週刊通販生活トップページ  >  読み物:日本国際ボランティアセンター(JVC)スーダン現地代表・今井高樹さんインタビュー

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「駆け付け警護の問題だけではなく、南スーダンの現状にも目を向けてほしい。日本にできることはたくさんあります」

今の南スーダンは、
まるで「日本の戦国時代」。

――まず、現在の南スーダンの状況について教えてください。

今井 たとえるなら「日本の戦国時代」でしょうか。
 南スーダンは、スーダンの長い内戦の後、2011年に北部スーダンと分かれて独立したのですが、その内戦中からあちこちで「軍閥」──いわば戦国武将のようなグループが生まれてきました。北部の政府が南部勢力の弱体化を狙って分裂工作をしたこともあり、それぞれの軍閥が政治性を帯びながら成長することになります。
 独立時には、軍閥が一応まとまって南スーダン政府を設立したのですが、石油収入の利権などをめぐって再び対立が深まり、2013年に大きく2つのグループに分かれて戦闘がはじまります。それが日本でも報じられている「キール大統領派」、つまり政府軍と、反政府の「マシャール副大統領派」ですね。といっても「反政府」も一枚岩ではなく、どちらとも距離を取っているグループもあります。

――そこから今に至るまで、ずっと内戦が続いているのですか。

今井 2015年には一度停戦合意が結ばれ、暫定統一政府が設立されたのですが、争いは収まらず、2016年7月にはジュバで大規模な戦闘が起こりました。その後、ジュバの情勢はある程度落ち着いてはいるものの、マシャール副大統領が南部に逃亡したため、戦火は南部へと移動しながら広がっている状況です。
 同時に、民族意識も非常に高まっています。そもそも、キール大統領とマシャール副大統領はそれぞれディンカとヌエルという多数派民族グループの出身なのですが、この2つの民族だけでなく、ディンカを中心とする政府軍に村を破壊された別の民族の人たちが、報復のために武装集団を組織したケースもありますし、ある地域では地元の人たちがバスを襲撃し、ディンカの乗客を引きずり出して殺すという事件も起こりました。こうした事件にまたディンカの人々が憎しみを募らせ、他民族を弾圧したりと、どんどん民族ごとの分裂が進んで敵対意識が強まっている。国連の代表団が「このままではルワンダのような民族浄化の危険性がある」と声明を出していますが、そのとおりだと思います。

――今井さんは、南スーダンの独立前にもジュバに住んで支援活動をされていたそうですが、ジュバでの戦闘があった後の16年9月に緊急支援のために再訪されたときには、どのように感じられましたか。

今井 本当に、まったく変わってしまったという印象でしたね。銃撃戦のあった大統領官邸の壁はいまだ一面弾痕だらけでしたし、独立戦争後の復興支援事業で設置された信号や街灯の中にも破壊され、略奪されているものがありました。せっかく復興してきていたものが破壊されてしまった、しかも多くは政府軍によって破壊されたことに、市民はむなしい気持ちでいるというか、なかなか希望がもてない状態のようでした。
 政府軍に略奪され、無人化した市場にも行ったのですが、商店に鍵がかかっていると、自動車で突っ込んだりロケット砲を撃ち込んだりして破壊し、商品を盗んでいくというひどいことも行なわれていたようです。政府軍自体が略奪を奨励しているような状態でした。

――略奪を黙認、ではなくて奨励ですか。

今井 給料が払えないから略奪していい、「ご褒美」としてレイプもやっていい……もちろん、そうした指示が公式文書として残っているわけではありませんが、軍の行事などでは堂々と発言されていたようです。
 さらに、武器が広く流通しているうえに、物価は前年の7〜8倍というめちゃくちゃなインフレ状態もあって、軍人以外でも強盗などの犯罪に走る人もいます。警察も、交通違反だといって車を止めては、それを口実にお金を巻き上げ、拒否されると武器をちらつかせて脅したりと、モラルが完全に崩壊している状況でした。私が住んでいたころのジュバは、宿舎の門には鍵がかかっていないというくらい安全な町だったのですが。

