朝8時の疑問 アメリカ人は本質的に死を恐れない…

トランプ支持者はこの後もずっとマスクをしないのか?

line
twitter
facebook

1月6日に起きたアメリカ連邦議会議事堂への襲撃事件。衝撃的な事件でしたが、乱入したトランプ支持者のほとんどがマスクをしていなかったことにも驚きました。アメリカは、今も新型コロナウイルスが猛威を振るっているはずなのに……。アメリカ在住で、トランプ陣営の集会を多く取材した町山智浩さんに伺いました。

私はこう考える

町山智浩さん

前編

1

アメリカの
新型コロナウイルスによる
死者数は45万人。
これは第二次世界大戦
での戦死者数を
すでに上回っています。

 アメリカでは新型コロナウイルス感染症による死者が45万人を超えています。すでに第二次世界大戦での戦死者数を上回り、このままいけば南北戦争での戦死者数60万人に達するのは時間の問題です。建国以来最大の惨事になっているのです。日本のテレビなどを見ていると、アメリカ国民の危機感は比べものにならないくらい強いと思います。
 ニューヨークで多くの死者が出たのは地下鉄が感染源になったからです。今では通勤ラッシュは危険なので、皆、出勤しません。私の住むカリフォルニア州でも、昨年のロックダウン以降、金融やIT関係など、自宅でできる仕事の人は1年以上、在宅勤務が続いています。
 飲食店は「室内での飲食全面禁止」です。小売店も店内に入れる人数を定員の10~15%程度に制限しています。カリフォルニア州ではマスクをしない人は店に入れません。

2

メインメディアの報道を
「フェイクニュース」と
断じた結果、
根拠のない陰謀論を
アメリカ人の17%が
信じているのです。

 昨年の大統領選挙期間中、私は多くのトランプ支持者にインタビューをしましたが、こんな状況にも関わらず、ほとんどの人がマスクをしていませんでした。とくに「Qアノン」と呼ばれる狂信的なトランプ支持者たちは「コロナはただの風邪だ」と言っていました。
「Qアノン」は、「匿名Q」を名乗るインターネット掲示板の書き込みから始まった陰謀論者たちのことです。彼らは「トランプはディープステートという闇の帝国と戦う救世主だ」という根拠のない陰謀論を信じています。
「ディープステート」とは、「アメリカのリベラル・エリートと人権運動家とユダヤの国際資本と中国共産党と小児性愛者と人身売買組織と悪魔崇拝者が手を組んだ同盟」だと言います。
 もう、むちゃくちゃです。この陰謀論の原形は、中世ヨーロッパで発生したユダヤ人陰謀論で歴史が古い。最終的にはホロコーストにつながった非常に危険な考え方です。
 普通ならバカバカしいと思うはずですが、米・公共ラジオ局NPRの調べでは、アメリカ人の17%がQアノンの主張を信じていると報じられました。
 こうした陰謀論が信じられる大きな理由がメディア環境です。アメリカの場合、日本の新聞やテレビのように全国をカバーするメディアの影響力がそこまで強くありません。
 さらに、トランプ前大統領はCNNなどのメインメディアの報道を「フェイクニュース(嘘のニュース)」と断じて、自身のTwitter(ツイッター)での発信だけが正しいと繰り返しました。それにより、トランプ支持者はメインメディアのニュースを一切見なくなったのです。

3

トランプ前大統領の
ツイッターでの発信は、
日本で言えば、
終戦時の玉音放送に
匹敵するほどの
影響力を持っていました。

 今までは、どんな大統領が出てきても、メインメディアが政府権力の欺瞞や不都合な事実を暴いてきました。今回も、メインメディアはトランプ前大統領のスキャンダルをたくさん暴きました。しかし、トランプの熱烈な支持者はメインメディアを全く見ないように「教育」されてしまったため、支持率が大きく下がることはありませんでした。
 一方で、トランプ前大統領がQアノンの主張する陰謀論をすくい取り、「不正選挙が行われた」とツイッターで書くと、数百万人が情報を拡散しました。そこに極右的なテレビやカルト宗教団体が発行する新聞も加勢しました。トランプ前大統領や弁護団が公式の場でアナウンスしたことにより、メインメディアを見なくなった人たちにとって「不正選挙」は「完全な事実」として認識されてしまったのです。
 これは「エコーチェンバー現象」と呼ばれますが、自分の信じる情報以外に全く接しないことで、特定の信念が強化されていきます。自分が興味を持ったものがどんどん上位に上がってくるインターネット検索の仕組みも陰謀論を増幅させています。
 こうしてトランプ前大統領のツイッターでの発信は、日本で言えば、終戦時の玉音放送に匹敵するほどの影響力を持ってしまったのです。
 もう一つは宗教的な背景です。アメリカの人口の約25%は、「人工中絶反対」などを訴えるキリスト教福音派の人たちで、その多くがトランプ前大統領を支持しています。トランプ前大統領は彼らが歓迎する保守派の最高裁判事を選ぶことで政策を実現しようとしました。
 私が取材したQアノンの人たちも、ほとんどがキリスト教福音派でした。彼らは異教徒に対する恐怖心が非常に強い。ありえない陰謀論を信じてしまうのは、恐怖心の裏返しだと感じます。

まちやま・ともひろ●映画評論家。
1962年東京生まれ。宝島社を経て、洋泉社にて『映画秘宝』を創刊。現在は、カリフォルニア州バークレーに在住。「週刊文春」などでコラム連載。近著に、『トランピストはマスクをしない―コロナとデモでカオスのアメリカ現地報告』(文藝春秋)。


構成:畠山理仁
イラスト:エムキュウデザイン
写真提供:ゲッティ/共同通信イメージズ

町山さんには次週、トランプ前大統領やその支持者が今後どうなっていくかお話を伺います。3月2日(火)更新予定です。

朝8時の疑問目次へ