冗談きつすぎる娘の将来が心配
冗談とギャグのかたまりのような中学生の娘。朝出かけるとき「行ってきます」の代わりに「さあて、今日も男をひっかけてくるかっ!」と大声で玄関を出てゆきます。「家の者は冗談とわかっていてもご近所の人が本気にされたらどうするの。せめてもう少し小さい声で言ってちょうだい」と頼んでも「声のでかいのは親ゆずり。さあて今日も!」とますます大声をあげます。このままでは将来お嫁に行けなくなるのでは、と心配です。
(米子市・ほがらかすぎる娘に悩む母・36歳)
かしこい娘さんです。
それはギャグで言っているのではなく、いつの日かほんとに「男をひっかけ」るつもりでいるのです。そのひっかけた男を家に連れてきていきなり親に紹介したのでは親がビックリします。それで今のうちから徐々に慣らしていって耐性をつけていこうと。実にやさしい娘ごころです。
『招かれざる客』という映画がありましたね。スペンサー・トレーシー演ずる父親のところへある日娘がフィアンセを連れてくる。この「ひっかけられた男」がシドニー・ポワチエです。黒人なわけです。
黒人差別の意識の特に強い時代のアメリカですから、父親はオロオロするわけですが、そのあたりの愛憎を面白く描いた佳作でした。
娘さんの場合も、今からそうして伏線をはっているくらいですから、たぶん並たいていの男はひっかけないつもりなのでしょう。外国人が来るかもしれないし、外国人でなくても「モヒカン族」「ヘビメタ」「パンクス」などがいきなり「お父さん」と言って寄ってくると、ご主人もやはりかなりのショックでしょう。
「スモウ取り」をひっかける可能性もあります。ある朝、黒いベンツが家の前にとまり、中から相撲協会使者の親方たちがおりてきます。
「満場一致で『父親』に推挙されました。どすこいっ!」
そういうときは少しもあわてず「つつしんでお受けいたします」と言えるくらいの修練は積んでおきましょう。
中島らも『明るい悩み相談室』シリーズ(朝日文庫)より転載 イラスト/死後くん
らもさんの回答どおり「かしこい娘さん」です。今から「男をひっかける」訓練を毎日しているぐらいですから、「将来お嫁に行けなくなる」どころか、選ぶのに困るくらい、ひっかけてくるでしょう。「冗談とギャグのかたまり」は家庭の伝統。あなたが育てた娘です。帰ったら、「今日の収穫はどうだった」と訊いてあげましょう。「そいつは小物だね、もっと大物をひっかけていらっしゃい」と叱咤激励してあげましょう。