との有機的な連携を含む。
「障害者自立支援法」:障害種別ごとに異なる法律に基づいて提供されてきた福祉サービス、公費負担医療等について、共通の制度の下で一元的に提供する仕組みを創設するための法律。障害者の地域生活と就労を進め、自立を支援する観点から制定するとされたが、以前は無料だったサービスが1割負担になるなど、問題点を指摘する声も多い。2013年から名称が「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法)」に変わり、障害者の範囲に難病等を加えるなどの変更があった。

柴崎 芸術文化は心の栄養であり、障害のある人たちの生きがいでもありますから、芸術文化活動の時間や機会を守らなければいけない、権利を維持する必要があるという問題意識が私たちにありました。ただ、当時は障害のある人たちの就労や工賃アップが注目されていた時代ですから、アートを生きがいとか自己実現だけでなく、もう1つ別のステージに載せられないかと考えていて、「アートを仕事につなげる」というキーワードが出てきました。それで、「エイブルアート・カンパニー」という、あたかも会社のような組織をブランディングしたのです。

――同じような活動をしている組織は、全国にどれくらいあるのでしょうか。

中塚 作家を公募したり、応募作品を選考し、ストックして貸し出す、といった仕組みまでできているところは、全国で3〜4団体ではないでしょうか。小規模に、個別の施設が作品を地域の銀行の広報誌の表紙に使ってもらうなどの取り組みをしているところはたくさんあります。また、障害のある人の作品を使って商品作りをするアパレル企業なども増えていますね。

自分の作品が商品になることが、
作家自身に刺激を与える。

――登録作家には、どのような人がいるのでしょうか。

中塚 年齢は、現在20代から60代後半までいます。「障害者アート」とか「アール・ブリュット」(注)というと、知的障害や精神障害のある人の作品をさすことが多いのですが、私たちは敢えてその概念とイコールにせず、多様な人たちの作品を扱っています。そのため、登録作家には身体障害のある人もいますし、先天的に障害のある人もいれば、事故などで後天的に障害を負った人もいます。視覚に障害のある人もいますよ。その作家は弱視なのですが、繊細な、光がすごく美しい木版画を制作しています。私たちには見えない光を見ていて、その世界を表現しているのです。

(注)アール・ブリュット:「生(き)の芸術」という意味のフランス語(画家ジャン・デュビュッフェの造語)で、正規の芸術教育を受けていない人による、技巧や流行にとらわれない自由で無垢な作品をさす。狭義には、知的障害や精神障害のある人の作品をさす。アウトサイダー・アートとも言う。

柴崎 食事、トイレ、着替えなど生活全般に介助が必要だけれど、絵筆だけは握れるという人も何人かいます。デビューしたときには絵を描くことができたけれど、今はもうほとんど描けないという人もいます。でも、作品はそのままウェブサイトに掲示していて、その作品が商用に使われたり、作品展のオファーが来たりすることもあるんです。
 また、人と接するのが好きで、その場で素早く描くことができる人たちもいます。そういう作家には、ワークショップなどのイベントで、来訪者たちと触れ合いながらイラストを描くといった仕事もあります。

中塚 その人なりの、いろんな能力を伸ばしていけるといいですよね。地域でみると、沖縄の人はまだいないのですが、それ以外はほぼ全国をカバーしています。北海道からは最近1人デビューして、早速作品が靴下に使われました。

――営業活動はしているのですか。

©エイブルアート・カンパニー

中塚 おつきあいがある企業に別の企業を紹介してもらったり、商談会でプレゼンテーションしたり、見本市やイベントに出店したりといった活動が今は中心です。これからは、企業への個別アタックをもっと増やしていきたいと思っています。
 作品の用途をこちらから提案することもありますし、企業側から「この作品をこの商品に使いたい」というケースや、「この商品に使いたいから、ふさわしい作家を紹介してほしい」というケースもあります。描き下しの注文にも応じています。
 これまでに、カタログや広報誌、社内報の表紙、傘やスマートフォンケース、メダル、ハンカチなどの小物、ワンピース、Tシャツ、靴下、アンダーウェアなどのアパレル、さらに家具やロゴマークなどさまざまなシーンに使われています。

