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ピースボート共同代表・川崎哲さんインタビュー「日本の原発で、アボリジニの暮しが脅かされる。原発の議論には国際的な視点が必要です」

福島第一原発で使われていたウランの一部は、オーストラリアから輸入されていました。原発再稼働や輸出が取りざたされていますが、そもそもウランの採掘現場では何が起きているのでしょう? 2013年3月、オーストラリアを視察してきた川崎哲さんに伺いました。●聞き手・構成/越膳綾子(フリーライター) 撮影/大倉琢夫

ウラン産出国の人たちが「申し訳ない」と謝罪。

――オーストラリアは世界一のウラン埋蔵国で、日本の原発の燃料の主たる輸入元でもありました。福島第一原発の燃料にも、オーストラリア産のウランが使われていたそうですね。

川崎 原発事故後、オーストラリア政府は福島第一原発で自国のウランが使われていたことを認めています。採掘事業には、日本企業も出資しています。原発を通して、日本とオーストラリアは非常に密接に関わっています。

――オーストラリアの人たちにとって、今の日本はどう見えているのでしょうか。

川崎 意外に思われるかもしれませんが、私はこれまで何度も「申し訳ない」という言葉を掛けられました。オーストラリアで採掘されたウランが福島第一原発に使われ、これほど悲惨な事故が起きたことを心からお詫びするというのです。現地で環境や平和の活動をしている人はもちろん、国会議員からもそうした声を聞きました。オーストラリア北部の「カカドゥ国立公園」内には、レンジャー鉱山という地域があります。ここの伝統的土地所有者で先住民のイボンヌ・マルガルラさんは、3・11を受けて国連事務総長に1通の手紙を送りました。原発事故の被害に遭った日本人に、深い同情と悲しみを綴った手紙です。

――これほど遠く離れている国なのに、責任を感じてくれているのですね。

川崎 最初は私も単純に「ありがたい」と思っていました。でも、歴史をひも解いていくと、もっと根深い問題があることがわかります。イボンヌさんの父・トビー・ガンガーレさんは、レンジャー鉱山の開発に反対していましたが、長い交渉と圧力の末、ウラン採掘を許可する協定に署名しました。その時の映像が残っているのですが、オーストラリア政府はトビーさんらに「問題は採掘するかしないかではない、『いつするか』だ。すでに日本政府と合意を結んでいる」と迫りました。70年代のことです。当時の田中角栄首相は、日本の原発産業を発展させていくビジョンを描いていました。

――アボリジニ(オーストラリア先住民)の人たちの意思とは関係なく、2国の政府同士で合意をつくっていたのですね。

川崎 そうです。トビーさんらには多額の補償金が支払われましたが、それは先住民の伝統的な社会を壊していきました。トビーさんが他界した後、娘のイボンヌさんが大きな運動を組織し、鉱山開発を中止に追い込みましたが、現地に残した爪痕は深刻なものでした。掘り出されたウランは選鉱され、利用されないカスは鉱滓(こうざい)ダムに堆積されますが、大雨が降ればダムが決壊し周辺の川や湿地を汚染します。そういった地域で、地元の先住民たちは釣りをしています。放射性物質を含むさまざまな毒性物質が、地元の人たちに健康上の危害を加えているのです。

――日本の原発を動かすために、アボリジニの人たちの暮しが破壊されていたのですね……。むしろこちら側から謝らないといけないようにも思えます。川崎さんは、今年3月、飯舘村の酪農家・長谷川健一さん夫妻とオーストラリアに行き、現地の方々と交流されてきたそうですね。

川崎 長谷川さんの講演活動でシドニーやブリスベン、キャンベラなどを回り、イボンヌさんとも面会しました。長谷川さんとイボンヌさんは、代々守ってきた土地を、子や孫に残せない苦しさについて共感していたようです。カカドゥ国立公園には、今も2万年前の壁画が残されています。ウラン鉱山の周囲は、「シックネスカントリー」(病の土地)と呼ばれていた地域があります。掘り返すと「怒りが起きる」という言い伝えのもと、アボリジニの人たちは手をつけずにきました。それが原発のために開発されたのです。長谷川さんは原発によって、飯舘村という大切な故郷を次の世代に渡せなくなりました。福島もオーストラリアも、地元の人は同じような苦しみを強いられています。  日本国内を見ると、東京の電力のために福島を犠牲にしてきたという問題がありますが、もっと広い観点に立つと、日本の経済成長のためにずっとオーストラリアの人々を犠牲にしてきているのです。

ウラン産業で働く人はチーズ産業より少ない?

――しかし、日本の原発によって、オーストラリアが被害を受けていることを重要視している人はあまり多くはなさそうです。

川崎 あれだけの事故があっても、原発の燃料となるウランがどこから来たかは、ほとんど話題になっていません。まして原発事故以前は、もっとそうでした。2011年2月、ピースボートのクルーズでは、船の中で「グローバル・ヒバクシャ・フォーラム」を開催しました。広島・長崎の経験のある日本、フランスの核実験で被害を受けたタヒチ、そしてウラン鉱山を抱えるオーストラリアの3ヵ国の人々が、一緒に核問題について語り合う会議です。  その際、オーストラリアで反ウラン活動をしている女性歌手のデラ・レイ・モリソンさんは「日本が原発を動かし続ける限り、我々の土地が汚され、暮しが脅かされる。これ以上の原発運転はやめて欲しい」と非常にストレートに訴えました。すると乗客の中から挙手があり、「あなたたちの言うことはわかった。でも日本は資源がなく、原子力以外に道はない。皆さんの苦労は補償金を払うことで解決できる。どうすればそれを受け入れてくれるのか」と。

