相談1

なぜ妹だけ「お」がつかないの?

 娘はこのところ一つのことで悩んでいます。「お父さん、お母さん、お兄ちゃん、おじいちゃん、おばあちゃん。みんな『お』がつくのにどうして妹だけはついてないの?」「それはね、あなたよりみんな年上の人だからよ」。その日は不本意ながら納得したのですが、次の日「おとうと」の存在に気がついたのです。幼いながら、毎日考えるたびに不満はつのるばかり。まもなく六歳になる娘がニッコリ「わかった」と言える答えはないものでしょうか。

(栃木県・ふうちゃんのおかあさん)

らもさんの回答

「コトバの皮むき遊び」をして教えてあげましょう。

 たとえば、ピーナッツというものがあって、これには皮がついていますね。どうして皮がついているかというと、中の身を保護するためです。つまり、大事なものには皮をつけ守るわけです。その皮にあたるのが「お」なのです。

 お父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃんなどの「お」は「皮」ですから、これをむいて取っても中身は変わりません。父さん、母さん、じいちゃん、ばあちゃんで十分に通用します。

 でも、「おとうと」から「お」を取ると「とうと」になってしまって意味が通じません。「おじさま」なんかもっとひどくて、「じさま」ではお爺(じい)さんになってしまいます。

 つまり、これらの「お」は「皮」のように見えても実際はコトバの「身」なわけです。「おおおばさま」なんかの場合、これは一見何重にも皮に包まれたトウモロコシタイプのコトバに見えます。が、実は「ラッキョウ構造」になっていて、「皮」が「身」なわけですから、決してむいてはいけないのです。

 むいて遊ぶと面白いコトバに「おみおつけ」がありますが、これなんかが「トウモロコシ・タケノコ構造」の代表格ですね。

 今はムキ身の「いもうと」でも、年をとるにしたがって「お嫁さん」などの「皮」がついてくるもんだと言って安心させましょう。

 ただし、「おくさま」の「お」に関しては、あれは「渋皮」だ、という説もあります。

中島らも『明るい悩み相談室』シリーズ(朝日文庫)より転載 イラスト/死後くん

町田さんより

「明るい悩み相談室」を読んで感心するのは先ず質問がおもしろいこと。この質問もそうで、私たちが当たり前のこととして気にも留めない日常の言葉遣いに着目して、「そう言われれば」と思わされる。次に感心するのが、そのおもしろすぎて答えようのない質問に、世間の常識や法則とは次元の違う発想で、その上を行くおもしろさを創造して答えるところ。この質問と回答もそうで、言葉には皮と身がある、という奇想天外な発想で見事に回答、観客である私たちも思わず、「おおおー」とどよめくのである。