「民族対立が戦争の原因」ではない。

――そんな中、2016年9月からの緊急支援では、ジュバに住む避難民への食料支援をされたのですね。

今井 南スーダンでは今、人口の3割近くにあたる270〜280万人が住む家を追われて避難生活をしています。国境を越えてウガンダなど周辺国に逃げた人たち(難民)が100万人以上、残りがいわゆる国内避難民です。ウガンダの難民キャンプなどは逃げてくる人が多すぎてまったく支援が追いついておらず、住み慣れた村のほうがまだましだ、と南スーダンに戻ってきた人もいます。戻れば焼き討ちや戦闘に遭う可能性もあるわけで、究極の選択なのですが……。
 ジュバ郊外には国連の設置した避難民居住区があって4万人ほどが暮しているのですが、それ以外にも200〜300世帯規模の避難民キャンプがいくつかあり、私たちが支援を行なったのもそうした場所です。トウモロコシ粉や食用油、豆などの食料を配布しました。

避難民キャンプでは食料が足りず、野草を摘んで食べる姿も見られた(文中の写真はすべてJVC提供)。

――食べるものも足りていない状態なのですか。

今井 市内の市場には食べ物がないわけではないのですが、高くて買える人は限られます。また、国連倉庫も政府軍の略奪を受けたうえ、主要幹線道路でも襲撃事件が多発していて輸送が難しい状況のため、国連の支援物資もなかなか届かないんです。野草を摘んで食べたり、物乞いをしたりしてしのいでいる人がたくさんいました。
 その後、11月には、やはり避難民が大勢押し寄せてきているジュバ東部の村への医薬品支援と、ジュバ郊外の、2016年に政府軍による焼き討ちに遭った村で食料支援を行ないました。

――JVCでは他にもさまざまな国で支援活動をされていると思うのですが、南スーダンでの活動で特に困難だった点はありましたか。

今井 いろいろありますが、最大の困難はやはり治安。それも、単に「治安が悪い」というのでなく、人道支援活動に対する妨害や嫌がらせがかなりあるのです。現政府が「国連やNGOは反政府勢力の味方だ」と主張していて、NGOスタッフが乗った車が検問所で止められて通れなかったという話も聞きましたし、一時は国連職員の入国さえ制限されていました。
 もちろん、他の国にも「活動を歓迎しない」政府はありますし、活動を規制されることはあります。ただ、そのなかでも今の南スーダンは特殊ですね。2016年7月のジュバでの戦闘の際には、援助関係者が泊まっているホテルで襲撃・集団レイプ事件があったのですが、さすがにこんなことは、他ではなかなか起こらないと思います。

――そこまで支援活動が敵視されているのは、なぜなのでしょう?

今井 1つは、和平交渉の過程で「欧米諸国はマシャール派を支援している」という情報が流れ、政府軍の間に欧米諸国や国連に対する反感が広がったこと。もう1つは、ジュバの避難民保護施設にはマシャール派の中心民族集団であるヌエルの人々が多く暮しており、そこを国連が警備していたために、「国連は反政府勢力をかくまっている」として反発を呼んだということもあると思います。
 私自身は幸い直接的な妨害には遭っていませんし、アジア人ということで、欧米人とはちょっと違う目で見られているようにも思います。ただ「支援関係者」とひとくくりにされることはありますし、今後、国連PKOに参加している自衛隊が戦闘に巻き込まれて、現地の人を傷つけてしまうようなことがあれば、今度は「日本」全体が敵視される可能性もありますね。今の南スーダンでは、「民族」「国」という意識が非常に強くなっていますから。

――それは、先にも触れられていたように、民族間対立が長く続いてきたからでしょうか。

今井 いつの時代も民族間の争いはありましたが、今のような激しい敵対関係があったわけではないと思います。現地の友人も「民族が違っても1000年以上共存してきたのに、戦争のなかで対立が煽られて今のようになってしまったんだ」と嘆いていました。「民族対立が戦争の原因ではなくて、戦争の結果が民族対立なんだ」と。この言葉のとおりだと思います。

キャンプで暮す避難民の人々と今井さん。

「駆け付け警護」よりも、
和平への後押しを。

――PKOに参加した自衛隊がもし現地の人を傷つけたら……というお話が出ましたが、いわゆる「駆け付け警護」をめぐる議論の際、日本政府が「警護」の対象として挙げたなかには「NGOなど人道支援関係者」も含まれていました。実際に現地で活動されている立場から、これをどう見られていましたか。

今井 困ったことをしてくれるな、というのが正直な思いでした。現地の状況からすると、「駆け付け警護」という任務自体が非常に困難で、非現実的だと思うからです。

――というと?

