朝8時の疑問 アメリカ人は本質的に死を恐れない…

トランプ支持者はこの後もずっとマスクをしないのか?

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1月6日に起きたアメリカ連邦議会議事堂への襲撃事件。衝撃的な事件でしたが、乱入したトランプ支持者のほとんどがマスクをしていなかったことにも驚きました。アメリカは、今も新型コロナウイルスが猛威を振るっているはずなのに……。アメリカ政治にも精通する国際政治学者の三浦瑠麗さんに伺いました。

私はこう考える

三浦瑠麗さん

後編

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経済政策も
ワクチン接種も、
トランプ政権の
新型コロナ
ウイルスへの対策は、
概ね適切でした。

 トランプが個人として Twitterのアカウントで発したメッセージは間違ったものが多いのですが、コロナ禍におけるトランプ政権の政策自体は概ね適切だったと考えています。
 政府と議会が合意した経済対策は日本よりもスピーディーだし、合理的で量も多かった。失業した人に対する給付は雇用保険で大盤振る舞いされています。連邦政府はできる限りのことをしたと思います。
 ワクチン接種も、1月の政権移行までに2000万人弱が1回目の接種を受けています。トランプ政権時代のワクチンオペレーションは効果的かつ迅速だったと言えるでしょう。
 そもそも、新型コロナ感染症対策に関しては、各国の成績が異なる文脈で切り取られ比較されがちです。ウイルスに対して完全に無防備で臨む国はありませんから、政策の差によって結果はあまり変わらなかった可能性が高い。100万人当たりの死者数を世界的に見ると地域差がいちばん大きく、それ以外は高齢化率と人口密度でほとんどが説明できます。
 アフリカで死者が少ないのは圧倒的に高齢者が少ないから。日本でも、東京都と島根県では過疎か過密かの違いがあります。それを同一に比較するのは非科学的な態度です。私たちは新型コロナウイルスに対して、「あの政策に効果があった」と立証できる段階にはまだ到達していません。
 現段階で我々ができる最大の対策は、石鹸で手を洗い、マスクを適切に使用することです。過剰に恐れることも、全く恐れないことも、どちらも賢明ではありません。

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アメリカでは
マスクがただの
マスクではなく、
「思想信条の表明
としてのマスク」
になっている。

 トランプ前大統領に関する評価は、経済政策と社会政策では異なります。例えば、中絶を禁止する州法が合憲になるとすれば、それはトランプ政権のせいであり、私は強く異議を唱えたい。他方で、彼が減税と積極的な財政出動を組み合わせ、共和党の経済政策を「小さな政府」から中道へと転換させたことは評価しています。税制改革ではグローバル企業と国内企業との公平性を主張し、法人減税で経済成長に貢献したほか、所得減税と控除では中間層や子育て世代も受益した。
 ところが、アメリカのメディアはあまりに党派的なので、もはや冷静かつ客観的に分析できる環境ではありません。トランプが今でも共和党内で高い支持を得ていることは事実ですが、それが理解できないのであれば、触れる情報が偏っているのでしょう。
 今、アメリカでは二つの大きな流れが起きていると思います。一つ目は、陰謀論や反エスタブリッシュメント感情が左右両方から吹き出してくる流れです。
 世の中が自分の思ったものと違う場合、人は過剰に合理性を見出そうとします。そして陰謀論を発見する。過剰合理性は、陰謀論以外にも、過激な問題解決志向を生みます。例えば「マスクの政治化」。もはやマスクはただのマスクではなく「思想信条の表明としてのマスク」なのです。だから乳幼児に無理やりマスクをさせるなどの不合理が罷り通る。
 ここまで陰謀論が浸透すると、社会はすぐに元には戻れません。そうした人たちが社会に一定数存在することを前提とし、それ以外の人たちが建設的な政治をする必要があると考えています。
 もう一つの大きな流れは、アメリカ政治の分断が変化していることです。アメリカ政治の分断は、年々イデオロギー的、しかも社会的価値観をめぐる対立になってきています。
 トランプ現象の本質とは、経済的な価値観の対立よりも社会的な価値観の対立を前面に打ち出したことです。経済的には中道に軸足を移す代わり、社会的分断を煽る。しかも、社会的分断の拡大自体はトランプが始めたことですらありません。こうした価値観の対立は、「足して2で割れない」。そういう時代に入ってしまったからには、トランプに関係なく、左右の分断は続きます。
 本来は、もっと経済政策の「実利」で妥協できるところがあるはずなのですが、政治的主張の「象徴」にこだわるから妥協できなくなる。アメリカ政治の不毛な部分です。
 根深い人種問題も、治安と住環境を改善し、経済的待遇を同等に近づければ、徐々に変わるはずです。治安や最低賃金などの「実利」では折り合う方向を探ってほしい。
「実利」には進歩への希望があります。折り合えないところは、折り合えないことを認める。そうすれば、少なくとも民主主義を維持しながら共生できるはずです。

みうら・るり●国際政治学者
1980年、神奈川県生まれ。東京大学政策ビジョン研究センター講師を経て、山猫総合研究所代表。近著に『日本の分断―私たちの民主主義の未来について』(文春新書)。


構成:畠山理仁
イラスト:エムキュウデザイン
写真提供:Paul Hennessy/SOPA Images via ZUMA Wire/共同通信イメージズ

今回の特集はこれで終了になります。どうもありがとうございました。今後の読み物にもご期待ください。

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