全身赤ずくめの母に戦々恐々
赤に魅せられた母のことでございます。私の母は五十八歳という年齢にかかわらず、最近“赤”に凝り出しまして、まっ赤なセーターのときはまあまあと許しましたが、次にワンピース。悪友たちがよく似合うとか、すてきとかおだてるものですから、ますますエスカレート。ついにはコートと靴。この格好で町へ出られたら、と思うと戦々恐々です。「まるでダルマかポスト」とかいってもいっこうにこたえないようです。よきアドバイスを......
(吹田市・青子・?歳)
以前、別の雑誌でもらった投書の中に、「“ミドリのおばさん”を発見した!」というのがありました。
克明なイラスト入りで送られてきたのですが、その子が通学途上でよく会うおばさんらしくて、帽子から靴の先まで、とにかく全部グリーンなんだそうです。
学生たちのあいだでは、この人を「本家・ミドリのおばさん」と呼んで、すれちがうたびに必死で笑いをこらえているそうです。
僕はファッションにはウトいのですが、単色系の、それも原色で全身をコーディネートするというのは素人にはほとんど至難の業だということを、プロの人から聞いたことがあります。ただ、それとは逆に、原色系の色は年をとってからこそオシャレに着るべきで、若いうちは渋めにおさえたほうがいい、というのも通説のようです。
しかし、あまり赤ずくめで歩いていると牛に追っかけられる危険性も(住んでるところによっては)ありますから、持久戦で「その下はレンガ色のセーターの方がシックよ」と徐々にカラー調整していきましょう。
ただ、僕が残念なのは、これであと「黄色のおばさん」が出ると、みごとな「人間交通信号」が見られるのに、ということです。
あるいは、アナタが全身青ずくめでお母さんの後ろをピタッと歩き、「本邦初!!立体メガネで見る『飛び出す母娘』!!」なんてのも面白そうですね。
中島らも『明るい悩み相談室』シリーズ(朝日文庫)より転載 イラスト/死後くん
これを読んで思い出したのだが、かくいう私も中学生の頃、全身緑色の恰好をしていた。学年カラーが緑色だったというだけの理由で。同級生たちと六甲山へ遊びに行き、山頂で、当時凝っていたオカリナを演奏してみんなに聞かせるなどしていたが、そんな山の妖精のようないでたちで出かける娘を、父はとがめることはなかった。その代わり、全身赤ずくめで「飛び出す父娘!!」サポートをしてくれることももちろんなかった。