――お金で解決、と言うとひどく冷酷に聞こえますが、おそらく3・11前のごく一般的な感覚だったのでしょうね。

川崎 800〜1000人の乗客が集まるピースボートは、日本の縮図といってもいい状態です。さまざまな職業の人が乗っていて、原子力産業で働いている人も少なくありません。乗客同士のディベートでは、元原発技術者だった人が「日本の原発は安全で、放射能をコントロールできる」と断言していました。しかし、こうして原発事故が起き、ウランを供給しているオーストラリアから謝罪までされている今、私たちは原発をどうするのか。一国のエネルギー需給の問題だけでなく、国際的な視野で議論する必要があります。

――日本の原発産業は雇用や経済の基盤となっているために、なかなか状況が変わりません。特に、立地自治体における経済効果は大きいとされていますが、オーストラリアでもそうなのでしょうか。

川崎 いいえ、オーストラリアの経済に占めるウラン産業の割合は、決して大きくありません。ウラン輸出高は、同国の総輸出の0・3%以下。もっとも輸出の多い鉄鉱に比べ100分の1以下です。雇用創出の効果も限定的で、主要な鉱山で数百人程度、オーストラリア全土では多く見積もっても2000人に満たず、全労働人口の0・01パーセント程度です。そこで働いているアボリジニの人たちもいますが、アボリジニ3000人に1人という割合に過ぎません。ガス資源にも恵まれ、原発を持たずとも、エネルギーは供給できています。オーストラリアの友人は「ウラン輸出高はチーズ輸出と同程度だ。増やすならチーズを増やせばよい」と言っていました。

――日本を含む海外からの需要がなければ、ウラン採掘をやめられる可能性があるのでしょうか。

川崎 これまで日本は国家のバックアップのもと、54基もの原発を保持してきました。相当数のウランをオーストラリアから輸入していたわけですが、もし日本が原発をやめる選択をすれば、オーストラリアも変わる可能性は十分にあります。ただ、オーストラリアはこれまで、政権が変わるたびにウランの採掘・輸出を規制したり推進したりを繰り返してきました。現政権は労働党ですが、残念ながら推進する流れにあります。

――新たにウラン採掘を始めるということでしょうか。

川崎 前述したカカドゥ国立公園は、約200万ヘクタールにも及ぶ非常に広大な面積で、レンジャー鉱山のほかクンガラとジャビルカという2ヵ所のウラン開発区を抱えています。公園全体が世界遺産に指定されているのですが、採掘のためにウラン開発区のみ除外されています。クンガラ鉱区の採掘権を持つフランス企業は、伝統的土地所有者のジェフリー・リーさんに、多額の補償金を示して採掘許可を求めてきました。しかし、ジェフリーさんはお金よりも代々伝えられてきた大地を選び、世界遺産への編入を求めて認められました。こうして、クンガラでのウラン開発は中止となりました。レンジャー鉱山の採掘は既に終了しています。しかし、政府はウランの採掘や輸出を強化する方針を出していますので、安心はできません。

オーストラリアが インドへウランを輸出。

――どうして、輸出を強化するのでしょう?

川崎 一つはインドの問題です。経済発展が著しいインドでは、電力需要の増加に伴い原発の拡大を図っています。日本政府は、インドに原発を輸出するビジネスのために、原子力協定の交渉を進めていますね。同じようにオーストラリアではウランの輸出を開始しようとしているのです。しかし、インドはNPT(核拡散防止条約)に加盟していません。国際ルールから外れて核兵器を開発しているのです。そのインドにウランや原発施設を輸出してしまっては、核兵器に転用される可能性が非常に高い。このようなことは国際的安全保障の観点からもおかしいと批判の声を上げている国も少なくありません。

――日本が原発を動かすために輸入していたウランが、核兵器にもつながる。国際的な視点に立つと、問題の根深さがよく見えます。

川崎 福島第一原発からは、大量の汚染水が海に流出して、世界に広がりましたね。世界的な海洋資源の安全性にも関わっています。今、世界は日本が原発をどうしていくのか、非常に注目しています。私が長谷川さんとオーストラリアに行ったとき、彼の講演を聞きに集まった市民も日本の状況をよく知っていて「日本の首相は原発を再稼働させようとしているのか?」などさまざまな質問がありました。

――日本国内では、原発の行方についての議論が下火になりつつあります。このまま「過去のこと」として風化させないよう、一人ひとりが意識しなくてはならないですね。

川崎 震災直前の「グローバル・ヒバクシャ・フォーラム」で印象的だったことがあります。日本人は、広島・長崎の経験を忘れないようにと「過去の継承」という視点から発言していました。一方、タヒチとオーストラリアの人たちは「未来の被ばく被害をどう防ぐか」を重視していました。「広島や長崎は、原爆による放射能をどうやって洗い流したのか?」という質問も出ていました。これはおそらく、日本人の多くがあまり意識していなかった点です。しかし、3・11が起きて現実的に向き合うテーマになりました。今後、私たちは原発を再稼働したり、インドに輸出したりして責任を取れるのでしょうか。日本が世界の中でどんな立ち位置にあるかを踏まえ、真剣に考えるべき時期を迎えています。

川崎哲(かわさき・あきら)1968年、東京都生まれ。東京大学法学部卒業後、障害者介助の傍ら、市民グループで平和活動や外国人労働者・ホームレスの人権活動に携わる。2003年よりピースボート・スタッフ。2008年から広島・長崎の被ばく者と世界を回る「ヒバクシャ地球一周 証言の航海」プロジェクトを実施。2009〜10年、日豪両政府主導の「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会」でNGOアドバイザーを務めた。著書に『核拡散』(岩波新書)など。核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)共同代表。恵泉女学園大学非常勤講師。

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