柴崎 最近、うれしかったのは、「こうなったらいいな」と2年間ぐらい願い続けていたことが実現したことです。なんと、登録作家の作品がトヨタ自動車の車のラッピングに使われた! トヨタ自動車はパラリンピックのスポンサーをしているので、作家の作品がパラリンピック選手を応援するキャンペーンカーみたいになったらいいなと思って、図面を引いて「こんなのできたらいいな。誰かを応援するために作品が使われたらいいな」と願っていたんです。そうしたら、本当にその機会が生まれてすごくうれしかった。作家たちにも、単にお金のためではなく、誰かの何かのためになったらうれしいという思いで描いている人がとても多いんです。

©トヨタ自動車株式会社 お台場の「MEGA WEB」にて展示中

――作家自身は、自分の作品が商品化されることをどう捉えているのでしょうか。

中塚 喜んでいますね。お金がもらえるからというよりは、大勢の人に見てもらえる機会が増えることや、作家として認められることが何よりうれしいみたいです。企業の担当者やデザイナーなどに認められて初めて商品になるわけですから、刺激にもなりますし、モチベーションもアップして「これからも制作頑張ろうと思いました」なんて電話がかかってきたりします。

柴崎 この前、作家本人とお母さんと中塚さんが3人並んで、向かい側に商社の男性が2人座って商談をしているのを「いい感じだなあ」と思って見ていました。私たちは、こうした商談の場に本人も参加して、作品を使う側の人たちと対面してもらったりもしているんです。

中塚 すごくいい機会ですよね。あのときは描き下しのテーマを相談してもらっていました。春に販売する商品なので、春のイメージを膨らませてほしいという要望があったんです。作家が、前に描いた作品をサンプルとして見せながら「この作品はこういうときに描いた」と話すと、「おお、なるほど!」みたいなリアクションがあって(笑)。

柴崎 これまでは障害のある人を前に出さず、敢えて作品主義でやってきたんですが、活動をはじめて10年経つ間に時代感覚が変わって来たように思います。今は企業でも障害のある人の雇用が増えていますから、身近に感じるということもあるのでしょう、作家に直接会いたいという担当者が増えています。作家とも交流しながら商品を作りたいと希望される。
 それで私たちも、そろそろ作家自身を含めた魅力というか、作家の人間性を出してプロモーションしていくことも必要ではないかと議論しているところです。

©オールドファッション株式会社

©オールドファッション株式会社

「すみだ北斎美術館」開館記念事業
「みんな北斎」に、想定の倍の応募が。

――11月22日にオープンした「すみだ北斎美術館」の開館記念プロジェクト、全国障害者アート公募展「みんな北斎」の企画運営をされました。

柴崎 8月10日から9月10日までの1ヵ月が応募期間で、9月に1次審査、10月に2次審査が行なわれ、101点の入選作品と大賞を含む16点の受賞作品が決まりました。展示は12月9日(金)〜11日(日)まで、東京スカイツリータウン5階の「スペース634」に101点が一堂に会します。ぜひ見にいらしてください!

中塚 驚いたのは、私たちは応募作品数の目標を700点に設定していたのですが、なんとそれをはるかに超えて、倍以上の応募があったことです。応募作品数1,514点、応募者数974人という大きな反響があって、事務作業も想定の倍以上(笑)、うれしい悲鳴でした。

柴崎 エイブルアート・カンパニーの登録作家にも応募を呼びかけましたが、今回の大きな目標の1つは、地元の墨田区で芸術文化活動への機運を盛り上げようというものでした。墨田区は昔から物作りの町ということもあって、障害のある人の作業所も下請け仕事が忙しく、芸術文化活動の時間が少ないと言われていたのです。
 そこで、6月、7月は作業所や支援学校などを巡回してワークショップを開き、応募を目指してみんなで絵を描いてみようとか、芸術に親しむ時間を大切にしよう、といった機運の醸成を図ってきました。

中塚 その甲斐があって、墨田区からも70点ほど応募がありました。101点の入選作の内、20点弱が墨田区の人です。いい意味で、全国のすごく“尖った”作品と、墨田区の“これから”を感じるチャレンジングな作品がいっしょに見られて、展示会はとても楽しいと思います。

