相談2

見た数字すべて計算する変なクセ

 私は二年ほど前から、数字をたしたりかけたするという変なクセがついてしまったんです。ホテルのルームナンバーが「2157」とすると「2+1+5+7=15」とか、テレビの画面に出ている時間を七時二十分だとすると「7×20=140」とか、六時四十八分だとすると「6×4+8=32」とかにしてしまうのです。本、新聞などの字もすべて計算してしまうのです。どうしてこんなことになったのか。らもさん、どうかお慈悲を。

(大阪・数学天国一度はおいで・17歳)

らもさんの回答

 たとえば化学というものが魔術のひとつである錬金術から発達してきたように、数学もまた神聖な真理に近づくための哲学的な追究の一端として発達してきたのです。数字のひとつひとつには「数霊」があって、この世の運行に力をふるっている、というのが古代人の考え方です。

 この考え方は現代にもはっきりと跡を残していて、数字や画数で占いをたてるものがたくさんあります。また、八卦(はっけ)などの占いも根本原理は統計学です。病院やホテルの部屋番号には「4」「9」「13」などの数字が巧妙に省かれていますが、これも数字には神秘な力が秘められているという考えのあらわれです。

 数字が我々の生活に大きな影響を及ぼしていることの一番わかりやすい例というのは「十進法」です。経済活動や流通がこの「十」を単位として動いており、値引きをさせるのにも「端数を切ってキリのいいところで」みたいな交渉をします。世の中が十進法で動いているのは、人間の指が十本あるからです。旧石器時代の人は、たとえば魚を獲ってきて自分の家族に一匹ずつ与えるのに、指を介して人と物とを対応させました。「数の概念」がそこで誕生するわけですが、それは当然指を基本にした十進法です。もし人間の指がカニのツメのようなものだったら、世界は二進法で進んでいたはずです。

 アラビア数字は本来はインドの数字なのですが、計算をするのにたいへん便利な構造なので、アラビアからヨーロッパに広められました。そんな文字ですから、つい計算してしまうのもあたりまえです。将来、ぼけ防止に役立つと思います。

中島らも『明るい悩み相談室』シリーズ(朝日文庫)より転載 イラスト/死後くん

川上さんより

もし今、らもさんが同じ相談室を開いたら、どんな相談が来るのかなと、いろいろ考えました。わからなかったです。でも、どんな相談がきても、きっとらもさんならば時代を超えてすてきな解答をしてくれるのだろうなと確信しています。今読むと、これはモラル的にアウトというような相談に対しても、らもさんはいつも真摯に、公平に、そしてペーソスとユーモアをもって、答えているからです。
 この相談と解答にも、わたしは救われました。実はわたしも数字を見るとつい計算してしまうタイプ。数霊。絶妙な言葉でした。