留守中に棚や浴槽にかくれる夫
三十歳の主婦です。夫は三十五歳。三歳と二歳の女の子がいます。私たちはよく家の中でかくれんぼをします。今では夫のほうが夢中になってしまって、私と子どもが買い物に出たスキにかくれてしまいます。タンスや押し入れはいいのですが、棚の上にいたときはびっくりしました。そして、先月は沸かしておいたおフロの湯を全部流して浴槽の中にかくれていました。今に冷蔵庫の中身を全部出されたりするのではないか、とおちおち外出もできません。
(横浜市・京子)
これはお父さんもたいへんでしょうね。家族が帰ってくるまでの長い時間を浴槽の中でひたすら耐えるのはつらいと思います。ほんの買い物のつもりが、ついでに実家へ寄って、みたいなことになった場合、お父さんはどうするつもりなのでしょうか。
ここはひとつ提案ですが、ただひたすらかくれているだけでなく、ついでに何かの用事をしてもらう、というのはどうでしょうか。
床下にもぐる場合は白アリのチェックをする。天井にひそむ場合は配線の点検、ネズミの巣の有無などを調べる。タンス、押し入れの中では衣服の虫食い状況を調べ、浴槽、トイレに入るときにはただひたすらキュッキュとみがいてもらいます。
家中クリーンになったころには、お父さんもかくれんぼは二度とごめんだ、という気になっているでしょう。
まあ、こうしてゲームで楽しんでいるうちはまだ罪がないのですが、もっと恐ろしい場合も想定できます。前に「宗教戦争」というコントを書いたのですが、これは家族全員がてんでの信仰を始めたために家の中が宗教戦争のゲリラ戦になっているわけです。
会社から帰ったお父さんが玄関でハッと気づくと、たたきのところにマリア様の像がしかけてある(お父さんはキリスト教なのです)。床下格納庫にひそむ仏教徒の妻。冷蔵庫の中で荒行にはげむ密教の息子。かもいから襲いかかるゾロアスター教のおじいちゃん。
荒唐無稽だと笑いとばすのもけっこうですが、現実に家族全員が精神的に「かくれんぼ」している家だってあるんじゃないでしょうか。
中島らも『明るい悩み相談室』シリーズ(朝日文庫)より転載 イラスト/死後くん
家の中でかくれんぼが出来るって相当広い家を想像してしまうけれど、隠れ場所を見つけてじっと隠れているお父さんを想像するとかなり可笑しい。ぼくも多摩美術大学時代、四畳半のアパートに友達が訪ねてくる日【たばこを買いに行ってます】って置き手紙をテーブルに置いてよく押し入れに隠れていたな…。そして頃合いを見計らい「わぁー!」と障子を開けて出てくる。懐かしいなあの頃…。らもさんのお答えは想像を超えて凄まじい!