シリーズがんと生きる
がんへの備えというと、がん保険を思い浮かべる人は多いのではないでしょうか。「看護師FP」Ⓡの黒田ちはるさんは、「がん保険はあったほうがいい」としながら、それ以前に必要な備えがあるといいます。がんとお金の問題に困らないために、がん保険の選び方や、公的制度について教えていただきました。
黒田ちはるFP事務所代表、一般社団法人患者家計サポート協会代表理事
がん保険の見直しや、選び方の
コツを教えてください。
どこまで保障が必要か、保険料は払えるか?
がんとお金の問題で困らないために、がん保険はどう考えたら良いでしょうか。
備えとして、がん保険もあったほうがいいとは思います。がん保険の診断給付金などで100万円、200万円とまとまった金額がおりて、本当に助かったという声はよく聞きます。ただ、給付金は一時的なものですから、長期的な収入の維持という意味では、万全ではありません。収入減を補てんしているうちに、1年くらいで給付金を使い切ってしまうケースが多いようです。
また、古いタイプのがん保険は、入院保障がメインになっているものがあります。最近はがんでも入院期間が短く、通院治療が長い傾向がありますから、通院治療が保障されるかどうかは、がん保険を選ぶ時のポイントといえるでしょう。「治療給付金」といって、手術や抗がん剤治療、放射線治療などの治療を受けるたびに給付金がおりるタイプのがん保険もあります。長期間の治療や、がんが再発・転移した場合などに役立つことでしょう。
ただ、がんそのものではなく、合併症や後遺症などで入院・通院した場合は対象外の保険もあるので、しっかりと確認することが大切です。
がん保険の見直しの、適切なタイミングを教えてください。
だいたい5年以上前に契約したがん保険は、見直しを考えることをおすすめします。保険料は終身払いにして数年に1回は切り替えられるようにしておくといいでしょう。「65歳で払い済み」など短期払いにすると見直しが難しくなるため、十分に検討してください。
がんを経験しても加入できる医療保険もあると聞きます。
「引受基準緩和型(限定告知型)医療保険」といって、一般の医療保険に比べて、病気の経験の告知義務が少ないタイプですね。保険会社によっては「過去5年以内にがんなどで入院、手術を受けたことがあるか」が告知項目に含まれているため、治療終了から5年以上たっているかどうかが、加入の可否を分けるポイントになります。通常の医療保険より保険料が割高なので、自分にはどこまでの保障が必要か、保険料は支払えるのかを考慮して、医療保険を選んでください。
がんになった後にも入れるがん保険は、再発の備えとして検討される患者さんも増えています。がんの部位や発症時のステージ、年齢によって保険料が変わりますし、保険会社によって手術後半年から入れるのか、治療終了後数年経過した後なのかなど加入要件も変わります。医療保険と同じく、保障内容と保険料が自分に合っているのかを十分に検討されると良いでしょう。
保険一つをとっても、がんへの備えはさまざまな観点で考える必要がありますね。
がん保険も医療保険も、がんになった時に利用できる資源のごく一部です(図参照)。すぐに使える貯蓄も必要ですし、働き方や生活を調整して収入を維持することも大切。そうした資源の土台になるのが、公的制度や、正しい情報を得ることだと知っていただきたいですね。正しい情報がなければ、いくらがん保険や預金があっても治療と生活の両立は難しくなります。
がんになった時に利用できる資源
がんでも使える「障害年金」「介護保険」。
前々回のインタビューで、傷病手当金や高額療養費制度の話を聞きました。そのほか、どのような公的制度があるのでしょうか。
がんによって生活や仕事が制限される人は「障害年金」を受給できることがあります。障害基礎年金は1~2級、障害厚生年金は1~3級の等級があり、「障害認定基準」に基づいて審査されます。例えば、最も軽度の障害厚生年金3級は、「日常生活には、ほとんど支障はないが労働については制限がある」人が対象になります。給付額は厚生年金の加入期間や収入によって決まり、最低保証額は年間約60万円(月あたり約5万円)です。障害年金を受給しながら無理のない範囲でパートやアルバイトなどで働いて、生活している人も少なくありません。
障害年金に関しては、がんの患者さんも使えることを知らなかったり、「障害」という名称からして自分は該当しないと思っていたりする人がまだまだ多い現状があります。障害年金受給者のうち、がんの患者さんはわずか1%です。最初に病院にかかった時から1年が経過してもがんの症状や治療による影響で生活や仕事に支障がある場合には、病院のがん相談支援センターに障害年金について確認してみると良いでしょう。
支給される障害年金の額(年額)※令和5年度
ほかには介護保険も利用できます。65歳以上は第1号被保険者として、通常通りの要介護認定を受けてサービスを受けられます。40~64歳までは「回復の見込みがない」と医師が判断した場合に、第2号被保険者としてサービスを利用できます。がんのステージや、余命宣告の有無などは関係なく、医師が医学的見地に基づいて「回復の見込みがない」と判断したことと、身体や生活状況などから総合的に要介護を認定されます。
がんの患者さんが介護保険で比較的よく使うサービスは、ホームヘルパーによる家事援助や、一人で入浴が難しい場合の訪問入浴、電動ベッドや車いすといった福祉用具のレンタル、手すりの設置など。それらの費用が1~3割負担で済むようになるのです。
公的制度を申請するにあたって、注意点はありますか。
公的制度のお金が入ってくるまでは、かなり時間がかかることが多いことですね。
傷病手当金(インタビューその1参照)は、休職したらすぐに必要になるかもしれませんが、申請できるのは体調が変化して労務不能となってからです。人によっては治療開始から1ヵ月後くらいになります。そこから審査に3週間前後かかるので、もともと家計がギリギリの人は、最初の数ヵ月がとても大変になります。
また、障害年金は、申請のタイミングが2パターンあります。初診日から1年半が経過し、生活や仕事に支障があると医師から認定された「障害認定日」か、障害認定日のあとに症状が重くなった時点の「事後重症」です。障害認定日で申請しても、仕事や生活への支障があまりなければ利用が認められませんし、症状が重くなってからの申請は書類集めなどが大変です。患者さんの中には「もう少しあとに申請すると等級が上がるかもしれない」と迷っているうちに、体調が悪化して亡くなってしまった人もいます。
「正しい情報」がすべてのベースになる。
がんとお金の問題は、早い段階で専門職に相談したほうが良さそうですね。
そうですね。公的制度の概要に関しては、病院のがん相談支援センターに相談すると良いでしょう。もう少し詳しいことを知りたい場合や、無理なく働き続ける方法に関すること、公的制度の申請方法は社会保険労務士(社労士)が専門です。家計の見直しなどについてはファイナンシャルプランナー(FP)にご相談ください。病院によっては、社労士やFPが定期的に訪問して、無料で相談できる場合もあります。
取材・文/越膳綾子
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第14回
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第15回
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第16回
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第18回
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