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アフガニスタンはこの30年間で最も酷い状況ですが、非軍事的支援を続ける日本への好感度は今も高いですよ。中村 哲さん(医師、ペシャワール会現地代表・PMS総院長)

 1984年から私はパキスタンやアフガニスタンで医療支援と井戸掘りに従事してきました。その経験から感じたことは、海外援助の問題点は現地の需要よりも自国民に理解されやすい援助をしてしまうという傾向でした。飢餓状態の農民に対して教育施設や通信設備を整えたりするなど、上部構造ばかりに投資が行なわれました。その結果、政府高官や建設業者など一部の人たちは豊かになり、一般の人はさらに貧しくなりました。

 そういうなかで犠牲になるのは、いつも子どもです。戦争で死傷するだけでなく、赤痢やコレラ、それからインフルエンザやマラリアなどの感染症で多くの子どもが死にました。現在、首都カーブルの大きな病院ですら医薬品不足でまともな治療ができない危機的な状態になっています。

 アフガニスタンでは2000年に全土で旱魃が深刻化して400万人が飢餓状態に陥りました。医療で飢えや渇きは解決できません。そこで、2003年以降の私の主な仕事はアフガニスタン東部の都市ジャララバード近郊での用水路建設になりました。「100の診療所よりも1本の用水路を」です。

 今では用水路は27キロに延び、周辺の土地約3500ヘクタールが緑の大地になり、そこに十数万人が暮らしています。5年前からは既存の用水路の復旧も手掛けていて、合わせると1万6500ヘクタールの土地が蘇り、いずれ60万人以上が暮らせるようになります。

 それでも、アフガニスタン全土で見ると旱魃や飢餓はますます苛烈になっており、760万人以上が飢餓状態にあります。私が現地で活動してきた30年間で最も酷い状況と言えるかもしれません。

 現地では、私たち以外にも海外からのNGOが用水路を建設しましたが、そのほとんどは失敗しました。
北部山岳地帯の万年雪が解けて勢いよく流れてくる河の水に対して、欧米式のコンクリート工事では歯が立たなかったのです。私たちは江戸時代から続く石を積み上げていく工法でつくっています。これなら激流にも十分耐えられるので、この技術を広めるために、訓練所をつくって研修することも考えています。

 私が住むジャララバードでは年々治安が悪くなってきています。そのため、市内から用水路のある作業地に向かうときは4名の武装警備員が警護につきます。作業地に向かう途中の路上が危険なのです。
政治的な意図を持ったグループというよりは、単なる物盗りなどの犯罪者たちが増えているんですね。

 昨年、パキスタン政府は100万人以上のアフガニスタン難民を強制送還しました。アフガニスタン政府は難民を首都カーブルには入れず、ジャララバードに留め置くことにしたため、人口が一気に増えました。もちろん、それらの人が就く職はありませんから、犯罪に走る人も増えるわけです。

 そんな現地でも、日本の非軍事的なイメージはいまだに根強く、敵意を持たれなくて済んでいます。移動中は危険ですが、私が作業地で自由に歩けるのは、私が日本人だということをみんなが知っているからです。私たちの作業地や回復した農地が、戻ってきた難民の受け皿にもなっています。

 日本政府はこれまでアフガニスタンへ5000億円以上の復興支援をしていますが、すべてが医療支援や地雷除去といった非軍事的支援です。迷彩服を着た自衛隊が派遣されることはなかったので、アフガニスタンの人々の日本への好感度は今も高いのです。「憲法九条の実行」とは、こうした非軍事的な支援のことを言うのだと思います。

 日本では、いよいよ憲法九条を変えようとする動きが強まっています。日本が武力での解決を目指すような国になれば、平和主義国家のイメージは一瞬で崩れ去ります。私たちがアフガニスタンで長い時間をかけて築き上げてきた現地の人たちとの信頼関係もなくなりますし、日本国内でもテロが起きるようになるかもしれません。今こそ日本は、武力ではなくて、憲法九条という平和主義に基づいた外交政策を実行すべきときです。

なかむら・てつ●1946年、福岡県生まれ。九州大学医学部卒業。国内の病院勤務を経て、84年にパキスタン北西部のペシャワールに赴任し、ハンセン病治療を始める。その後、アフガニスタン国内で飲料水・灌漑用井戸事業や大がかりな用水路建設に携わる。『医者、用水路を拓く』(石風社)ほか著書多数。

アフガニスタンはこの30年間で最も酷い状況ですが、非軍事的支援を続ける日本への好感度は今も高いですよ。中村 哲さん(医師、ペシャワール会現地代表・PMS総院長)

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