週刊通販生活トップページ   >  読み物:元法務大臣・平岡秀夫さんインタビュー

カタログハウスの公式通販サイト

「安倍総理はテロ対策のために共謀罪が必要だと言いますが、まったくのデタラメです」

――安倍内閣は「共謀罪法案」を3月21に閣議決定し、国会に提出。4月6日からは衆議院で審議が始まりました。

平岡 「共謀罪法案」は、2003年3月に小泉内閣が初めて国会に提出しました。そのとき法案は審議されることなく、同年10月の衆議院解散によって廃案になりました。全く同じ法案がやはり小泉内閣時代の05年7月に国会に提出されましたが、このときも同年8月の衆議院解散によって廃案となりました。この選挙のあとの9月に開かれた特別国会でも小泉内閣は3度目の法案提出を行なったのですが、その後、継続審議を繰り返し、結局09年7月の衆議院解散によって3度目の廃案となりました。いずれも、当時の野党の強い反対によって廃案になったにもかかわらず、安倍内閣は今国会に4度目の「共謀罪法案」を提出したわけです。
 正確に言いますと、今回政府が提出した法案の名前は「組織犯罪処罰法改正案」で、その改正案の中に「共謀罪」を創設するための条文を紛れ込ませているのです。その条文には「共謀」という文言は使わず、これまでの「共謀罪」という正式な罪名に代えて、国民の目を欺くために「テロ等準備罪」という呼称を使っています。しかし、この「テロ等準備罪」の内容は、実質的には過去に廃案となった「共謀罪」とほとんど同じ。ですから、ここでは「共謀罪法案」の名前でお話を進めたいと思います。

※共謀罪法案全文(法務省ホームページ)

――法案の提出後、テレビや新聞などで「共謀罪」に関する報道が増えましたが、まだまだ一般の人にとってはなじみが薄いと思います。そもそも「共謀罪」とはどんな罪なのですか。

平岡 簡単に言えば、「共謀罪」とは、犯罪を実行する以前の「計画」段階でも処罰の対象とするものです。複数の人がある犯罪を「やろう」と計画しただけで、実際に犯罪が「実行」されなくても、「計画」したこと自体が罰せられるのです。
 こんなことが認められてしまうと、これまでの日本の刑事法体系が根本から覆ることになります。実際に何らかの被害をもたらす犯罪を実行したときに初めて処罰を受けるのが、日本の刑事法の基本原則。例えば、物を盗もうと思っても、実際に盗まなければ処罰されないのは当たり前のことですよね。
 ところが、共謀罪法案が成立すると、物を盗むことを複数の人間が話し合い、実際には盗まなかったとしても、「窃盗を計画したこと」が罪に問われてしまうのです。

――現行刑法でも殺人や強盗などは、「未遂罪」など、実際に人を殺したり、モノが盗まれていなくても罰せられることがありますよね。

平岡 確かにそのとおりです。でも、それはあくまでも殺人や強盗などの重大犯罪にだけ認められた例外的なケースなんです。そうした重大犯罪だけに適用されてきた「例外」の範囲が、共謀罪が創設されれば拡大されてしまうのです。
 政府は「『計画』の範囲があいまいだ」との批判を受けて、「計画だけではなく、犯罪を実行に移すための『準備行為』がなければ逮捕されない」と変更しました。しかし、何をもって「準備行為」とするのかは、いまだ明確ではありません。「メールを送る」「お金を下ろす」などの日常的な行為をしただけで「準備行為があった」と認定される可能性もあります。
 さらに問題はあります。計画の時点では犯罪が実行されておらず、被害も起きていないのですから、「合意があった」ことを物証で示すのは非常に難しいですよね。そうなると、逮捕後の取り調べで、計画したことを認めさせる「自白偏重」の捜査になり、冤罪(えんざい)を生む可能性が高まります。
 また、証拠集めのために盗聴の対象が広げられ、個人のプライバシーが侵害されるおそれも当然出てくるでしょう。
 現状では何らかの被害があって初めて警察による捜査が始まりますが、共謀罪が創設されれば、特に何も被害が出ていなくても「計画した疑いがある」として捜査に着手できます。政府に対して批判的な言論人や市民運動のリーダーなど権力側にとって目障りな人がいれば、簡単に捜査対象にできるということです。
 法案の条文には「自首すれば刑を減免する」という規定もあります。事実上密告を奨励するようなものですから、市民が互いに監視し合う、息苦しい社会になりかねません。

