人をかついで楽しむ癖に困る
大阪に出てきて三年になる大学生です。故郷山形の父は、僕が卒業したらすぐ帰ってきて自分の後を継げといってききません。しかし僕はどうしても父の後を継ぐのはいやなのです。というのは、父は「山伏(やまぶし)」だからです。若い身空でホラ貝持って歩く自分を想像するとゾッとします。助けて下さい!というのは嘘で、実はこうして人をかつぐ自分の嘘つき癖に困っています。エープリルフールが近づくともう体中がムズムズする僕なのです。
(大阪市・嘘つきビーター)
お気持ちはたいへんよくわかります。その傾向を多分に僕自身が持っているからです。先日も某新聞社の記者の方と話していまして、経済の話などをしているうちにまた虫がおこって嘘をつきたくなってしまいました。おさえようとしてもおさえきれないのです。
「○○シュレッダーの会社が手打ちソバの機械を出すらしいですね」
「え? そんなのは初耳ですが」
「ほう、記者の方でもご存じない? ○○シュレッダーというのは要するに書類を細く裁断する機械ですから、基本的にはソバ切り機と同じなんですね」
「なるほど」
「で、手打ちソバの細さのバラつきのデータをインプットしまして、機械で手打ちの舌ざわりのものを切れるシステムを開発したわけです。『お手打ちご麵』っていうんですがね」
「ほほう、こいつはニュースだ。ちょっと待ってくださいよ」
その記者の方がノートを取り出してメモを始めたので、さすがの僕も真相を言わざるを得ませんでした。おかげでお礼にタップリと首をしめていただきました。
断言しておきますが、この癖はなおりません。また、無理になおそうとしたりすると自分に嘘をつくことになります。僕も明日が楽しみで、今晩は眠れそうもありません。
中島らも『明るい悩み相談室』シリーズ(朝日文庫)より転載 イラスト/死後くん
らもさんの連載、朝日新聞大阪版掲載時から愛読者でした。回答者を経験した身としてはねたましいですねえ。一粒で二度おいしい、過去の回答が古びないばかりか、こうやって再利用されるなんて。いちばんねたましいのは、相談者とのあいだに共犯関係があることです。これっぽっちも悩んでなんかいないのに、どやっ、おもろいやろ、これに乗ってこんか……と言わんばかりの果たし合い。大阪人だけのノリかと思っていたら、全国区にウケたんですね。