シリーズがん生きる

第16回
イラスト/瀬藤優

食欲不振や味覚障害、口内炎など、がんの治療にともなう食事の困難はさまざまです。でも、料理を冷ましてから食べたり、とろみをつけたり、薬味を効かせたりと、ちょっとした工夫でつらさを軽減できる場合があります。がん患者さんの食事支援をしている千歳はるかさん(国立がん研究センター東病院 栄養管理室長)に、症状別のポイントを教えていただきました。

千歳はるかさん

国立がん研究センター東病院 栄養管理室長

その2

がん治療中の「食べにくさ」。
どう工夫したら良いでしょうか?

1日3食にこだわらず、食べられそうなタイミングで食べる。

がんの治療の影響や、精神的なつらさから食欲不振になっている時、どのような工夫が必要でしょうか。

まずはできるだけ食べやすいものを選ぶことが大切です。ツルリとして口当たりのよいもの、さっぱりしていて喉ごしのよいものは、食欲がない時に向いています。レトルトのおかゆやそうめん、プリン、ゼリーなどは食べやすい人が多いようです。

体を起こすことがつらい場合は、リクライニング姿勢のまま手づかみで食べやすい小さなおにぎり、サンドイッチ、のり巻きなどがよいでしょう。いなり寿司のように少し酸味のあるものもお勧めです。また、当院では入院患者さんの食事にたこ焼きをお出しすることがあるのですが、一口サイズで食べやすく、ソース味が受け入れやすいという声を聞きます。

定食のようにそろった献立を食べきらなくてもよいのですね。

食欲がない時は、一度にたくさんの量を前にすると、それだけで食べる気がなくなってしまいますよね。なるべく食べられそうな量を用意していただければよいと思います。朝昼晩の3食にこだわらず、体調が落ち着いているタイミングでちょこちょこ食べてもかまいません。少量でも食べて、腸を使うということに意味があります。腸は体の免疫と深く関係する臓器で、腸を機能させることは身体の回復にとって非常に重要です。

それから、食欲不振には嗅覚障害も生じていることもあります。抗がん剤治療を受けていると、ごはんやおかゆを炊く時の湯気のにおい、煮魚のにおいで料理の段階から気持ちが悪くなってしまう人もいます。そうした場合は、湯気の少ない電子レンジ調理にしたり、温かいままではなく冷ましてから食べたりすると少しラクになります。レモンなどの柑橘類や、生姜といったさわやかで強い香りのするものでにおいをカバーするのもよいでしょう。

「金属味」がする時は、スプーンを木製や陶器製に。

抗がん剤治療の副作用で、味覚が変わってしまう人もいます。味を感じにくい、本来の味と違って感じる、泥や紙を食べているように感じるような時、どんな対応法がありますか。

味覚障害の中でも、塩味が感じられない時は特に食欲不振につながりやすいようです。そうした場合は、塩気を強くするのではなく、出汁を濃いめにするなどうま味を感じやすくすることをお勧めします。

本来の味がしない場合は、かつお節やごま、海苔などでうま味や風味、香りをつけたり、とろみや脂肪分などでコクをつける。ミョウガや三つ葉といった薬味を活用するなど、おいしく感じられるように工夫していただくと良いでしょう。

何を食べてもザラザラする、金属味を感じるといった味覚障害もあるようです。

口の中が乾燥しているとザラザラやカサカサを感じやすかったり、金属味を感じたりすることがあります。食前に水をひと口飲んだり、口をゆすいだりして口腔内をうるおし、きれいにしておくと軽減に役立ちます。金属のような味を感じる時は、食具や食器も見直してみてください。金属製のものは避けて、例えばスプーンであれば木製や陶器製のものを使うことをお勧めします。

ブレンダーでトロトロにして、口内炎でも食べやすく。

口内炎や食道炎ができている時、飲食時に痛みを感じにくくする方法はありますか。

患部に当たらない工夫が必要で、やわらかくて滑らかな食材を選んで、するりと飲み込みやすいように調理することがポイントです。食材をやわらかく煮含めて、簡単に押しつぶせるようにする、あんかけやポタージュなどとろみのついた水分の多いメニューにする。あるいは、ブレンダーを活用してトロトロにするのもひとつの方法です。高機能のブレンダーを使うと本当に滑らかになりますから。

反対に刺激のあるもの、固いもの、喉に貼りつくもの、パサパサしているものは控えた方がよいでしょう。例えば柑橘類のような酸味が強い食材、辛みの強い香辛料や食材、ナッツや揚げ物の衣のように固いものは患部を刺激します。塩分も刺激になるので、味つけの濃いものは避けて薄味にしていただきたいですね。

海苔やきな粉などは喉に貼りつきやすいですし、ふかし芋やおからのようにパサパサしているものも食べにくい傾向があります。筋のある肉や、イカ、タコのように弾力があってかみ続けなければならないものも、口内炎や食道炎がある時は向きません。

また、一度にたくさん口に入れてしまうと、かむ時に口を大きく動かさなければならず、それが痛みを引き起こすこともあります。少しずつ口に入れ、特に食道炎ではよくかんで口内でトロトロにして飲み込むように心がけてください。

消化器がんの術後、繊維質の食品は絶対ダメ?

食べるものを選ぶだけでなく、食べ方にも注意が必要なのですね。

「何を食べるか」よりも、「どう食べるか」が重要だと言っても過言ではありません。例えば、胃がんで胃を切除した場合は、今までのように食べ物を胃に蓄えておくことができなくなります。よくかんでゆっくり、少しずつ食べることがとても大事になります。
間食では、温泉卵やゼリー、プリンといった、消化がよく栄養価が高いものを食べ、栄養不足をカバーすることも心がけてください。

同じ消化器がんでも、大腸がんの手術のあとは、食べ方をどう工夫したら良いのでしょうか。

キノコ類やイモ類など不溶性食物繊維は消化管で消化できないので、腸の機能が落ちている時は腸閉塞を起こしやすくなります。とはいえ、絶対に食べてはいけないというわけではありません。ごぼうなどの根菜も、炊き合わせに少し入っているものをよくかんで食べるくらいなら、問題ない場合もあります。

逆にあまり食物繊維を含まないものでも、たくさん食べるとトータルの食物繊維量が多くなります。それよりはお芋を少し食べた方が腸への負担は少ないこともあります。こうした食べ方については、入院中に管理栄養士から説明がありますが、慣れてくると油断してしまい、消化のトラブルを起こす人もいます。

患者さんご本人が判断するには難しい部分もありますから、栄養相談を受けながら工夫していただくのがよいと思います。

次回(3月8日公開)に続く

取材・文/八木沢由香

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