「おじさま」願望のアブナい十四歳
私はまだ十四歳だというのに中年が好きなんです。「おっちゃん」や「おじさん」ではなく、「おじさま」が。だから好きになる人は妻帯者ばかりです。これは困ったことだと思いますが、それがまた「おじさま」の魅力のひとつなんですよね。でも、今は一方的に好きな人でも、もし相思相愛になったら、「不倫」しちゃうと思います。これはアブナいと思うのですが、多少興味もあるんです。いったいどうすればよいのでしょう。
(兵庫・中三階級・14歳)
「おじさん」の世界に所属している僕の立場から、自信をもって断言させていただきますが、あなたの思っているような「おじさま」はこの世にはいません。この世には「おっさん」というのは掃いて捨てるほどいますが、「おじさま」なる生き物は存在しないのです。「嘘だ。現に私には好きなおじさまがいる」と反論されるかもしれませんが、それはあなたが何か勘違いをして、自分のファンタジーをその人に重ね合わせているか、それともその人が「おじさまぶったおっさん」であるか、そのどちらかです。その人のほんとうの姿は、「ズボンが傷むから」と大義名分をつけてステテコやパッチを愛用し、クシャミをしたら必ず「えい、ちくしょう」と言い、JRのことを「省線」と呼び、外人を見たらサインが欲しくなり、椅子にすわるときは「どっこいしょ」と言ってしまい、演歌ときりたんぽが好きで、坂田三吉と徳川家康を尊敬している、そういうただの「おっさん」なのです。
仮に百歩譲って、あなたが憧れるようなそういう素敵な「おじさま」がいたとしましょう。仮にいたとしても、ちゃんとした「おじさま」は十四歳の女の子と「不倫」したりはしないはずです。もし「不倫」したとしたら、それはロリータ・コンプレックスでしかも自分の欲望に対してだらしのない男です。そういう人を「素敵なおじさま」と呼ぶことはできませんね。
だから、どちらにしてもあなたの願望は「かなわぬ想い」なのです。早く大きくなって「おっさん」どもを悩殺するような「おばさま」になってください。
中島らも『明るい悩み相談室』シリーズ(朝日文庫)より転載 イラスト/死後くん
ときどき娘のおっぱいにさわりたい父とか、危ないネタが出てきます。まだ世の中が性暴力に寛大だった時代。らもさんの回答に、はらはらします。
この質問、ロリコンのオジサマが読んだらウハウハしそう。そこをらもさんは、ばっさり。おっさんを戯画化したうえで、14歳の少女を相手にするのは「自分の欲望に対してだらしない男」、そんな男を「素敵なおじさまと呼ぶことはできませんね」と。オチは「悩殺」じゃなくて「制圧」ぐらいにしてほしいですね(笑)。