各界で活躍する方たちに「これがないと困る!」という
「こだわり道具」をご紹介いただきます。
ワタナベマキさん
料理家

食卓にそのまま載せても美しい
銅製の浅型鍋は
とっても丈夫でサスティナブル。
鍛金工房WESTSIDE33の「オーバル鍋(浅型・銅)」

銅製の両手鍋。銅は柔らかく、緑青がつきやすいが、内側が錫引きされているため、気兼ねなく使える。
素材を活かしたシンプル(simple)な調理法、食材や道具に無駄や無理がなく続けられるサスティナブル(sustainable)、家族や大切な人のスマイル(smile)。料理家として、私がいつも大切にしている「3S」です。
おすすめは蒸し料理やコンポート。
素材の味そのものを感じられます。
仕事柄、鍋やフライパンの類はたくさん持っています。その中で、もっとも丈夫で、使いやすい物と言えば、鍛金工房WESTSIDE33さんの「オーバル鍋」。内側が錫(すず)引きされた銅製の鍋です。銅はとても柔らかいので、調理中や洗っている時に変形してしまったり、入れる物によって変色してしまったりするのですが、錫引きされているおかげで、使い勝手が格段にいいんです。15年以上、週に1、2回使っていますが、びくともしません。もし錫がはげてしまっても修理してもらえるので、正真正銘、一生ものの鍋です。

15年以上、週に1、2回は使っているという鍋。使い込まれた様子が趣深い。
それまでも昔ながらの銅製の鍋は持っていましたが、「和っぽい」デザインだったので、もう少し違うデザインの銅製の鍋も欲しいなと思っていたんです。京都に行った時に三十三間堂の近くにあった鍛金工房WESTSIDE33さんに入ってみたら、この鍋と出合いました。浅い感じも、銅製の鍋にしては新鮮でした! 当初の、銅がピカピカしていた頃の面影はありませんが、使い込むほどに味が出ていい感じになっていると思っています。大きさはいろいろとあったんですが、私は23cmを選びました。肩ロースの塊肉がちょうど1本入るサイズだし、お魚も1匹丸ごと入るので使いやすいサイズだなと思ったから。とても使い勝手のいいサイズですね。

新ジャガと新玉ネギの白ワイン蒸しに、新鮮なクレソンをたっぷりと添えて。目にもおいしい一品。
長時間、がっつり煮込むというよりは軽く蒸す、火を短時間通すという時にこの鍋を使っています。魚の蒸し煮はふっくら仕上がりますし、ジャムは素材の味そのものが感じられるように美味しく仕上がる。熱の伝導率がいいからでしょうか。例えば、イワシの蒸し煮はそれまではステンレスの鍋やアルミの雪平鍋を使っていたんですが、この鍋で作ってみたら本当にふっくら仕上がったんです! それにこの鍋だと、そのまま食卓にのせても様になるのも魅力ですね。ほかによく作るのは洋梨やいちじくのコンポート。うまみを逃さず、素材の味がしっかり残るんです。
銅製の鍋は、フライパンや雪平鍋のように買い替えていく物ではなくて、一生付き合っていく、育てていくものだと思うんです。だから、しまっておいたり、飾っておいたりしないで、普段からなんでもこれで作ってみる。そうすると、「あれ、この蒸し煮、これまでの雪平鍋では出ない味だな」と感じられると思います。

「ダイニングテーブルにそのまま出せるのも、この美しい鍋の魅力です」とワタナベさん。
料理家の私にとって調理器具は料理を美味しくしてくれる相棒です。料理のスキルが上がっていくのと同様、道具も一緒に育っていくんです。長く使うことで、その調理器具の特性もわかってくるし、自分なりの使い方が確立していきます。この文章を読んで銅製鍋を手に入れたいと思われた方がもしいらっしゃるのなら、棚に置いておくのでなく、日々、使いながら愛でてほしい。本当に頼りになる道具です!
フードロスもゴミもなるべく減らしたい。
未来の地球のために−−。
2011年の東日本大震災を機に、サスティナブルということを改めて意識するようになりました。仕事柄、一般の家庭よりも生ゴミを多く出し、水を多く使っています。雑誌や本の撮影の際、どうしても食材を多めに用意するから、撮影が終わると食材が余ったり、野菜の切れ端が大量に出たりするのです。いつも罪悪感でいっぱいになっていました。そこでとにかく、自分ができるフードロスやゴミを減らす取り組みを少しずつやってみようと思ったんです。
半分だけ残ってしまったタマネギや4分の1本だけ残ったニンジンといった野菜の余りは「残り物袋」に保存しておきます。3、4日である程度溜まるので、その野菜を同じ大きさに切ってスープやお味噌汁にして使い切ります。普段しないような取り合わせで、思いがけない風味が出ることもあって、楽しみながらフードロス削減に取り組めています。
もっと小さな余り物、例えばピーマンのヘタや種、ニンジンの皮は、まず密閉袋に入れて冷凍保存しておきます。それを野菜のだしとして使うこともあるのですが、それでも残ってしまうような物は生ごみ処理機で乾燥させる。すると、かなりゴミの量を減らせます。それに、乾燥させると香ばしくて美味しそうな香りがするんですよ。夏は匂いが気になる方も多いと思いますので、そういう意味でも乾燥させるのはおすすめです!

扉のないオープンシェルフに収納していることもあって、重くても出し入れがおっくうにならない。
今の10代や20代の方は水筒を持ち歩くなど、サスティナブルという概念が自然と身についているけれど、私たちのような「昭和世代」にはそこまで浸透していない気がしていて。だから、レシピを発表する時や本を出版する時、少しでも皆さんの参考になるように「私はこんなふうにしています」ということを意識してお伝えするようにしています。
確かに一人ができることは限られていますが、それでも一人でも多くの人が自分の行動を少しずつでも変えていけたら、未来の姿は大きく変わっていくんじゃないかなと期待しています。無理なく続けられる一人ひとりのサスティナブルが、家族や大切な人のこの先のスマイルにつながっていくと信じています。
取材・構成/宮本由貴子 写真/ご本人提供
ワタナベマキ(ワタナベ・マキ)
料理家。1976年、神奈川県生まれ。夫と長男、猫2匹と暮す。グラフィックデザイナーを経て、28歳で料理家として独立。初めての著書『サルビア給食室だより』(ブルームブックス)以降、「日々食べるものを美味しく丁寧に」をモットーにしたレシピが人気で、著書を多数出版。近著は『梅干しは万能調味料』(主婦と生活社)。2021年、オンラインで料理教室をスタート、2024年、自身が吟味した食品を扱うブランド「wa&_(ワンダー)」を立ち上げた。