週刊通販生活トップページ   >  読み物:『ターシャ・テューダー 静かな水の物語』監督&プロデューサー 松谷光絵さん・鈴木ゆかりさんインタビュー

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「自分の可能性をあきらめなければ、必ず実現できるものがある。それが『ターシャ監督』から受け取ったメッセージです」

世界各地のガーデナーから
「ターシャが憧れ」という言葉を聞いた。

――2008年に亡くなったアメリカの絵本作家、ターシャ・テューダーさんの生誕100年を記念した今回の映画は、2005年からNHKで放映された4本のドキュメンタリー番組がもとになっています。ターシャさんの庭が日本のテレビで紹介されたのはそれが初めてだったそうですが、この番組もお2人の手によるものですね。番組制作の経緯を教えていただけますか。

Photo by Richard W. Brown

鈴木 当時、日本ではガーデニングブームで、松谷監督と私は海外の素敵なお庭を紹介する番組を一緒に担当していたのですが、取材の先々で何度も「ターシャ・テューダー」の名前に出合いました。取材した方が「ターシャの庭が憧れ」とおっしゃったり、お邪魔した家の本棚にターシャさんの庭の写真集があったり、ということが重なったんです。
 日本ではまだ、一部のガーデニング好きの間で名前が知られている程度だったので「一度取材させてもらいたいね」という話になって、アメリカにいる知り合いのコーディネーターを通じて「庭を撮影させてほしい」と手紙を送りました。そうしたら、思いがけずOKをもらえて。

松谷 「メディア嫌い」だとか、特定の写真家にしか撮影を許していないとかいう話を聞いていたし、「ダメ元で」くらいのつもりだったので、とても驚きました。
 返事は、撮影のことにほとんど触れていなくて「来週くらいにシャクヤクが綺麗に咲くから、見に来れば?」みたいな感じ。ともかく先方の気が変わらないうちにと、さすがに「来週」は無理だったものの、通常からすれば異例のスピードで現地に飛びました。ほとんど「幻のユキヒョウが出た、すぐ行かなきゃ!」というノリでしたね(笑)。

――ターシャさんが住むコーギコテージでは、着くなり息子のセスさんからショックな言葉を聞いたそうですね。

松谷 「取材は15分しか保証しません。それ以上はあなたたち次第です」と(笑)。以前、15分で「もう帰ってください」となった取材があったらしくて、セスさんが忠告してくれたんですけど、緊張しましたね。すでにテレビ局とは「2時間くらいの番組で」という話をしていたし、「本当に15分しか撮れなかったらどうしよう」と、目の前が真っ暗になりました。

鈴木 私はロケ経費のことも頭をよぎりました。正直、かなり強引に会社や局を説き伏せて実現したロケだったので、「これは自腹になるかな」と半ば覚悟した(笑)。
 でも、ちょうどそのとき、ターシャさんがお庭に出てこられたんですよ。水を入れたジョウロを持って「今から水をまくけど、撮らないの?」なんて言いながら。それを聞いた瞬間、一緒にいたカメラマンがカメラを取りにすごい速さで車にすっ飛んでいった。「ああ、撮影していいんだ」とほっとしました。
 そこからまる1年間、季節ごとに撮影に行かせていただいて、2005年に放映したのが最初の番組「喜びは創りだすもの〜ターシャ・テューダー 四季の庭」です。

Photo by Richard W. Brown

この映画の本当の「監督」は
ターシャさん自身。

――ターシャさんへの取材はそこで終わらず、その後も続いていくことになるんですね。

鈴木 最初はBSで放映したんですが、視聴者から「地上波でやってほしい」という声をたくさんいただいて、1週間後には地上波で放映されることになったんです。さらに、その年末の「再放送してほしい番組」アンケートでも上位に入るなど、反響がかなり大きかった。
 それで、プロデューサーの私としては欲が出たというか。今度は庭だけではなく、食べ物や衣服などすべてが手作りで、季節の行事や家族が集まる場をとても大事にしている、ターシャさんの暮しそのものを追った番組をつくれないかと考えたんです。

松谷 そうしたら、ターシャさんは「見せたい」と言ってくださった。ターシャさんが「これを見て、あれを撮って」「次はこのタイミングに合わせて来たら?」と言ってくださるものを撮りながら、次の番組をつくっていきました。ですから、今回の映画もそうですけど、本当の「監督」は私じゃなくてターシャさんなんですよね。「何をどう撮るか」を決めたのは全部彼女ですから。

