焼きじゃがみそ
食べると死ぬ?
以前、祖母から「じゃがいもを焼いてみそをつけて食べると死ぬ」と聞いたことがあります。私が「そんなこと迷信にきまってる」と言うと、ばあちゃんは「本当の話やぞ。自分で食べてみろ」と真剣な顔でおどすのです。私は「よし食べてやる」といいながらなぜか食べることができませんでした。ほんとに死ぬのかどうか知らないまま私は死にたくありません。
(尼崎市・勇気のない母・29歳)
この場合、迷信というよりおばあちゃんのおっしゃることが正しい。「焼きじゃがいもにみそをつけて食べると死ぬ」というのはほんとうです。くわしい統計は出ていませんが、「焼きじゃがいもにみそをつけて食べた」ことによる死亡率は、今やがんを抜いて日本人の死亡率の何割かに達しているという説もあります。
僕の友人の医者の話ですが、先日往診にいったときにもやはりその実例をみたそうです。患者さんは今年九十八歳になるおじいさんなのですが、友人が診たときにはすでにご臨終でした。亡くなる前にひとこと、「おのれ、あのとき、わしが十二のときに焼きじゃがいもにみそをつけて食いさえせなんだら死なずにすんだものを」と言い残して逝去されたそうです。
これを見ても「焼きじゃがいもにみそをつけて食べると死ぬ」ということがよくわかりますね。
このほか「月夜に、カニにマヨネーズをつけて食うと死ぬ」「らっきょうを六つ一度に口に入れると死ぬ」「豆腐にソースをかけるとまずい」などの言葉があって、どれもうなずけるものばかりです。とにかく気をつけてください。「健康のためなら死んでもいい」気で健康管理しましょう。
中島らも『明るい悩み相談室』シリーズ(朝日文庫)より転載 イラスト/死後くん
この質疑応答については、らもさんは他のエッセイでも触れていましたね。自身のアンサーを気に入ってらしたんだと思います。ボケに対してボケで返すという、いわゆるボケたおしが本当に面白くて笑ってしまうんですけど、一つ気になるのは、質問者がマジメに質問していたならば? というところです。本気で「死ぬのかどうか」と、もしも悩んでいた場合の質問者の、このらもさんの回答を読んだ時の苦悩を想うと…やっぱり笑っちゃうな。