シリーズがんと生きる
前回、大久保淳一さんは「がん患者には『希望』『仲間』『体験情報』が必要」と話しました。がんとの闘いは孤独になりがちですが、その3つがあることで乗り越えていきやすくなるそうです。実際、大久保さんも仲間に励まされながら、大きな目標を達成しました。では、希望や仲間を見つけるために、具体的にどのような行動をとったらよいのでしょうか。年齢を問わず、意識したいポイントを教えていただきました。
認定NPO法人 5years 理事長
闘病中の孤独と闘う仲間を見つけるには
どのように行動すればよいのですか?
家族が「口に出せない本音」を吐露することも。
ここからは「仲間の見つけ方」について
お聞かせください。
5yearsはネット上のコミュニティですが、
がんの患者さんの交流の場としては、
従来から対面式の患者会もあります。
どのような違いがあるのでしょうか。
患者会もたくさんありますよね。
ただ、私が精巣がんになった時は、
なかなか足を運べませんでした。
自分では積極的なタイプだと思っているのですが、
どんな人がいるか分からないのと、
「もしきついことを言われたら立ち直れない」
といった気持ちがありました。
そもそも体調が悪ければ
参加することすらできません。
5yearsの場合、
登録名はハンドルネームでもОKとしていますけれども、
プロフィールを読むと、
その人の背景情報や素性が分かります。
コンタクトを取ってみたい人がいたら、
サイトから「友達申請」をして、
承認されれば掲示板機能を使って
コミュニケーションがとれます。
ネット上だけでなく、
オフ会やクリスマスイベントなども用意しているので、
気の合う人と実際に会うこともできます。
がん患者ご本人だけでなく、
その家族も登録できるのでしょうか。
はい、できます。
患者家族の登録数は本人の次に多くて、
がん患者の親のために
子ども世代が登録しているケースが目立ちます。
「がんになった親との接し方がわからない」
「力になりたいけれど、何をしたらいいか分からない」
といった質問もあれば、
家族側がうつ状態になってしまって
悩んでいる質問もあります。
がんを契機に家族の中には
いろいろな問題が出てきますし、
口には出せない本音もあります。
そこに共感してもらうだけで
救われる場合もあるんですよね。
待っていても仲間はできない。まずは自分から発信すること。
患者さんやその家族が
「仲間がほしい」と思ったら、
まずどんな行動をとるとよいでしょうか。
やはり自分から発信することが大事です。
積極的に質問したり、相談したりすると、
たくさんの人から返答をもらいやすいですし、
仲間とつながりやすくなります。
逆に言えば、自分からあまり発信しない人は、
どうしても仲間が見つかりにくいと思います。
5yearsのオフ会でも、
ずっと黙って座っていてコミュニケーションを
とらない方がいらっしゃいます。
とくに多いのが中高年の男性ですね。
私は42歳でがんになりましたが、
がん患者全体の75%は高齢者です。
若いがん患者だと、子どもの成長を見たいとか、
仕事に復帰したいとか、つらい治療を乗り越える
モチベーションを持ちやすいのですが、
高齢のがん患者は
やり残したことが少なくなっていくので、
治療と向き合う意欲が湧きにくくなる。
そうした残酷さがあります。
ではどうすればいいかと言うと、
一つは「孫の結婚式に出たい」のように、
今からでもやり残したことを作るのです。
5年先、10年先の目標を作ることで、
目の前の困難を乗り越えていく力になります。
「頑張ろう」と積極的に思う人には、
同じような仲間が自然と集まってきます。
“マイヒロイン”に励まされ、がんを乗り越え100kmマラソンに復帰。
目標や仲間は、生きるための大事な糧になるのですね。
そうなんです。
それともう一つ、自分と同じような状況で頑張っている人、
つまりロールモデル(考え方や行動が他の人の規範となる人物)を
見つけることも大切です。
私ががんの治療で入院していた時、
社会と完全に寸断されて、
毎日することといえば
治療スケジュールをこなしていくことだけで、
「自分の人生は下り坂になるんだ」と
悲観していました。
でも、そんな自分を支えてくれたのが、
ランス・アームストロングというアメリカ出身の
プロサイクルレーサーの存在でした。
彼は私と同じ精巣がんで進行度も同じくらいでしたが、
がんを克服し、ツール・ド・フランスに復帰して、
個人総合優勝を連続で成し遂げました。
私にとってのロールモデルであり、
マイヒーローです。
また、私はもともとマラソンが生きがいで、
北海道の「サロマ湖100㎞ウルトラマラソン」にも
出場していたのですが、
がんで体力も筋力も衰えて、
もう一度走りたいという気持ちになれませんでした。
そんな時、マラソン愛好者向けの雑誌
『ランナーズ』(アールビーズ)に、
韓国居酒屋を経営している女性が膀胱がんを克服して、
ジョギングを再開したという小さな記事がありました。
それを読んで
「普通の人でも、目標をもって前に進んでいるんだ」と、
とても勇気づけられたんですね。
私も少しずつ走る練習を始めて、
治療終了から6年後に
