娘に言えないほんとうの年齢
私はほんとうは三十歳。でも娘たちには二十四歳。女は子供を産むとそのときから年をとらないのだ、と小さいころから教えてきました。六歳の長女はまだ信じていて、年の話をしていると「お母さんは二十四歳やね」と言ってくれます。悩みというのは、ほんとうのことがわかったときに子供の親に対する信頼が失われないかということです。でも、主人がほんとうのことを言おうとしているとやめさせます。父親ばかりを信頼し、母親不信になるのはいやだからです。
(金沢市・英子・30歳)
僕自身、かなり遅い時期まで「サンタクロースは実在する」と信じていた口ですが、なかにはもっとおく手の子もいました。
小学校四年くらいでしたか、サンタクロースは実はお父さんなんだというクラス中の説得に対して、泣きベソをかきながら抗議していた子がいました。
もちろん、みんなに大笑いされて、からかわれたのですが、その晩、その子のお父さんはさぞかし困ったことでしょう。
そこまでいかないうちに打ち明けるべきです。しかしその際、「ウソをついてました」 という表現はさけたいものです。
話は変わりますが、以前、久住昌之という人の書いた「納豆」に関するエッセーを読んで大笑いしたことがあります。
納豆が好物だという人は多いのですが、独り者の場合、通常の納豆のパックというのは量が多すぎてどうしても余ってしまう。それでみんな苦労するわけなのですが、久住氏の友人の一人の、この「余りぎみ納豆」への対処の仕方が少し変わっています。
彼はまず納豆を二つに分けて、片一方をご飯なしの納豆だけでズルズルッと食べ切ってしまいます。
そしてその食べてしまった半分は「なかったこと」にして、あらためて熱いご飯で納豆を食べるのだそうです。
あなたの場合、二十四に加わる六歳というのは「なかったこと」にしているわけで、「なかったこと」と「ウソ」は大ちがいなのである、と説得しましょう。
中島らも『明るい悩み相談室』シリーズ(朝日文庫)より転載 イラスト/死後くん
うう、つい言ったせりふが地雷になってしまった! 娘が14歳や15歳で妊娠しちゃったらどうするんでしょう。「だってお母さんが女は子どもを産むとそのときから年をとらないのだ、って言うから」と言われちゃいますよ。今からでも遅くありません。あれはモノのはずみで言っただけ、本当じゃないのよ、と取り消しましょう。というのが正しい答えです(笑)。