いつもあんぜんぐつはくおとうさん
うちのおとうさんは、せっけいのおしごとをしていますが、げんばにもいくのでいつも「あんぜんぐつ」をはいています。さきっぽにきんぞくがはいっていておもいので、ねんざをしたこともあるのです。でも、みがかなくていいといって、もう五ねんぐらいはいています。けっこんしきにもクラスかいにもはいていくので、おかあさんは「ほしひゅうまじゃあるまいし」といっています。おしゃれなくつをはかすには、どうしたらいいでしょうか。
(ぐんま・へんぺいそくの子ども・6歳)
「あんぜんぐつ」は、ぼくも二ねんまえまで、いつもはいていました。パンク・ロックというおんがくをやっている、わかいひとにおしえてもらったのです。パンク・ロックのひとはみんなこの「あんぜんぐつ」をはいているのだそうです。これはもともと、こうじげんばで、てっこつがあしのうえにおちてきたときに、あしのほねがおれないようにつくられたくつです。さいしょはぼくもおもしろがってはいてみたのですが、そのうちにほかのくつをはくのをやめてしまいました。おとこのひとは、まんいんでんしゃのなかなどで、おんなのひとのハイヒールであしをふまれることがよくあります。いたいだけでなく、ひどいときにはほねがおれたりもしますが、あんぜんぐつをはいているとへいきです。また、なにかはらのたつことがあったときに、でんしんばしらなどをけりとばして、ぎゃくにほねをおることがあります。こういうときも、あんぜんぐつならだいじょうぶです。わるいひとにおそわれたときにも、このくつであいてのすねをけりとばせば、かんたんにかてます。けっこんしきにはいていったこともありますが、ちゃんとしたスーツをきていれば、それがあんぜんぐつだときづくひとはほとんどいません。ぼくが、あんぜんぐつをはかなくなったのは、むかしみた「てつわんアトム」のことをおもいだしたからです。あのなかに、アトムがおおきな「じしゃく」にすいつけられてくるしむというのがありました。てっこうじょなどには、てつのかたまりをすいつける、おおきなじしゃくのついたクレーンしゃがあります。ああいうもののそばをとおって、すいつけられたらこまるとおもったのです。でも、さいきんのあんぜんぐつは、てつではなくてプラスチックがはいっているそうなので、あんしんです。すきにさせてあげるのがいいとおもいます。
中島らも『明るい悩み相談室』シリーズ(朝日文庫)より転載 イラスト/死後くん
これ、すきです。6さいのこどものしつもんに、ぜんぶひらがなでこたえたかいとう。NHKのラジオばんぐみ、「こどもかがくでんわそうだん」をおもいだします。おとなにこたえるより、こどもにこたえるほうがずっと「げい」がいります。こどもに「パンク・ロック」がつうじるとはおもえませんし、きかれたおやがせつめいにこまるかもしれませんが、こどもにもわかる「てつわんアトム」のオチなど、うまいっ、です。