ペリー荻野さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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仮面の忍者 赤影

2025/11/14公開

監督・三池崇史、おとなが楽しめる令和版「特撮時代劇」

 まさか令和になって、新しい赤影に会えるとは~!

 私の周囲の時代劇ファンも令和版「仮面の忍者 赤影」(テレビ朝日系)放送決定の一報に大興奮していた。「大魔神」シリーズ、「怪傑ライオン丸」「白獅子仮面」など特撮時代劇は、昭和期からいろいろ作られてきたが、「赤影」は、昭和・平成・令和と三つの時代で実写の新作が創られたことになる。

「仮面の忍者 赤影」(フジテレビ系)は、1967年、横山光輝の原作マンガを映像化したこども向け番組だった。

 60年代は、ゴジラ、ガメラなど怪獣映画が大当たりし、第一次怪獣ブームと呼ばれた時代。テレビでも「マグマ大使」「ウルトラマン」など本格的な特撮番組が次々放送されている。中でも「赤影」が特殊なのは、時代劇の本場、東映京都撮影所が、映画のベテランスタッフや俳優陣を動員して本気で作った特撮時代劇作品であった点だ。

 冒頭、「豊臣秀吉がまだ木下藤吉郎だったころ、琵琶湖の南に金目教という怪しい宗教が流行っていた」という語りから始まり、飛騨の影一族の正義の忍者・赤影(坂口祐三郎)、凧を操るベテラン・白影(牧冬吉)、愛嬌たっぷりの少年忍者・青影(金子吉延)の三人が、金目教の頭目・幻妖斉(天津敏)率いる悪の忍び集団と死闘を繰り広げる。影一族を呼んだ藤吉郎の軍師・竹中半兵衛を演じたのは、若き日の里見浩太朗だった。赤影は光線を放ち、敵方は怪獣を操るなど、見たこともない忍者の世界が広がり、こどもたちを夢中にさせた。

 放送終了後も人気が高く、1969年には劇場版「飛び出す冒険映画 赤影」が公開。来場者は、赤と青のセロファンが貼られた「立体メガネ」を配られ、ここ一番のときには赤影の合図でメガネをかけると3Dの立体映像が楽しめる(!)という画期的な作品だった。

 その後、1985年には、フジテレビの二時間ドラマ枠「月曜ドラマランド」で、単発ドラマ化された。赤影を演じたのは、当時、千葉真一主宰のアクション集団、JACに所属していた黒崎輝。青影は高田純次が演じていた。他には忍びの頭に犬塚弘、織田信長に必殺シリーズの悪役でも知られる名和宏、志穂美悦子がお姫様、真田広之が手練れ忍者役で出演。真田はアクション指導もしており、自ら本物の絶壁からつるされる本格アクションも披露。宙を飛ぶ、土に潜る、爆破する、全部実写でやっちゃうところはさすがだが、全体はコメディで、赤影は変顔をしたり、青影はおとぼけだったり、お陽気な80年代らしい、特撮とは違う形でアピールする赤影だった。

 2001年には、数多くのCM、MV、PV作品での知られる中野裕之監督の映画「RED SHADOW 赤影」が公開。仮面をつけない赤影(安藤政信)、飛鳥(麻生久美子)、青影(村上淳)を軸に竹中直人、陣内孝則、藤井フミヤ、布袋寅泰などユニークなキャストが暴れまわっている。

 こうした歴史を刻んできた「仮面の忍者 赤影」。令和の新作は、登場人物たちが、これまでのシリーズとはまた違うキャラクターで出てくるところが面白い。

 まず、主役の赤影(佐藤大樹 EXILE/FANTASTICS)は、影一族の頭目の跡取りだが、口数が少なく、羽柴秀吉(柄本時生)から「ただの人見知りじゃね?」などと言われる。青影(木村慧人FANTASTICS)は、偉大な伊賀忍者・百地三太夫の弟子で身が軽く、天真らんまんな性格。そして先輩忍者の白影(加藤諒)は、ユーモアあふれる性格で、凧に乗って赤影たちの窮地を救う。

 物語は、第一話から激しく動いた。妖術によって人々を操り、信長(EXILE TAKAHIRO)の天下統一を阻止しようとする金目教の教祖・甲賀幻妖斉と手下の“霞谷七人衆”と激闘が始まるのだが、昭和版とは異なり、幻妖斉の顔は被り物でわからない。金目教退治を命じられた松永久秀軍は全滅。すると、七人衆のひとりで紫色の仮面を被った不気味な傀儡甚内(細田龍之介)が現れ、なんと久秀の顔を自分の顔にコピーしてしまった! 久秀になりすまして信長と赤影の前に現れた陣内だが、あっさり見破られる。すると背後から「ガハハハ」という笑い声とともに、出ました! 蟇法師(本山力)が操る巨大怪獣・千年蟇!! 千年蟇は、人を食うのだが、普通人では満足せず、信長のような身分の高い者を好むという。さすがの赤影も食われそうになるが、その瞬間、蟇の口をパカッと開けて閉じないように体で支えていたのは、信長だった。

 興味深いのは、信長と赤影の関係だ。赤影は肩に大きな傷あとを持ち、一族存続のために人質に出された男。信長にも複雑な思いを持っていて、初対面でいきなり信長を「老害」呼ばわりするのである。信長は信長で赤影を「父に捨てられた」などと言い放つ。屈折を抱えた“正義の忍者”がどう変貌するかも見ものだ。

 新たな赤影は、日曜日の深夜というおとなの時間に登場した。監督は昭和版に熱中したという三池崇史。それだけに怪獣の造型や忍術、体を張った闘いなど、手作り感が当時を思わせて、どこか懐かしさもある。青影が鼻に手を当てる決めポーズも健在。おとな世代は、一杯やりながらの鑑賞もお薦めです。

今回ご紹介した作品

仮面の忍者 赤影

放送
テレビ朝日系にて毎週日曜24時10分~放送中
配信
TELASAにて配信中

情報は2025年11月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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