政府は「一般の人は対象ではない」と
言うけれど……。

――政府案では、共謀罪の対象となる犯罪として「277の罪」を明記しました。

※「共謀罪」の対象になる277の犯罪

平岡 277の中には「通貨・公文書の偽造」「人身売買」「覚醒剤の輸入等」「化学兵器の使用」など、いかにも組織的犯罪に関係しそうなものもあります。しかし、その一方で「道路交通法違反」「労働者派遣法違反」「脱税」「背任」「組織的威力業務妨害」など一般市民が対象となる可能性がある犯罪も含まれています。
 今までこれらの犯罪は、実際に犯行に及ばなければ罪には問われなかったのに、共謀罪法案が成立すれば、犯行を計画しただけで罪に問われてしまうのです。

――安倍総理は4月6日の衆院本会議で「一般の人が処罰の対象にならないことをより明確にし、不安や懸念を払拭できた」と言いました。法案でも共謀罪の対象は「組織的犯罪集団」としています。

平岡 そのことをもって「一般の人は対象にはならない」と政府は言います。しかし、ある団体が組織的犯罪集団であるかどうかを判断するのは、警察や検察などの捜査機関なのです。非常に恣意的な判断が可能になります。
 安倍総理も、2月17日の衆院予算委員会で「普通の団体でも性質が変わった場合は組織的犯罪集団と認めるのは当然だ」と述べています。会社組織、労働組合、市民団体あるいは友人同士の集まりなど、どんなグループでも、何か犯罪を計画したと疑われると、「結成当時と性質が変わって、今は組織的犯罪集団だ」と判断されてしまう可能性があるわけです。
 もし、「組織的犯罪集団」とそうでない団体は明確に区別できる、だから一般市民は関係ないと言うのなら、暴力団対策法における「指定暴力団」のように、最初から「この団体が組織的犯罪集団だ」として、その判断の根拠を明示して具体的に列挙しておけばいいのではないでしょうか。それができないのは、やはりあらゆる団体が「組織的犯罪集団」とされる可能性があるからだと考えざるを得ません。
 政府は「共謀罪法案」を「テロ対策の法律だ」と言っておきながら、法案には当初「テロ」という文言がありませんでした。そのことを批判されて、慌てて処罰対象として「テロリズム集団その他の(組織的犯罪集団)」と書き加えたのですが、この「その他の」という文言は、その前の「テロリズム集団」があくまでも例示でしかないことを示す文言であって、その基となる「組織的犯罪集団」という処罰対象は、定義の曖昧さ(定義=「共同の目的が一定の『重大な犯罪』を実行することにある団体」)もあって非常に広いものになることは十分に考えられます。

――特定秘密保護法や安保法制が国会で議論された際には、国会周辺で大規模デモが行われるなど多くの反対の声があがりました。それに比べると共謀罪法案に対する一般市民の反応はやや鈍いように感じます。