(c)2017 映画「ターシャ・テューダー」製作委員会

鈴木 今思えば、最初から「暮しぶりを撮らせて」とお願いしていたら断られていたんじゃないでしょうか。最初は「庭を」とお願いしたのがよかったのかなと思いますね。

――なぜですか。

鈴木 ターシャさんはすごく優しいけれど、人と人との距離を大事にしていて、図々しいことをすごく嫌がる方だったんです。私も普段の取材では、お会いしてすぐに「朝起きてからの一日を撮らせて」なんてお願いしちゃうほうですけど、ターシャさんにそれをやっていたら、間違いなく取材は終わりになっていたでしょうね。

松谷 「人に見せない自分」をしっかりと持ってらっしゃいましたね。朝起きるとガウンを羽織って庭を一回りするのが好きだと聞いて、つい「その様子を撮らせてください」と言うと、驚いた顔をして「そんな、ガウン姿で人前に出られるわけないじゃない」って言われたことがあります。
 撮影のために何かをして見せることもしない方で、私たちの「取材」は、あくまでご本人がいつもどおり生活されている中の「撮っていい」部分だけを撮るというもの。たとえば、お昼寝の時間は「撮っちゃいけない」部分だから、その時間になると私たち撮影スタッフは必ず席を外すんです。それも「敷地の中に誰かいると思うと眠れないわ」とおっしゃるので、別の場所に移動して休憩したりしていました。

(c)2017 映画「ターシャ・テューダー」製作委員会

鈴木 監督はよく、ロケから帰ってきて「ターシャに怒られちゃった」と言っていましたよね。よく覚えているのが、「ターシャさんはいつも自分の好きなものに囲まれていてうらやましい」と言ったら、「あなたはどうしてそうしないの」と返されたという話。

松谷 「自分の領地に自分の気に入らないものを入れたのはあなた。『まあいいか』って思うことが、いかに自分をないがしろにしているのか考えたほうがいい。自分の王国を自分できっちり守るのは、王様であるあなたの役目だ」って言われたんですよね。そういうところはすごく厳しい方で。
 …でも、こんな話をしていると、なんだか隙のない聖人君子のようですけど、一方で大好きな素焼きの植木鉢を使い切れないくらい買い込んじゃったりする面もあったんですよ。「いや、いつか使うかもしれないから」って言い訳をして(笑)。ご本人も「やっちゃった!」って思ってたんじゃないでしょうか。

自分のやりたいことと真剣に向き合う。
それこそが「ターシャ的な生き方」。

――撮影の中で、特に印象に残っていることはありますか。

松谷 お庭を俯瞰で撮っていたとき、いつのまにかターシャさんがそばに来てカメラの映像を見ていたんです。そのときに「鳥たちは、私の庭をこんなふうに見てるのね」と、すごく嬉しそうにおっしゃった。
 私たちはずっとテレビの取材でうかがっていたわけですが、ターシャさんご自身はテレビは見ないし、冗談めかしてですけど「テレビを見るなんて時間の無駄、どうしてみんな見るのかしら」なんてよくおっしゃってたんです(笑)。

鈴木 テレビそのものを否定しているわけではなくて、人の時間には限りがあるから、あなたはその時間をどう使うの?とユーモアをまじえておっしゃってましたね。

(c)2017 映画「ターシャ・テューダー」製作委員会

松谷 でも、私たちは大きな機材を持って庭に出入りして、ターシャさんの貴重な時間を邪魔しているという意識は常にあったんですよ。だから、嬉しそうなターシャさんの顔を見たときは、心から「ああよかった」という気持ちになりましたね。

