シリーズがん生きる

第11回
イラスト/瀬藤優

がんの影響によって、毛髪や爪、肌など外見(アピアランス)に変化が生じる場合があります。国立がん研究センター中央病院(東京都中央区)でアピアランス支援センター長を務める藤間勝子さん(公認心理師・臨床心理士)は、「外見をもとの状態に近づけるか、そのまま過ごすかは患者さんによって判断が異なります」と話します。仮にウィッグやメイクなどで補正する場合、どのような方法があるのでしょうか。年齢・性別を問わず手軽に実践できる方法を教えていただきました。(インタビュー全3回の最終回)

藤間 勝子さん

国立がん研究センター中央病院
アピアランス支援センター センター長

その3

がん患者さんが外見をケアする時
どんな道具を選ぶといいのでしょうか?

眉毛を描く時「一つだけ守ってほしいこと」。

前回までの記事では、アピアランスケアの考え方や、心理・社会的な支援について伺いました。今回は、外見をもとの状態に近づける方法についてお聞かせください。

例えば、抗がん剤治療で眉毛が抜けたとしましょう。アイブロウペンシル(眉墨)で眉毛を描き足す方法がありますが、普段メイクをしない人は難しいと感じるかもしれません。

アピアランス支援センターでは、誰でも気持ちの負担なく行ってもらうために「一つだけ守ってほしいこと」を伝えています。それは、左右対称に描こうとしないことです。眉は左右対称に描かなければいけない、と思うとハードルが上がります。とりあえず、「目の上に横棒を描く」ところから始めましょうと伝えると、年配の男性でもやってみようかな、と思ってくれます。あわせて抗がん剤の眉への影響は髪よりも後に起こりますので、髪が抜けたころから少しずつ描く練習をするとよいですよ、とお話しています。

あるいは、太めのフレームのメガネを活用するのも手です。眉毛の位置に太いフレームがあると、脱毛が目立たなくなります。ちょっとおしゃれなメガネや帽子を身につけると、がんのイメージから遠ざかり、周囲から心配されすぎることも少なくなっていきます。

国立がん研究センター中央病院が発行するアピアランスケアのガイドブックには、患者さんが抱える思いや、眉毛の描き方などの具体的な方法が紹介されている。右は男性向けの『KNOW HOW TO』(ノーハウツー)、左はAYA世代(15歳~39歳)向けの『TWENTY』。

がんの治療の影響で、爪が割れたり、色が変わったりする場合があるそうですが、指先が気になる人は、どのようなケアをするといいのでしょうか。

マニキュアを塗ることで爪を補強し、色をカバーすることができます。使用するマニキュアはごく一般的な製品でよく、特別なものを選ぶ必要はありません。除光液もごく一般的なアセトン入りの製品を病棟でも普通に使っています。

ただ、指の爪は思ったより周囲から見えないものです。人を指さすことはマナー違反ですし、わざわざ手をとって爪を見ることもそうそうありません。以前、当院のコンビニの店員さんに聞いたのですが、お客さんの爪の色が気になることはまったくないそうです。「僕らはお金しか見ていません」と朗らかにおっしゃっていました(笑)。アピアランス支援センターでは、あえてそういう話をすることがあります。「もとの外見に戻さなければ」と思い詰めている患者さんも、少し力が抜けるからです。

ウィッグ選びの「3大原則」とは?

化粧品を選ぶ際に、気にすべきことはありますか。

がん患者さん向けとか、敏感肌用、無添加などと謳われたものである必要はありません。化粧品は医薬品ではないので、敏感肌などの表現に統一された基準はないんですよね。ですから、あまり気にする必要はありません。

「ざ瘡様皮疹」や「手足症候群」など気をつけてケアをする必要のある副作用は、スキンケアの説明があるのでそれに従ってもらえればいいと思います。特別に説明がない場合は、保湿に気をつけてもらい、今まで使っていたスキンケアを継続してらえばよいです。
ある患者さんはずっと高級化粧品を使っていて「がんになったら敏感肌用じゃないとだめですよね…」と落ちこんでいましたが、自分が好きなものを選んでいいのです。今まで使い慣れたもので構いません。

化粧品は特別な製品である必要はなく、使い慣れたものでいい。(写真はイメージです)

アピアランスケアはそれまでの生活の延長線上にあるのですね。ウィッグの選び方にコツはありますか?

私たちは「自分に似合うかどうか」「かぶり心地」「予算」を、ウィッグ選びの3大原則と呼んでいます。洋服と同じ感覚で選んでもらっていいと説明しており、まずは手軽な価格のウィッグを買って、色々試してみることをお勧めしています。使ってみていまいちなら買い換えよう、くらいの気持ちで選ぶと、気が楽だと思います。

ウィッグの価格は数千円から数十万円まで幅広いのですが、当院では女性の場合3万~5万円程度で選びたいというご希望が多いです。できれば1万円くらいに抑えたいとおっしゃる患者さんも増えており、低価格の製品を数カ月で買い替えていく方もいます。

予算については、どのように決めるとよいのでしょう。

高い製品の方が自然に見えると考えがちですが、必ずしもそうとは限りませんので、無理に高価な製品を購入しなくても大丈夫です。予算についての考え方の一つとして「ヘアケアにかけていたお金と比べてみる」というものがあります。早い人は治療開始から1年ぐらいで毛髪が戻ってウィッグを脱ぎますが、その間は、カットやカラーのために美容室へいきません。シャンプーやヘアケアも必要ないわけで、今までかけていたヘアケアに関するコストをウィッグに置き換えて考えると目安がつけやすいです。

高校生の患者さんがかぶっていたおしゃれな帽子を持って。

必要なアピアランスケアは、患者によって全く違う。

アピアランスケアについて詳しく知りたい時、上手な情報の集め方を教えてください。

ネット上にはがんに関する情報が溢れていて、個人の闘病体験を綴ったブログなどを読むと「自分もこうなるのかな」と不安を煽られます。でも、よく読むと何年も前の古い情報だったり、同じがん種でも全く違う治療法だったりもします。がんのタイプや治療法によって、外見の変化は全く違うので、医療機関を通じて正しい情報にアクセスしてほしいと思います。

治療を受けている病院にアピアランスケアセンターや、アピアランス外来など専用の相談窓口がある場合はそちらへ。あるいは、地域の「がん診療連携拠点病院」や「地域がん診療病院」に設置された「がん相談支援センター」へ相談してみてください。病院で相談しにくい時などは、私たちのホームページで公開している資料を参考にしていただけると嬉しいです。

治療中は特別な製品を使わなくてはならない、と考える人が多いのですが、一般に販売されている衣料品や化粧品などの日用品を使って問題ないことがほとんどです。ウィッグについても、「医療用」「がん患者用」などの製品を選ぶ必要はありません。検索する場合は「ウィッグ」「性別」「年代」と、「ボブ」「ショート」などの髪型の好みだけで十分です。年代は10歳ほど若く見積もったほうが、ちょうどいいデザインのものが見つかりますよ。自分が素敵に見える製品を選ぶことが大切です。

国立がん研究センター中央病院 アピアランス支援センター
患者さんへのお役立ち情報

取材・文/越膳綾子

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