相談2

好きな人の名はいえません

 僕は小学六年ですが、好きな人ができたのです。しかし、相手は他の人から人気があり、とても不安です。その不安というのは五、六年男子から「Yのね~ 好きな人はね~ 〇〇なんだよ~」と言われること。不安な毎日です。どうしたらいいでしょうか。また、このことは先生にも伝わってるので、とても恥ずかしい毎日です。どうすれば、この不安から脱出できるでしょうか。好きな人の実名はのせません。すみません。

(東京・A・Y)

※編集部注:ご応募は実名ですが、ウェブ転載にあたりイニシャルでの掲載にさせていただきました。

らもさんの回答

 これは大人でも子供でも同じことで、人を好きになるというのは不安でつらいことなのです。たとえば僕は小学生のときに好きな女の子がいました。毎日、学校にいくのがうれしくてどきどきする半面、つらくもありました。僕は子供だったので、何をどうすれば自分の気持ちがうまく伝わるのかわからなかったのです。小学生の世界の中でその相手に面と向かって「好きだ」というのはたいへんなことです。よほど勇気があるか、破れかぶれで「どうなってもいいや」と思うか、それとも明日自分が転校することが決まっているか。友だちにはやされるのも覚悟のうえで、勇気を出して言ったとします。でも相手も自分のことを「好きだ」と思ってくれているかどうかわかりません。これは「好き」か「好きでない」かの五分五分の率ではなく「学年の男の子の人数」分の一の確率なのです。好かれている可能性は非常に低いわけです。それでも、もし万一相手が自分のことを好きだと言ってくれたとします。しかし、自分は子供です。何をどうすればいいのでしょう。

 そういうわけで、僕はその子を「いじめる」ことにしたのです。「いじめる」ことで気をひこうとしたのですが、ほんとうに嫌われてしまいました。これは子供がよくやる失敗です。好かれなくてもかまわないから、相手の子が喜ぶことをすればよかったのです。そして相手の喜びを自分の喜びである、と考えるようにすればよかったのだ、と今は思っています。

中島らも『明るい悩み相談室』シリーズ(朝日文庫)より転載 イラスト/死後くん

いとうさんより

子供の頃好きだった子にいじわるした話が複数回出てくるが、これは真面目に答えているバージョン。「好きだといじめる」というパターンを子供時代の美談みたいに語るノスタルジックな男というものは尽きないが、やられたほうからすればただのバイオレンスに過ぎないわけで、ここでも中島らもという人は「相手の喜びを自分の喜び」にすればよかった、と唐突に愛の深さをかいま見せてくれる。すべての子供にそう教えてあげたい。