成馬零一さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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ガンニバル

2023/02/15公開

閉ざされた村社会の狂気を描くサイコスリラー

※(編集部注)文中に本編3話までのネタバレに関する表記があります。

 Disney+で配信されている『ガンニバル』は、ショッキングな場面が矢継ぎ早に登場するホラーテイストのサスペンスアクションドラマだ。

 物語は警察官の阿川大悟(柳楽優弥)が妻の有希(吉岡里帆)と娘のましろ(志水心音)といっしょに山奥にある供花村の駐在に赴任する場面から始まる。
 供花村は自然に囲まれた限界集落で、村人たちは大悟たちを優しく迎えてくれた。だが、赴任してすぐに、村を仕切る後藤家の当主・銀(倍賞美津子)の死体が発見される。
 死体の状態から、熊に襲われたと考えた後藤恵介(笠松将)たち後藤家の人間は猟銃を手に山狩りをおこなう。熊の胃袋から銀のメガネが出てきたことで死因は解明されたかに思えたが、大悟は銀の遺体にあった歯型の傷に違和感を覚える。

 その後、前任の駐在で現在は行方不明となっている警察官の狩野治(矢柴俊博)を探す狩野の娘・すみれ(北香耶)から、後藤家には昔からカニバリズム(食人俗)の風習があり、狩野は後藤の人間に殺されたのだと大悟は聞かされる。
 狩野を探すために後藤家に向かう大悟は、後藤家の人間と言い争い乱闘になった末に“あの人”と呼ばれる不気味な老人に鎌で額を斬られる。

 物語は後藤家の食人疑惑を皮切りに、供花村が抱える深い闇が描かれていく。怪しい村の因習に大悟たち家族が巻き込まれていく展開は不気味で生々しく、閉鎖的な村社会に感じる居心地の悪さに満ちている。

 原作は週刊漫画ゴラク(日本文芸社)で連載されていたニ宮正明の同名漫画。
 監督は映画『岬の兄弟』や『さがす』で知られる片山慎三が担当している。
『パラサイト』などで知られる韓国の映画監督・ポン・ジュノの助監督経験を持つ片山監督は、土臭い人間関係をダークかつユーモラスに描くことに定評がある。
 田舎の村社会の闇を描いた『ガンニバル』の物語は、監督の作風とうまくハマっており、禍々しい迫力が画面全体を覆っていて、目が離せない。

 ホラーを軸にしたヒューマンドラマが『ガンニバル』の魅力だが、同時に本作は、優れたガンアクションドラマでもある。

 地上波のテレビドラマでは難しい凄惨な暴力描写が展開されることも本作の大きな魅力だが、ただ描写が残酷なだけではなく、その背後にある銃に象徴される暴力に魅せられていく人間の心情に踏み込んでいるのが、本作の危険な魅力だ。

 物語序盤、銀の死因を疑う大悟は恵介たち後藤家の怒りを買い、猟銃を向けられる。大悟は拳銃に手をかけ、一触即発の状態となる。大悟が謝罪したことで後藤家の人間は冗談だといって猟銃を収める。
 銃口を向けられても堂々としている大悟には、警察ということを差し引いても、妙に肝が座っているところがある。彼は危機的状況に陥ればためらうことなく銃を撃つことができる人間なのではないかと感じた。
 その予感は、第3話で的中する。元々、大悟は刑事で、幼女を狙う性犯罪者の今野翼が娘のましろを自宅に監禁した際に、今野を銃殺した過去があったことが明らかになる。
 回想シーンでは刑事時代の大悟の姿が描かれる。犯人を容赦なく殴る大悟は「暴力警察官」とましろの作文に書かれる程で、彼もまた、後藤家の人間と同じか、それ以上に何か倫理観がおかしいのではないか? と、視聴者を不安にさせる。

 娘と妻を守る優しい父親でありながら、暴力の世界に魅入られている大悟の危うさを、柳楽優弥は見事に演じている。

 Netflixドラマ『浅草キッド』で、駆け出しの若手芸人だった頃のビートたけしを演じ高く評価された柳楽だが、『ガンニバル』の大悟は北野武(ビートたけし)が監督した『その男、凶暴につき』や『ソナチネ』といった映画で、たけし自身が演じた暴力的な刑事やヤクザの姿を彷彿とさせる。
 俳優としてのビートたけしには、暴力と死に取り憑かれた人間の持つ静かな狂気を演じることができる唯一無二の存在感があるのだが、柳楽が演じる大悟にも、同じ手触りを感じる。

 おそらく、タイトルの「ガンニバル」には、猟銃(ガン)で武装する後藤家の姿とカニバリズム(食人俗)、そしてカーニバル(祝祭)の3つの意味が重ねられているのだろう。
 同時に、後藤家の人間と銃撃戦や乱闘を平気で繰り広げる大悟を観ていると、ガンニバル(ガン+カーニバル)という言葉は、銃という暴力に取り憑かれた大悟の危うい精神状態を表しているようでもある。

 ホラーテイストで描かれる後藤家の住人や供花村の不穏な空気にはじめは目が行くが、警察官の大悟もまた、暴力に取り憑かれた怪物に見えてくるのが、本作の恐ろしさである。

今回ご紹介した作品

ガンニバル

ディズニープラス「スター」で独占配信中

情報は2023年2月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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