平岡 残念ながら、政府の言う「テロ対策のための法案」ということを信用している人が多いのでしょう。また、「自分はデモにも座り込みにも参加しないし、ましてや犯罪なんか計画しない。だから共謀罪は関係ない」と他人事として考えている方も多いのかもしれません。でも、あの稀代の悪法と言われた「治安維持法」のことを思い起こしてほしいのです。
 1925年に制定され、市民を弾圧した悪名高い「治安維持法」も、制定の際に政府は「対象は国体変革(天皇制反対)と私有財産の否認(共産主義)を唱える結社であり、一般人は関係ない」と言いました。それが、法律の解釈を変えること等で対象が徐々に拡大されました。宗教団体、学界、雑誌編集者、一般市民、そして企画院のような政府機関にまで対象は拡大し、最終的には「対象にならない人は誰もいない」という状況になったのです。こうした歴史の教訓を、私たちは忘れてはいけません。
 法律は一度できてしまえば、解釈や運用によって、その対象はいくらでも拡大します。ですから、共謀罪のように権力側が恣意的に解釈できる余地のある法律を制定させてはいけないのです。
 政府が共謀罪を「一般市民には関係ない法律」と強調していること自体が、「社会的問題に首を突っ込まなければ大丈夫」という政府からのメッセージだとも言えるのではないでしょうか。

共謀罪がなくても今の法律でテロ対策は十分にできる。

――安倍総理は「共謀罪法案」が成立しないと「国際組織犯罪防止条約」が締結できないと言います。そして、この条約を「テロの防止」と結びつけ、国際的な協力のもとテロを防ぐために共謀罪法が必要であると主張しています。

平岡 その主張は真っ赤なウソと言っても過言ではありません。この条約をすでに締結している187ヵ国の中で、締結に際して国内で共謀罪を新設したのは、ノルウェーとブルガリアの2ヵ国だけです。もちろん、条約締結以前から共謀罪がある国も英米法系の国にはありますが、日本で創設されようとしているような、犯罪行為を計画しただけで処罰されるような共謀罪を新たに制定した国はほとんどありません。
 逆に、日本の刑法にはすでに「教唆罪」「準備罪」など、共謀罪以外の形で組織的犯罪に対応できる仕組みが多数あります。条約に沿って国際的な協力をすることは現行法でも十分可能で、共謀罪を創設しなければ条約を締結できないなどということはありません。
 そもそも「国際組織犯罪防止条約」は、マフィアによるマネーロンダリング(資金洗浄)や密輸など経済的な組織的犯罪を想定したもので、いわゆる「テロ」行為は対象外です。
 逆に、テロ防止のための国際的な協力については、日本はすでに主要13条約を締結していますし、ほとんどのケースは現行法で対処できます。もし、まだ足りない部分があるのなら個別の法整備をすればいいのであって、共謀罪を創設する理由にはなりません。

――安倍総理は4月6日の衆院本会議で「2020年に東京五輪・パラリンピックの開催を控え、テロ対策に万全を期すことは開催国の責務だ」と共謀罪創設の理由を述べました。

平岡 論外ですね。安倍総理自身が、3年前のオリンピック誘致演説の中で、東京は「今も、そして(オリンピックが開かれる)2020年を迎えても世界有数の安全な都市」と明言しましたよね。共謀罪がなければテロを防止して安全を守ることができず、オリンピックが開けないというのであれば、あの演説はすべてウソだったということになります。
 最後にもう一度申し上げますが、共謀罪創設の先にあるのは、政府に対する批判的な発言をタブー視するような空気の中で、政府から監視され、市民同士も互いに監視し合うような息苦しい社会です。そんな社会を、私たちは目指したいのでしょうか。
 自由なものの考え方や発言、報道が守られてこそ、社会はより望ましい方向へ進んでいくことができます。その自由を守るためにも、共謀罪の創設は決して許していけないのです。

平岡秀夫(ひらおか・ひでお)弁護士、元法務大臣。1954年、山口県生まれ。76年、大蔵省(現財務省)入省。2000年6月、衆議院議員選挙で当選(以降5期当選)。11年9月、法務大臣就任。12年12月、衆院選挙で落選。現在、日弁連の「共謀罪法案対策本部委員」を務める。

『新共謀罪の恐怖 危険な平成の治安維持法』
緑風出版、2017年3月発行(1,800円+税)
「共謀罪」の危険性を解説した平岡さんと海渡雄一弁護士による共著。

↑このページの先頭へ