週刊通販生活トップページ  >  読み物:NPO法人APAST理事長、元原子炉格納容器設計技術者・後藤政志さんインタビュー

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「新規制基準の施行は拙速。徹底した事故原因の究明なくして原発の再稼働なんてありえません」

原発の安全基準を見直した新規制基準が、当初の予定より前倒しで施行され、原発再稼働に向けた動きが加速しています。原子力規制委員会の田中俊一委員長は「国際的にみてもきちんとした水準の基準ができた」と言っています。本当に基準さえ守れば原発は安全なのでしょうか。かつて東芝で原子炉格納容器の設計をしていた後藤政志さんに伺いました。●聞き手・構成/小林正樹(エディ・ワン) 撮影/坂本禎久

新規制基準は、再稼働を急ぐ小手先の対策。

――新規制基準の対策を施せば原発は本当に安全と言えるのでしょうか。

後藤 結論から言えば、安全性は確保できてないと思っています。
 これまで「重大事故は起きない」と対策を怠ってきたことを考えれば、新たな規制はしないよりはしたほうがマシ。でも、福島第一原発の詳細な事故原因が特定できていないのに、新たな規制基準を設けても、根本的な問題の解決にはなりません。同じようなシビアアクシデント(過酷事故)の再発は十分にありえます。
 国会事故調査委員会の報告では、津波が来る前に地震の揺れで、福島第一原発1号機の非常用復水器の配管が破損していた可能性が指摘されています。非常用復水器は、電源がなくても原子炉の蒸気を水に戻して、再び炉心を冷やす重要設備です。もし、地震による配管破損が事実なら、耐震基準を根本から見直す必要があるはずです。
 また、福島第一原発2号機の事故直後の3月16日頃、原子炉格納容器の圧力は40キロパスカル(※)だったのに、400キロパスカルと、実際より10倍も高く誤認し、冷却水の注入を大きく減らしました。そのため、冷却が不十分となり、炉心が溶け、放射性物質の放出が大幅に増えたわけです。数値の誤認という人為的なミスは問題ですが、人間はミスをすることがありうるので、重要な装置では、ひとつのミスで事故の進展を防ぐような仕組みになっていないことが問題なのです。
 原子炉の水位計が機能しなかったことや、原子炉の圧力を下げる「逃がし安全弁(SR弁)」が機能しなかった可能性、消火系から注水しようとしたが十分に水が入らなかった可能性などが指摘されていますが、十分な原因究明と対策がなされていません。
※キロパスカル=圧力の単位

――根本的な原因の究明を後回しにしたままでは、新規制基準は付け焼刃的な対策しかできないと。 後藤 原発の安全性は、多重防護・多層防護という考え方が基本です。たとえ安全装置の一つが働かなくなっても、他の装置が補って安全を確保できるよう設計をしているのが原発です。しかし、福島第一原発の事故では、地震や津波で同時に複数の安全装置が機能しなくなる「多重故障」を起こすことが明らかになりました。
 そんな原発設計の根幹が揺らぐ事故だったにも関わらず、事故原因を棚上げにし、さまざまな安全対策を付け足して事故を減らそうとしても、それはまやかしにすぎません。
 新規制規準では、「フィルター付きベント装置」の設置が義務付けられましたが、これも、格納容器の基本的な欠陥を取り繕う対策でしかありません。

安全確保には、格納容器の設計を見直す必要があります。

――格納容器の基本的な欠陥とはどういうことでしょうか。

後藤 国や電力会社は、日本の原発は事故が起きたときに放射性物質を閉じ込めるための格納容器があるから安全だと言っています。しかし、圧力容器からガスを排出する「ベント」を前提にした安全対策では、それを否定することにもなるのです。
 事故のときに、放射性物質を閉じ込めるはずの原子炉格納容器が破損しないよう、緊急処置的にガスを外に出すのが「格納容器ベント」です。たとえフィルターをつけたベントでも、希ガスなど除去できない放射性物質があります。矛盾していると思いませんか。過酷事故が起きたときの「最後の砦」と言われる格納容器から、わざわざ放射性物質をそのまま外に出すのですから。
 つまり、フィルターベントが安全対策の前提になっているということは、格納容器の設計そのものに問題があるということなのです。
 とくに事故を起こした福島第一原発の1号機〜4号機の沸騰水型軽水炉(BWR)のマークⅠと呼ばれるタイプは、加圧水型軽水炉(PWR)に比べて、開発当初から格納容器が小さすぎることが指摘されていました。沸騰水型の格納容器内には窒素が充填されています。万一、炉心溶融して水素が出ても酸素がないので水素爆発が起こらないようにしているのです。しかし、格納容器が小さいために、大量に水素が出ると格納容器の圧力が上がってしまうのです。
 沸騰水型には、ほかにも問題あります。それが「スロッシング」です。マークⅠの特徴ともいえる装置に格納容器の下部をぐるっと一周ドーナツのように取り囲んでいる「圧力抑制プール」があります。炉心溶融が起きたときに、格納容器の高圧蒸気を配管を通してプールの水に流し込むことで、圧力を下げる装置なのですが、地震によってプール内の水面が大きく波打つスロッシングが起きると、配管が水面から上に出てしまい圧力が下がらないといった危険が考えられます。
 そんな問題を抱えた沸騰水型軽水炉が全国54基の原子炉のうち、約半数を占めているというわけです。

――もうひとつのタイプの加圧水型軽水炉には設計上の問題はないのでしょうか。

後藤 加圧水型にも問題があります。沸騰水型が格納器内を窒素が満たしているのに対して、加圧水型の格納容器の中は空気だけです。そのため、炉心溶融で水素が大量に出て容器内の空気に反応すると水素爆発を起こす可能性が高いのです。水素を処理する装置を取り付けているプラントもありますが、窒素封入している沸騰水型に比べると、水素爆発の危険性ははるかに高いことになります。
 ほかにも加圧水型には設計上のさまざまな問題があります。しかし、新規制基準では、フィルター付きベント装置や中央制御室の代替施設となる緊急時制御室などの設置までに、5年の猶予を認めています。まるで福島第一原発で事故を起こした沸騰水型より、「加圧水型は安全だから、再稼働しても大丈夫です」と言わんばかりの対策ですね。また国民をだまして原発の“安全神話”を再構築しようとしているとしか思えません。
 発生する可能性が小さくても大規模な事故につながる可能性は確実に存在します。猶予期間を設けて原発を再稼働するのは、故障した航空機をそのまま飛ばすのと全く同じなのです。
 技術は失敗を乗り越えて発展するもの。困難があればあるほど、技術者は挑戦を続けて新しいモノが生まれます。ただし、原発だけは失敗が許されない技術なのです。もし過酷事故を何度も起こし、その都度場当たり的な安全対策を施していては、最終的に日本は人が住めない土地になってしまうでしょう。

後藤政志(ごとう・まさし)1949年、東京都生まれ。工学博士。広島大学工学部船舶工学科卒業後、旧三井海洋開発に入り船舶・海洋構造物の設計を手がける。89年、東芝に入社し、原子炉格納容器の設計技術者となる。09年、同社を退社。現在、芝浦工業大学、國學院大学、明治大学などで非常勤講師を務める。著書『「原発をつくった」から言えること』(クレヨンハウス)、共著に『福島原発事故はなぜ起きたか』(藤原書店)などがある。NPO法人APAST理事長。

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