柴崎 2次選考の際には一般公開の時間を設けて、見に来た人たちに投票してもらい市民が選ぶ「すみゆめ賞」を10点決める試みもしました。応募者たちの親戚・友人・知人が知り合いを誘って来てくれたりして、当然と言えば当然ですが、墨田区の人の作品が10点中6点を占めました。
 区役所の担当者は、「墨田区がこんなに取っちゃって、いいんですか?」と戸惑っていましたが、「いいんです」と申し上げました。「これが大きな熱気となって、墨田区からアーティストとして活躍し、賞を取る人が出てくるムーブメントが生まれるはずですから」と。

©エイブルアート・カンパニー

他者を知るための手がかりとして、 作品はすごくいいものだと思う。

――登録作家のなかで、作家として食べていける人はいるのでしょうか。

柴崎 作品だけで食べていける人はいないですね。作家として生計を立てるというよりは、画材を買ったり、個展を開いたりするときの費用に充てる、といったところでしょうか。「アートを仕事に」と言っているのですが、正直なところ彼らの人生を支えるまでの収入には至っていません。

――絵や書、イラストだけで食べていくのは、障害の有る無しに関わらず難しいことですから。

中塚 本当にそうです。ただ、コンペ形式でプロジェクトをすると、たくさん作品を描いて応募してくれたりするんです。そんなときは、「楽しんで仕事しているんだな」とわかってうれしいですね。

柴崎 作家の作品が使われて、その作家や周囲が変わるときは、私もうれしいですね。自分の子の絵にまったく注意を払っていなかったお父さんやお母さんが、商品になったとたん作品のファンになっているとか(笑)。作品やそれを使った商品を通じて、作家のファンになるお客様が出てくるとか。そんなときが、自分たちの活動のエネルギーになっていますね。

中塚 「よく描けているものは取ってありますけど、ほかはどこかにいっちゃいました」とか、「そういえば、なんか絵を描いていますね」とか言うお母さん、けっこう大勢います(笑)。毎日描いているから、価値あるものだと思っていないんです。施設の人が応募してくれて、作品が回り出して初めて価値を知ったという。

――障害のある人にとって、表現をすることは、自己実現という意味が大きいのでしょうか。

柴崎 自己実現と、自分の理解というか。私たちもそうですが、絵を描くとか文章を書く、写真を撮ることは、自分が何を見ているかとか、何を美しいと思っているかという、自分自身の発見にもなりますよね。自己の確認も含めて、表現することの意味はすごく大きいと思います。
 そして、他者が描いた作品を見ることは、その人を理解することにつながるのではないでしょうか。絵や文章を通して、描き手の人と成りがわかることがあるように、作品を通して障害のある人たちが持っている可能性や魅力に気づく。障害のある人たちを理解し、隣人としてつきあうときの最初の一歩として、作品ってとてもいいものだと思うんです。

柴崎由美子(しばさき・ゆみこ/写真右)宮城県生まれ。NPO法人エイブル・アート・ジャパン代表理事・事務局長。芸術大学在学中に障害のある人の作品に出会い、制作の現場に関わりたいとの思いから、卒業後「たんぽぽの家」に参加。東日本大震災後、故郷東北の障害のある人たちに向き合いたいと考え、東京事務局に異動。関東・東北の作家の掘り起こしなどに関わる。

中塚翔子(なかつか・しょうこ/写真左)千葉県生まれ。NPO法人エイブル・アート・ジャパン職員。大学在学中に、エイブルアート・カンパニー登録作家の作品を使った商品と出合い、いつかここに関わりたいと決意。大学ではデザインを学び、卒業後アパレル企業に就職。2016年7月に転職して当事務局に。営業担当として作家と企業の橋渡しなどに従事。

▼「エイブルアート・カンパニー」公式ホームページ
http://www.ableartcom.jp/top.php

▼「エイブルアート・カンパニー」facebookページ
https://www.facebook.com/ableartcompany

▼「NPO法人エイブル・アート・ジャパン」公式ホームページ
http://www.ableart.org

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