――「テレビを見ない」ターシャさんが、何年にもわたってテレビの取材を受けてくださったのはなぜだったのでしょう。

松谷 それは、私の中でも一番大きな疑問です。最初は「取材させてもらえる!」とただただ舞い上がっていたんですけど、だんだん不思議になってきて「どうしてですか」って聞いてみたことがあるんです。そのときは、こうおっしゃっていました。写真集に収められている庭の写真は素晴らしいけれど、あくまで「切り取られた一瞬」に過ぎない。実際には、きれいに咲く花の横には枯れようとする花があるし、きれいな花をうっとり眺めているよりも草取りしている時間のほうが長いというのが、自分と庭との「付き合い方」。きれいなもの、完璧なものだけを目指しているのではなくて、日々命に触れていることそのものが、自分にとっての「庭」なんだ。そういう「生きた庭」「素顔の庭」を残しておくには、テレビがいいんじゃないかと思った──と。
 その答えを聞いて「なるほどな」と思ったんですが、今回、映画化のためにもう一度映像を見直していて、もしかしたらそれだけじゃなかったのかもと思うようになりました。

――どういうことでしょうか。

松谷 取材のときはターシャさんが見せたいものを、何も分からず一生懸命撮っていたけど、実は庭仕事一つ取っても、そこにいろんな意味が詰まっていたんじゃないかなという気がしたんです。
 彼女は、50代に入ってから、荒れ地だった土地を耕してあの美しい庭をつくり上げたわけです。それができたのは、自分が絶えず頑張ってきたから。本当にきれいな花を咲かせたいという思いがあって、あきらめずにやればこれだけのものができると感じていたんだと思います。
 日々をおろそかにしない、「やりたいこと」を問いかけ続ける生き方は厳しいことですよね。「まあいいか」といって人生でやるべきことから逃げてばかりいる私は、「自分で自分の可能性をあきらめちゃ駄目よ」とターシャさんにたしなめられたことが何度もありました。そういう「可能性をあきらめている」人たちや現代社会に対して、「あなただってできるのよ」というメッセージを伝えたかったのかなあと思ったんです。「ターシャ監督」の企画意図はその辺にあったのかなと、今回の映画制作を通して感じました。

(c)2017 映画「ターシャ・テューダー」製作委員会

――それは、必ずしも庭づくりとか、スローライフとかの話だけではなくて…。

松谷 ターシャさんの「やりたいこと」は自然と向き合う暮しだったわけですけど、じゃあ私のやりたいことは何なのか。それを真剣に考えて、やれることを一つひとつ、まずはやってみる。そのためにあれはやめよう、こっちをやるからそっちはいいやと、やるべきことを選択できるようになる。この「やるべきことが選択できるかどうか」が「ターシャさん的な生き方」なんだと思います。私も実践できてはいないんですけど。

鈴木 ターシャさんのやっていたことって、「生活を自分の手でつくる」ことだったと思います。あの美しい庭の背景には、枯れた花を一つひとつ手で摘んでいく毎日の作業がある。それをターシャさんは私たちに見せてくれたし、そうした「生活者としての強さ」こそが彼女の魅力なんじゃないでしょうか。
 「生活を自分の手でつくる」ことは、きっと私たちにもできる。それをこの映画を通じて感じてもらえたらと思います。

まつや・みつえ(写真右/監督) 1983年、国際基督教大学卒業。同年よりテレビ番組の制作に携わり、自然ドキュメンタリーや人物ドキュメンタリー、美術番組などを数多く手がける。「素敵にガーデニングライフ 海外編」(NHK)で鈴木ゆかりプロデューサーと出会い、「喜びは創りだすもの〜ターシャ・テューダー 四季の庭」ほかターシャシリーズ全作を担当。2015年、映画『犬に名前をつける日』(山田あかね監督)で構成を担当、現在は細川護煕氏、柚木沙弥郎氏のドキュメンタリー映画2作が進行中。

すずき・ゆかり(写真左/企画・プロデュース) 1989年にテレコムジャパン(現テレコムスタッフ)に入社し、情報番組、紀行番組、スタジオバラエティ番組など幅広い番組制作に参加。ターシャシリーズ全作をはじめとした「ライフスタイルドキュメント」を一貫して制作してきた。2013年には映画『ベニシアさんの四季の庭』(菅原和彦監督)をプロデュースし、9万人を動員した。

『ターシャ・テューダー 静かな水の物語』

監督 松谷光絵
企画・プロデュース 鈴木ゆかり
撮影監督 髙野稔弘
制作 KADOKAWA/テレコムスタッフ
映像提供 NHK/NHKエンタープライズ
配給 KADOKAWA

角川シネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMA他全国公開中
公式サイト http://tasha-movie.jp/

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