名物おじさんと引きあう私たち姉妹
私の故郷には、帯屋町という商店街を叫びながら走り抜けていく「帯屋町太郎」がいます。私は必ず出会います。まだ一度も出会ったことがない友だちとためしに一緒に出かけたら「帯屋町太郎」にバッタリ。友だちは初めての出会いに大喜びでした。ところで私の妹も必ず出会うらしいのですが、私と妹で出かけると、出会うどころではなく、声をかけられたり手を振ってくれたり。おかげで大注目をあびます。私たち姉妹となにか引きあう力があるのでしょうか。
(高松市・帯屋町花子・26歳)
引きあう力、あるのでしょうね。我が身を振り返っても、それは断言できます。ほかの人より明らかに高い確率で変わった人、物、事件などに出会っていると思えるからです。そのおかげで随分トクをしたような気もします。
たとえば今年ケニアに行ったときには、マサイマラ動物保護区で、大阪府ぐらいの広さの公園の中に五頭しかいないと言われているサイの親子に会うことができました。地元の人でもめったに見られないそうです。初めてのアフリカで、しかもサファリに行ったのは滞在中二時間だけですから、確率的にいうとたいへんな数字になるでしょう。
おかげさまで各地の名物男にもいろいろ会うことができました。千葉県の中小企業の社長なのに、突如ロンドンブーツに金髪のヘビメタに変身する「千葉のジャガー」さん。大阪で噂の、振り袖を着て「三代目坂本龍馬」のタスキをかけたおじいさん。自分が変人であるのを人にわかってもらうために頭頂部をカッパ型に剃り上げた出版社社長etc。
しかし、なんと言っても強烈に印象に残っているのは佐賀県は唐津名物のあの人です。
十年ほど前のことですが、夕方近く、友人と唐津城を見物に行きました。城内で、由来を書いた立て札を読んでいて、ふと横を見ると、そこに顔を白塗りにしてチョンマゲを結い羽織はかま姿の「お武家さま」が立っていたのです。生まれてこの方、あのときほど度肝を抜かれたことはありません。お武家さまは僕の顔を見るなり、「さてこの唐津城は」と説明を始めました。後で聞くと、この人は地元の名物おじさんで、本職は植木屋さんかなにかでヒマなときにはこうしてボランティアで解説をしてくれるのだそうです。
あなたも僕と同縁の人、これからもっといっぱい面白い人に会えますよ。
中島らも『明るい悩み相談室』シリーズ(朝日文庫)より転載 イラスト/死後くん
私も「面白い人や物事に出会う」ことを宝物のように思っている。父はこの『明るい悩み相談室』の連載中、送られてくる相談ハガキを一枚一枚読み、面白い相談が出てくると、嬉しそうにファイリングして鞄に入れ、大事に持ち歩いていたそうだ。自分の中の想像力を広げてくれる面白い人々がこの先どれくらい待ち構えているのかと思うと、好奇心とワクワク感があふれだしてくる。そんな気持ちを改めて思い起こさせてくれる傑作だと思う。