すれ違いざまの暴言にショック
道ですれ違いざま、中年男に「ブス!」と言われました。私は自分では美人だと思っているので憤慨しました。帰って夫に話すと「子供だの、ばあさんは圏外だから声はかけない。ブスと言われても女扱いされただけマシだ」となぐさめられました。私はショックで夜も眠れません。夫のなぐさめは正しいのでしょうか。内心夫も私を「──」だと思っているのでしょうか。
(豊中市・脳天包丁の人妻・28歳)
最低のヤツですね。
ただ、その最低の質に二通りのケースが考えられます。ひとつは「ブス」の人に対して「ブス」と言う「心ない人間」型。もうひとつは「美人」にむかって「ブス」とののしることでザックリ傷つけてやろうという「知能的変態」型。どちらも最低さ加減においては甲乙つけがたいところがあります。
前者の典型的な人は以前電車で見たことがあります。
ガラ空きの電車に五十がらみのわりとインテリっぽい酔っ払いが乗ってきて僕の横に座りました。
前の席には髪の長い、モデルさんみたいな感じのお嬢さんが座っていました。酔っ払いはその人を見るなり、「ウーム。きれいだ。美人だ」と大声で叫びました。
女の人はいたたまれなくなったのでしょう。少しすると電車をおりてしまいました。酔っ払いの目は、ずーっと前の座席をなめていって、次に座っていた六十くらいのおばさんにあたると、ピタッと止まりました。僕は、まさかとは思ったのですが、酔っ払いは大声で言い始めました。
「やっ、おばはんだ! ブサイクなおばはんがいるぞっ!」
おばさんも気の毒に逃げ出してしまいました。
これが「思考ダダモレ型最低人間」の典型なのですが、あなたがあったのは後者の「知能的変態型最低人間」だと思われます。
きれいなものを見ると傷つけたくなる、いわゆる「晴れ着魔」みたいなヤツでしょう。そういう最低の人間に会ったら「最低!」とハッキリ教えてやるべきです。
中島らも『明るい悩み相談室』シリーズ(朝日文庫)より転載 イラスト/死後くん
中島らもは永遠だ!と言いたいシリーズ。これではらもさんの回答傑作編どころか全編採用しなければならなくなります。まずはこれ。でも答えは微妙にはずしています。「ショックで夜も眠れない」のは中年男の「ブス!」に対してじゃなくて、夫の反応の方なのにね。問題の核心は夫婦の危機!「最低のヤツ」は夫の方。らもさんのアドバイスどおり、夫に「最低!」と返したら、とりかえしのつかないことになるかも。らもさん、問いを交わしたのは、ご本人も「夫婦の危機」に悩んでいたからかも?