「サロマ湖100㎞ウルトラマラソン」に再挑戦し、
完走できました。
生きがいや役割が持ちにくくなっていく
高齢のがん患者さんも、
ぜひマイヒーローやマイヒロインを
見つけてもらいたいですね。
最後に、大久保さんがこれから目標としていることを
教えてください。
当面の目標は、5yearsの規模拡大です。
現在の会員数は2万人超ですが、
10万人以上を目指しています。
がんと言っても種類はさまざまで、
自分と同じ年代、同じ進行度、
似たような経過をたどった人と知り合うには、
やはり数が多い必要があります。
それから、寄付に頼る運営ではなく、
社会貢献活動で収益があがる
社会事業にすることも目標です。
最近は、がんの早期治療の大切さを
伝えるプロジェクトも始めました。
患者さんのなかには、
症状に気づいてから様子見をしていて、
治療開始まで数ヵ月から数年かかっている場合があります。
これは非常にもったいないことです。
その間、不安だからネット検索をする人が多いのですが、
5yearsの会員の体験談をネット上でアクセスしやすくして、
がんの早期受診につなげていきたいですね。
次回は、緩和医療専門医のインタビューです(10月20日公開予定)。
取材・構成/八木沢由香
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第1回
がんで傷ついた「心のつらさ」をケアする
腫瘍精神科を知っていますか? 清水 研(がん研有明病院医師) -
第2回
抗がん剤をやめて標準治療以外を
試したいと考えるのはおかしいこと? 清水 研(がん研有明病院医師) -
第3回
がん患者同士のコミュティサイト
「5years」を知っていますか? 大久保 淳一(認定NPO法人5years理事長) -
第4回
闘病中の孤独と闘う仲間を見つけるには
どのように行動すればよいのですか? 大久保 淳一(認定NPO法人5years理事長) -
第5回
がんの早期から「緩和ケア」を受けられることを知っていますか? 余宮 きのみ(埼玉県立がんセンター緩和ケア科科長兼診療部長)
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第6回
がんの治療が成功しても、痛みが続く…
そんな時、緩和ケアはどう対応する? 余宮 きのみ(埼玉県立がんセンター緩和ケア科科長兼診療部長) -
第7回
患者家族の「痛み」「不安」に
緩和ケアができることとは? 余宮 きのみ(埼玉県立がんセンター緩和ケア科科長兼診療部長) -
第8回
もしも「主治医による緩和ケア」で
苦痛が取り除かれなかったら? 余宮 きのみ(埼玉県立がんセンター緩和ケア科科長兼診療部長) -
第9回
外見の変化の悩みを専門家に相談できる
「アピアランスケア」を知っていますか? 藤間 勝子(国立がん研究センター中央病院アピアランス支援センター センター長) -
第10回
がんになったことで仕事や人間関係に
影響しないか、心配していませんか? 藤間 勝子(国立がん研究センター中央病院アピアランス支援センター センター長) -
第11回
がん患者さんが外見をケアする時
どんな道具を選ぶといいのでしょうか? 藤間 勝子(国立がん研究センター中央病院アピアランス支援センター センター長) -
第12回
がんにともなうお金のつらさ
「経済毒性」を知っていますか? 黒田 ちはる(黒田ちはるFP事務所代表、一般社団法人患者家計サポート協会代表理事) -
第13回
治療費の負担が重すぎる時、
家計をどう見直したらいいですか? 黒田 ちはる(黒田ちはるFP事務所代表、一般社団法人患者家計サポート協会代表理事) -
第14回
どこまで保障が必要か、保険料は払えるか? 黒田 ちはる(黒田ちはるFP事務所代表、一般社団法人患者家計サポート協会代表理事)
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第15回
がん治療後、自宅での食事で気をつけることは何ですか? 千歳 はるか(国立がん研究センター東病院 栄養管理室長)
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第16回
がん治療中の「食べにくさ」。どう工夫したら良いでしょうか? 千歳 はるか(国立がん研究センター東病院 栄養管理室長)
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第17回
料理や食材の買い物がつらい時の対応策を教えてください。 千歳 はるか(国立がん研究センター東病院 栄養管理室長)
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第18回
「悪性リンパ腫」と診断されて、どんな気持ちで、どんな治療を受けましたか? 笠井信輔(フリーアナウンサー)
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第19回
笠井さん、「昭和患者」と「令和患者」ってなんですか? 笠井信輔(フリーアナウンサー)