今井 南スーダンの場合、襲撃事件などが起こって駆け付けたとき、闘う相手は政府軍になる可能性が高い。つまり、完全に政府と敵対関係に立ってしまうわけですから、どこの国の部隊も避けたがります。先ほどお話しした援助関係者のホテル襲撃事件の際も、即座に国連や各国大使館に連絡が行ったものの、結局PKO部隊の救援はありませんでした。
 また、国連のレポートなどを読んでいても、戦闘があったことは把握していても、それがどことどこの武装グループによるものなのかは分からないというケースも多い。戦闘の主体が誰で、規模や装備の様子も分からないのに、部隊を派遣するのは非常に困難ではないでしょうか。
 もちろん、誘拐・拘束などで相手がすぐに分かる場合もありますが、そのとき必要なのは軍事行動ではなくて交渉でしょう。仮に私が武装グループに拘束されたとして、そこに自衛隊が来たとしたら、「自衛隊を呼んだのはおまえか」と逆に危険にさらされてしまう。さらに交戦状態にでもなれば、私の身が危険になるだけではなくて、「日本は自分たちに敵対してきた」と、先ほどお話ししたように「日本」自体がターゲットになってしまう可能性もあります。軍隊が救出に行って人質が助かるなんていうのはハリウッド映画の世界だけで、現実はそう簡単にはいきません。

――駆け付け警護によって、逆に危険が高まる可能性もあるわけですね。

今井 さらに、「邦人保護のため」と言いますが、自衛隊もPKO部隊の一部である以上、当たり前ですが司令部の指示に従わなくてはならず、日本人がどこかで危険な目に遭っているからといって、勝手に警護や救出に向かうわけにはいきません。各国の部隊が勝手に自国民の保護に向かったら、PKO自体が崩壊してしまいます。

――現地で支援する立場から言えば、必要なのは「駆け付け警護」ではない、と。逆に、日本政府に果たしてほしい役割はありますか。

今井 やはり、ぜひ南スーダンの和平に向けて政府や各武装グループに働きかけをしてほしいですね。日本は現地で非常に信頼されていて印象もいいですし、ウガンダやスーダン共和国など周辺国との関係もいい。それを利用して、周辺国が今、南スーダン和平に尽力しようとしているのを後押ししてほしいと思います。
 たしかに日本政府も特使を派遣したりはしていますが、あくまで「キール政権を支持する」という立場です。国連で南スーダン政府に対する制裁決議があったときも、「政権の和平への努力を阻害する」という理由で棄権しました。しかし、キール政権は今、自分たちに敵対する勢力をすべて排除して和平を進めようとしているわけで、それでは本当の和平にはなりません。政府軍も、反政府グループも一堂に集めて話し合う場を日本が主導してつくっていくべきだと思います。

食料の配布場所で。

――私たち、日本の市民一人ひとりについてはどうでしょう?

今井 とにかく、現地で起きていることを知ってほしいです。日本での南スーダン内戦の報道は「戦闘なのか、衝突なのか」といった駆け付け警護に関することがほとんどでしたが、そもそも現地で何が起きていて、人々がどんなふうに困っているのかについても知ってもらいたい。そしてぜひ、JVCなどの人道支援活動に募金などの形で協力していただきたいですね。みなさんに関心をもっていただくための情報を発信していくのも、私たちの役割だと思っています。

今井高樹(いまい・たかき) 1962年、東京都出身。大学卒業後、会社員生活のかたわらJVCの活動にボランティアとして関わる。2004年に退職後、アメリカの公立小学校でのインターンを経て、07年からJVC職員となり、スーダン現地代表を務める。スーダン南部自治領(現南スーダン共和国)のジュバに3年にわたり駐在。10年よりスーダン(北部)の南コルドファン州に移動、11年6月の紛争勃発後はスーダン共和国の首都ハルツームに駐在する。16年より南スーダンでの緊急支援活動を担当。

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